短編小説『漫才の途中で懺悔するヤツ』#邪道な僕さ #アマノ文筆クラブ

漫才の途中で懺悔するヤツ
楽屋のテレビでは、売れっ子芸人の漫才がBGMみたいに流れていた。
その笑い声を聞きながら、イチノセが水を一口飲んで、吐き出した。
「緊張して吐くやつはおるけど、飲んで吐くやつは初めて見たわ」
「おまじないや。出すもん出しといたらスベらんねん」
俺は笑いながらも、指先が震えていた。
出番前の楽屋。
照明の熱、観客のざわめき、胸の鼓動。
今日やるネタのタイトルは『邪道な僕さ』。
賭けに近かった。
ステージに出ると、拍手の波が押し寄せる。
「どうも、《ネジ曲がり》です!」
ライトの中でイチノセがニヤリと笑う。
「俺、昔からヒーローになりたかってん」
いつも通りの第一声。
客席が軽くざわめく。
俺が返す。
「お、また病気出たな。どんなヒーローやねん」
「“ごめんヒーロー”や」
「謝るんかい!」
「悪者倒しても“ごめんな”って言うねん。相手にも事情あるやろ?」
「どんな正義の味方やねん!」
客席がドッと沸く。
テンポは悪くない。
でもイチノセの目は、どこか遠くを見ていた。
「でもな、ほんまの俺はヒーローやなかった。
あの時、友達が殴られてても、見て見ぬフリした。
怖かってん。ヒーローごっこは終わったと思った」
その瞬間、俺は思った。
――ネタのタイトル通りになっちまった。
“邪道”が始まった。
空気が一瞬、沈む。
笑いが止まる。
「それが俺の正義やったんや」
「……お前、なんで漫才で懺悔してんねん」
「邪道な僕さ。でも、生き残ったのは俺や」
ざわつく客席。
どこで笑っていいかわからない。
でも誰も帰らない。
イチノセは一歩前に出て、
「そいつにな、今なら助けるって言いたい。
けどもう遅い。
だからせめて漫才で謝るわ。……“ごめんヒーロー”や」
「いや、ここで謝られても困るやろ」
「ええねん、今ならウケるかもしれん」
「ウケるか! ただの再犯や!」
笑いが少し戻る。
「なあハヤシ、人って正しいこと言うのは簡単やけど、
正しい顔して生きるのはしんどいな」
「真面目か。お前誰目線でしゃべってんねん」
「“道徳の教科書”の裏や」
「裏に何書いてあんねん」
「“正義はたまにウザい”って」
「誰がそんな落書きしたんや」
笑いが広がる。
イチノセは少しだけ笑って、続けた。
「でもな、正義ってな、白と黒で分けられるほどきれいちゃうやん。
グレーゾーンで滑って転けて、
その跡が道になるんやと思うねん」
「急に詩人か!」
「“ポエムヒーロー”や」
「弱そう!」
客席にもう一度笑いが走る。
イチノセがマイクに寄って、静かに言った。
「それでも、誰かが笑ったら、それでええやん」
「おい、締めにかかるなよ。まだ二分あるぞ」
「え、そんな長いん?」
「お前がポエム始めるからや!」
笑いが起こる。
その流れでイチノセがニヤッと笑った。
「……まぁええか。俺らみたいなん、正義の味方にはなれんけど――」
「そもそも味方おらんやろ」
「せやけど、笑いにできるなら、それも正義や」
「お前のは歪んどるだけや!」
イチノセが少しだけ笑って、マイクを見た。
「つまりやな、これが――邪道な僕さ!」
「ヒーローどこいってん! もうええわ! ありがとうございましたー!」
客席が爆発するように笑った。
拍手と歓声の中、照明がゆっくり落ちていく。
舞台袖に戻ると、二人とも黙って缶コーヒーを開けた。
シュッという音が、さっきの拍手の続きみたいに響いた。
「俺ら、まっすぐにはなれへんけど」
「そやな。“ネジ曲がり”やからな」
二人で笑った。
その笑いは観客のいない場所でも、
確かに生きていた。
あとがき
アマノ文筆クラブのお題「邪道な僕さ」に参加させていただきました。
このお題は「お題そのものをタイトルにする」という縛りの強い企画。
最初は真っ当にタイトルに据えようかと思ったんですが――
ふと、「そのルールを破ることこそ“邪道”なんじゃないか?」と、悪いひらめきが降りました。
つまり、「邪道な僕さ」をタイトルにしない僕こそ、邪道な僕さ。
そこから物語づくりが始まりました。
……が、書き進めるうちに「さすがに完全スルーはマズいな」と冷静になりまして(笑)、
最終的にはタイトルの後ろにハッシュタグで「#邪道な僕さ」「#アマノ文筆クラブ」を入れてバランスを取りました。
物語の中では、漫才コンビ《ネジ曲がり》が披露するネタのタイトルを「邪道な僕さ」に設定。
舞台の上で懺悔を始める相方――という“邪道な漫才”を描くことで、
お題に逆らいながら、お題そのものを笑いに変える――そんな邪道を書きました。
笑いの裏にある懺悔、舞台裏の人間臭さ。
少しでも感じてもらえたらうれしいです。
🎤 宣伝パート
邪道だと思った人は――スキ!
正道だと思った人は――フォロー!
そして「昔ヒーローになりたかった」人は、ぜひコメントで教えてください。
漫才の幕は下りても、拍手の音はあなたの指先から届きます。
イチノセとハヤシも、きっと楽屋で缶コーヒー片手に「ウケたな」って笑ってるはず。
ちなみに、連載中の『配達員ろること2号』では、
バイクで街を駆け抜ける“もうひとつの漫才”が進行中です。
デリバリーと人生、どっちも予定調和では終わらない。
よければ、次の出番も覗いてみてください。
Xでは、フードデリバリーの現場話や小説の舞台裏、
そしてAIイラストで描くキャラクターたちを発信しています。
舞台の外でも、一緒に笑ってもらえたら嬉しいです。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、
特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
いいなと思ったら応援しよう!
無理のない範囲で応援いただけたら嬉しいです。
チップはnote更新や資料費にあててます。
読んでもらえるだけでもありがたいっす。