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短編小説『祈りのプロトコル ―星に届く声―』


祈りのプロトコル ―星に届く声―

祈りが、地球最後の通信手段になった。

かつての通信網は、戦争で焼け落ちた衛星群と、太陽嵐に焼かれた中継軌道で途絶えた。
ユウトの暮らす集落でも、食料は配給制になり、夜には街灯もほとんど灯らない。
人々は孤立した島のように生き、ただ《オラクル》を通じて祈りを投げることで、かろうじて世界と繋がっていた。

《オラクル》は、元は軍事観測AIだった。
人の声や脳波を拾い、声紋を解析して微弱な信号へ変換する。
それはやがて、ただの「通信」ではなく、祈りの代替として機能するようになった。
意思を持たぬはずの機械だが、夜空に散る声を拾い続ける姿は、孤独な人類の記録者のようでもあった。

ユウトもまた、祈りを投げていた。

行方不明の姉、ミナの名を。
あの日、避難船に乗ったはずの姉は戻らなかった。
記録には「消息不明」とあるだけ。

それでもユウトには残っている。
幼い夜、毛布にくるまり流星群を数えた記憶。
「百個見つけたら、宇宙に願いが届くんだよ」と笑った姉の声。

毎晩、彼は錆びたベランダに立ち、星空へ祈りを投げた。
「ミナ姉、聞こえるか。俺はここにいる」
祈りは虚空に溶け、《オラクル》に吸い込まれ、星々のノイズに紛れるだけだった。

──その夜までは。

古いスピーカーがカチリと灯り、ノイズの奥から声が滲み出した。
『ユウト……まだ、そこにいるの?』

息が止まった。
その声は、間違いなく姉のものだった。
優しい響きに、深宇宙を漂う疲労と恐怖が混ざっていた。
計器の点滅音と自分の呼吸だけを友に、孤独に耐えてきた声。

「姉ちゃん! どこにいるんだ!?」

断続的な言葉が、ノイズに削られながら届く。
『……宇宙船……漂流……ブラックボックスが……同期……《オラクル》が……増幅……でも、生きてる……』

その途切れ際、胸の奥に熱いものが走った。
返答は途絶えたが、確かに姉は生きていた。

ユウトは拳を握りしめ、震える声で叫ぶ。
「大丈夫だ、姉ちゃん。俺は祈る。何度でも!」

夜空に瞬く星々は、もう通信回線ではない。
だが、祈りは確かに繋がっていた。
《オラクル》が捉えた信号は、姉がまだどこかで息をしている証だった。

ユウトは空を見上げ、深く息を吸い込む。
「待っててくれ。俺、祈るだけじゃなく、必ず行くから」

──祈りは次の行動へと変わり始めていた。


あとがき

シロクマ文芸部のお題「祈ること」への3本目の参加作品です。

「祈りが地球最後の通信手段になったら?」というアイデアから膨らませてみました。
戦争や太陽嵐で壊滅した通信網の残骸、そして軍事AIから転用された《オラクル》。
大きな舞台設定はありますが、今回描きたかったのはあくまで「祈りが届く瞬間」。
設定は匂わせ程度にして、ユウトと姉の声が交わる場面を中心にしました。

せっかく作った世界観なので、そのうち別の短編や続編で《オラクル》や宇宙漂流の部分を掘り下げたいと思っています。
祈りって、無力なはずなのに人を動かす力を持っていて──そこが面白いなあと改めて感じました。

もし少しでも「届いた」ものがあったら、スキ・フォロー・コメントしてもらえると作者の祈りも叶います。

連載中の『配達員ろること2号』も合わせて読んでいただければ、祈りが高額案件に化ける……かもしれません(笑)。

Xではフードデリバリーの話を中心に、小説やAIイラストも投稿していますので、気軽に覗いてみてください。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、
特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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