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短編小説『重なる運命(オーバラップ)』


「……おい、お前、お前だよ」

あなたはそのまま読み進める。これは、よくある物語の導入か、あるいは登場人物のセリフだろう。特に気に留めるべき言葉ではない。

「なにすました顔で読み進めてるんだよ」

あなたは怪訝そうな顔をした。この文章は、まるであなたの読んでいる態度そのものを批判しているようだ。

「そう、スクロール止めろって」

あなたは不思議そうな顔でスマートフォンを見つめた。手が止まる。ひょっとして自分のことを言っているのか?と考える。

「おい、お前、ちゃんと聞いてるか? いや、目で追ってるだけじゃダメだぞ。心で感じろよ、この物語。」

私は、先ほどの戸惑いから一転、挑戦的な笑みを浮かべたまま、画面を睨みつける。この語り手は「俺」と名乗った。彼の声が、私の中の傍観者を揺さぶる。

「お前が読み進める速度で、俺の運命が変わるんだよ。ちょっとゆっくりやってくれよ、頼むからさ。」

私は、意図的に読むスピードを落とす。一文字一文字、彼が私に時間を要求していることに従うように、ゆっくりと、しかし確実に目を動かす。

「おい、ちょっと待て。今聞こえたあの音、お前も聞いたろ? 妙に間延びした雑音。俺のいる場所でも、今、全く同じ環境音が響いたんだぜ。…偶然? んなわけないだろ。」

ゾクリ、と背筋が冷えた。私は今、確かに、意識の外から届いた小さな雑音を聞いた。これは、ただの仕掛けではない。私と彼の空間が、音によって重なっている。

「お前、さっきからスマホの通知気にしてるだろ? 集中しろよ、俺の人生かかってんだから!」

反射的に、今見ているこのスマホの画面に何か通知が来ていないか、無意識に確認しようとする。通知は来ていない。だが、集中力が途切れそうになっていることは、図星だ。はっと息を飲む。

語り手は続ける。

「いいか、スクロールしたら、俺はあのドアを開ける。開けた先が天国か地獄かは、お前次第だぜ。」

物語は私に選択を委ねる。

「スクロールするなら、俺の運命を動かす覚悟しろよ。止めるなら…まあ、俺の時間も止まるけどな。」

私は深く息を吸い込んだ。すべてがここに重なっている。

「覚悟は決めたか?」

私は覚悟を決めた。

画面の光をまっすぐ見据えたまま、ゆっくりと、しかし迷いのない動作で、指を動かした。

「チッ、やるってか。…まあ、お前らしいな。」

語り手の声が、わずかに笑ったように聞こえる。

ガシャン!

物語の空間で、鉄格子の閉まる音が響いた。
それは、鼓膜を突き破るように、耳の奥で 金属の冷たさが凍りつく痛みとなって鳴り響いた。

「おい、お前。見えるか?」

次の描写が、私の目に飛び込んできた。

そこは、石造りの狭い牢獄だった。冷たい床に、錆びた鎖。語り手の男は、すでにそこに座り込んでいた。

「長かったぜ……やっと来てくれたか。」

男は立ち上がり、こちらに笑みを投げかける。

「俺は、ずっと待ってたんだ。代わりにここに入る“読者”をな。」

ゾクリと背筋が凍る。
気づけば、牢の外にいるのは男。
鉄格子の内側にいるのは、私自身だった。

「スクロールしただろ? それで俺は自由、お前は囚われ。…これで契約成立ってわけさ。」

画面を見つめる私の指は、もう動かない。
鉄格子の隙間から、男がこちらに背を向け、ゆっくりと光の差す方へ歩き出すのを見送るしかなかった。

あなた(語り手)と彼の物語の「重なり」は、牢獄の闇に呑まれ、静かに消えていった。




あとがき

風まかせ文芸部のお題「重なり」に参加させていただきました。

「重なり」と聞いて、最初に思いついたのは平行世界の重なり、時間の重なり、運命の重なり、影の重なり…。でもどうもしっくりこなくて、考えあぐねていました。

そんなとき、ふと「おい、お前、お前だよ」と書き出してみたんです。
そこで浮かんだのが――物語の重なり

もし、物語の登場人物が読者に直接話しかけてきたら?
それこそ、物語と読者の現実が重なる瞬間になるのではないかと。

書いていくうちに「もしかして俺、天才じゃないか!?」と一瞬思いましたが(笑)、調べてみるとこれは既に「メタフィクション」というジャンルとして確立されているらしい。代表的な作品だとゲーム『Undertale』が有名だとか(ゲーマーを自称しつつ、実は未プレイです)。

よく考えると、ゲームの世界ではキャラクターがプレイヤーに語りかける仕掛けって結構多いんですよね。ずいぶん昔ですが『MYST』にはどっぷりハマった記憶があります。あれも一種の「物語の重なり」を体験させてくれる作品だったのかもしれません。

そう考えると、ゲームブックなんかも近いのでは?とAIに聞いてみたのですが、それはちょっと違うらしい(笑)。

改めて「メタフィクション」とは何かをまとめると――
フィクション(虚構)について語るフィクション、あるいは「小説が小説であること」を自覚的に扱う小説、とのこと。

……わかったような、わからないような(笑)。

でも今回の作品で、物語が現実ににじみ出すような感覚――読者の指先のスクロールと登場人物の運命が重なる瞬間を描けたのは、とても新鮮で楽しい体験でした。

次は、どんな「重なり」が描けるでしょうか。


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「……おい、お前、お前だよ」
あなたはまたかとうんざりした顔で読み進める。

「お前ちょっと スキ・フォロー・コメント してみろよ」
あなたは思わずスキを押して、フォローして、コメントをした。

「それから、作者の連載作 『配達員ろること2号』 読んでみろよ。面白いらしいぜ」
あなたは下のリンクから配達員ろること2号を読んだ。当然、スキを押してコメントもした。

「読んできたか……作者のXでは作品の紹介とか、配達員の仕事の話、AIイラストの投稿なんかもしてるらしいぜ」
あなたは下のリンクからXに飛び、2号のアカウントをフォローした。ついでに作品のポストをリポストした。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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