松葉杖でも、お母さんはやって来た
初めての子どもを妊娠したとき、
お母さんも、
初孫の誕生を楽しみにしていた。
一緒に子どものものを買いに行ったり、
産まれたら、
しばらく実家でお世話になるつもりでいた。
そんなある日、
実家にいると、
お母さんの、
聞いたことのない声が聞こえた。
お母さんのもとに駆けつけると、
サンダル履きのまま、
外の水道の近くで、
お母さんが倒れていた。
我慢強いお母さんが、
険しい顔をしていた。
すぐに、
ただ事ではないとわかり、
叔父と叔母が、
病院へ連れていった。
お父さんは、
こんな時も不在だった。
いつも、
ふらふらと出かけている人で、
当てにしたことはなかった。
帰ってきたお母さんは、
足を石膏で固め、
松葉杖をついていた。
帰ってきたお母さんに、
思わず言った。
「もう、
何やってるの」
私は、
怒っていた。
お腹も大きくなり、
不便なことも増えていた。
お母さんに、
頼るつもりでいた。
それからお母さんは、
骨折した足をかばいながら、
家事を続けていた。
お父さんにも、
お母さんを助けるように言ったが、
変わることはなかった。
月日が経ち、
実家にいるとき、
陣痛がきた。
最初は、
これが陣痛なのか、
よくわからなかった。
夫の車で、
病院へ向かった。
お母さんは、
「あとから行くね」
と、
叔母たちと一緒に、
そう言っていた。
病院に着いてから、
破水して、
そのあとは、
あまりの痛みに、
記憶がほとんどない。
無事に、
子どもが産声をあげた。
ほっとして、
急に眠気がきた。
病室を出ると、
お母さんと、
義理の母が、
並んで待っていた。
看護師さんに、
おっぱいをあげてみてください
と言われたけれど、
義理の母の前では、
少し恥ずかしかった。
子どもが生まれて、
ほっとしたのもつかの間、
体調が優れなかった。
寒気がして、
喉も痛い。
熱が出た。
夜になると、
看護師さんが、
「授乳の時間ですよ」
と、
赤ちゃんを連れてきた。
可愛いと思う反面、
体調は優れず、
おっぱいも、
なかなか出なかった。
少し、
気分は、
沈んでいた。
お母さんには、
足を骨折しているから、
病院には無理して来なくていい、
家で待っていてほしいと、
伝えてあった。
数日後、
新生児室にいる
赤ちゃんを
部屋に連れてこようと、
病室を出た。
カタン、
カタン。
聞き覚えのある音が、
近づいてきた。
廊下の遠くから、
肩に大きなバッグをさげて、
松葉杖をついたお母さんが、
こちらに向かって、
歩いてきた。
お母さんは、
私を見るなり、
「あっ」
と、
笑った。
「えっ、
大丈夫なの」
そう言いながら、
目の端に、
涙がにじんだ。
お母さんは、
私に近づいてきて、
言った。
「運転は、
右足だから大丈夫。
来てみたよ。
赤ちゃんは、
きっと大丈夫だろうけど、
あんたが、
心配だったから」
お母さんは、
何も言わなかったけれど、
わかっていたのだと思う。
もう、
そんなこといいのに、
そう思いながら、
お母さんの顔を見て、
ほっとした。
お母さんは、
一緒に買いに行った、
退院のときに使うおくるみを、
バッグに入れてきていた。
お父さんは、
一度も病院には来なかったけれど、
退院した日、
お刺身を買ってきてくれた。
母は、
歳をとり、
少しずつ、
歩くのが遅くなった。
でも、
その背中を見ながら、
ふと思った。
今度は、
私が、
支える番なのだと。
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