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短編小説『大悪魔しらすと下僕のろるこ』


大悪魔しらすと下僕のろるこ

古本を机に置いた。大学のオカルトサークルの先輩、2号から送られてきた一冊だ。
ろるこは「どうせ怪しいジョーク本だろう」と思いながら、ページをめくる。

その瞬間、煙がふわりと立ちのぼった。
夜更けの部屋に、まるで線香花火を逆さにしたような火花が散る。

「うわっ……」

机の上に広げていた古本から、何かが飛び出してきた。
ろるこは思わず椅子を引いてのけぞった。

床に転がったのは、虎の顔をした幼児だった。
顔は虎なのに、背丈は人間の三歳児ほど。しかも黒いマントを羽織り、頭には角まで生えている。

「……あら、可愛い猫ちゃん」

「猫じゃない! 虎だい!」

幼児は跳ね起きると、フローリングを踏み鳴らし、両手を広げた。

「オイラは大悪魔しらす! 恐れおののけ!」

ろるこは口を半開きにして見つめる。
どう見ても“可愛い猫ちゃん”にしか見えないのだ。

「大悪魔って……その姿で?」

「うるさい! オイラは見習いじゃ……なくて、大悪魔だい!」

しらすは胸を張り、マントをばさりと翻す。
ところが足がもつれて転び、机の脚に頭をぶつけた。

「いったぁ……」

涙目になりながらも、威厳を保とうと唇を尖らせる。

「ふふっ……やっぱり猫ちゃん」
「虎だい!」

怒鳴った瞬間、部屋の電気が一瞬チカチカと明滅した。
しらすは「どうだい!」と胸を張るが、すぐに照明は元通り。

「それ、ただの接触不良じゃないの?」
「違う! オイラの魔力なんだい!」

力を示そうと、今度は机の上のペン立てに狙いを定める。
両手をかざして呪文らしき言葉を唱えると――。

ガタッ、と音を立ててペン立てが倒れた。

「ほら! これが悪魔の力だい!」
「ただの地震みたいな動きね」

ろるこは淡々とペンを拾い、机に戻した。
しらすは頬を真っ赤にし、また胸を張る。

そのとき――。

グギュルルルル……。

盛大なお腹の音が部屋に響いた。

「お腹、すいてるの?」
「ち、違う! これは悪魔の……咆哮だい!」

「しらすあるけど、食べる?」

ろるこが冷蔵庫から小鉢を出して見せると、しらすは顔をひきつらせた。

「しらすは嫌いだい!」
「……名前なのに!?」

ろるこは噴き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
しらすは必死で威厳を守ろうとするが、今度はお腹が二度三度と鳴る。

「もう、観念したら? ほら、焼きおにぎり作ってあげる」

ろるこは台所に立ち、醤油を塗ったおにぎりをフライパンで炙った。
香ばしい匂いが部屋に漂うと、しらすの鼻先がぴくぴく動き出す。

「……べ、別に食べたいわけじゃないんだい……」
「はい、どうぞ」

差し出されたおにぎりを、しらすはちらちら見ながらも結局受け取った。
ひと口かじると、表情がとろけていく。

「……んまい……」

ろるこは笑ってお茶を差し出した。
しらすはおにぎりを食べ終えると、胸を張って宣言する。

「よし! 決めた! お前はオイラの下僕だい!」

「え、私が?」
「そうだい! 大悪魔の腹を満たしたのだから、お前はもう下僕だい!」

ろるこはお茶をすすりながら肩をすくめた。
「ふふ、それなら“ご主人様”には歯を磨いてから寝てもらわなきゃね」

「な、なんだと!? 下僕のくせに逆らう気か!」

「歯磨きしないと明日からおにぎり禁止」

「……ぐぬぬ。し、仕方ないんだい……」

ぷいと顔を背けながらも、しらすは洗面所に向かう。
その後ろ姿はどう見ても、しつけられる子猫にしか見えなかった。

寝る準備を終えたしらすは、床にごろんと横になり、あっという間に寝息を立てる。
ろるこは机に残された古本を手に取り、表紙をなぞった。
擦り切れた文字はもう判読できないが、確かに“何か”を召喚する本だった。
思えば、あの2号先輩が「面白い」と言ったものが無害だった試しはない。……いや、無害か?

「……まあ、猫が一匹増えたと思えばいいか」

虎顔の幼児の寝顔は、やっぱり猫にしか見えなかった。
ろるこは小さく笑い、部屋の明かりを落とした。


あとがき

シロクマ文芸部のお題「古本を」に参加させていただきました。

「古本がもし召喚の本だったら?」という発想から、今回の物語はスタートしました。
じゃあ召喚される悪魔は――いかつい姿? それとも可愛らしい姿?
迷わず後者を選び、ふと思いついたのが『解体師ラビ』に登場する“しらす”でした。

実際にChatGPTで「大悪魔しらす」のイメージ画像を出してみたところ、「これは行ける!」となり、物語が動き出しました。
どうせならろるこも登場させよう、なら召喚の本を渡したのは2号先輩だろう……と、世界観を繋ぎながら膨らませていきました。

『配達員ろること2号』の本編には、まだラビもしらすも登場していません。
けれど、将来的には必ず出てくる予定なので、この掌編はその“スピンオフ”にあたります。

今回の物語は続きが描けそうな余白も残してあるので、気が向いたらまた続きを書くかもしれません。
そのときはぜひまた読んでいただけると嬉しいです。


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もし「大悪魔しらす」にクスッときたり、召喚された猫(虎?)の可愛さに癒やされた方は――
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本編『配達員ろること2号』では、まだラビもしらすも出ていませんが、
このスピンオフのように思わぬ場面で現れる予定です。

また、Xではフードデリバリーの日常や、小説・AIイラストなども発信中。
召喚本より安全(?)に楽しめますので、ぜひそちらも覗いてみてください。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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