それでも好きだって言えなかった。

 ある夏の暑い日、少しだけ涼しい中学校の体育館の入り口で初めて話しかけられた。

「ちょっと、女バスを嘗め回すように見るの止めてもらえない?」

 俺はバレていたことが衝撃で何の言い訳もできぬまま言葉のした方を向いた。そこには髪をポニーテールにくくった地味な顔の女子がいた。いたずらに成功したような、もしくは男子の下心を完璧に分かっていますよとでも言いたげな顔でその女は言葉を続ける。

「めちゃくちゃ動揺するじゃん。ねぇ、誰が好きなの?」

 特段お気に入りの女子がいるわけではない。男子バスケ部に所属している身として、市場視察というか、女子バスケットボール部のシュートフォームが男子バスケ部と違うから、物珍しさに見ていただけだ。いや、本当は揺れてるなぁとか思っていたんだけど、そんな視線に当人でもない人が気付けるわけがない。

「言うわけない。てかおらんしっ」

 冷静を装っていたものも、今思うと言葉も態度もガキそのもの。その態度が妙にウケてラインを交換して連絡を取り合う中になった。別の友達に送るはずだったラインをたまたま送ってきたりして、とにかく彼女とは妙に気が合った。くだらない話を面白い話に仕立て上げる才能が彼女にはあって、返事をする時間の駆け引きなんかも生意気にしてみたりした。今思うといい感じの相手として見てくれていたのだろし、ワンチャンあったかもしれない。

 時は流れて同窓会、憂鬱ながらも人生初の体験として、行くことにした。中学の時から眩しかった奴がそのまま大学生になってて、予想通りの展開に幹事に、来なければ良かったと思っていた。そんな時にふと目に留まった女性がいた。面影がありすぐに誰だか分かった。中学の時に仲良くしてくれていた彼女だ。

 平均的な顔は整った顔とか、地味な子は化粧で化けるとか、そういう言葉が初めて実態を伴って目の前に現れた。髪型はセミロングのストレートで黒、就活の苦労が少しだけ滲み出ているように感じて、親しみを覚えた。

 目が合った。

 だけだった。別に、話しかけてくれるわけでもなく、話しかけに行くわけでもなく、ラインを送る仲でもなくなっていたし、当然で自然なんだが、不思議な喪失感を覚えた。つつがなく同窓会は終わり、二次会に行く気分でもなかったので、そのまま帰った。

 家に帰って、ビールを一缶吞み切って寝た。

#創作大賞2025 #オールカテゴリ部門


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