天然な父と、それに振り回される家族の物語
父は、
少し変わっている。
出かけるとき、
なぜか必ず、
嘘をつく。
「ガソリンを入れてくる」
そう言って出ていくのに、
帰ってくるのは、
いつも遅い。
日曜日なのに、
「病院へ行ってくる」と言って、
出かけてしまう。
外食に行くと、
ステーキの焼き方は、
「ぬるめ」で頼む。
ラーメン屋に行けば、
餃子ではなく、
なぜか、
ラーメンにラー油を
たっぷりかける。
とんかつ屋では、
ごまをすらずに、
そのまま、
ご飯にかける。
納豆ご飯が大好きで、
一杯目に、
納豆を全部かけてしまう。
だから、
二杯目には、
かける納豆がない。
お寿司を、
私にくれようとして、
なぜかテーブルに、
そのまま置く。
結婚の挨拶で、
少し緊張した空気の中、
父は、
会話に入ることもなく、
黙々と、
食事をしていた。
付き合って間もない旦那の前に、
ももひきのまま、
平然と現れる。
よく見ると、
黄色い輪じみが、
ついている。
ご飯中でも、
あぐらをかいている。
そして、
わざわざおしりを浮かせて、
オナラをする。
ご飯を食べていると、
自分の周りだけ綺麗にして、
なぜか私の方に皿を寄せてくる。
週刊誌を、
たくさん読んでいるのに、
なぜか、
袋とじは、
開けない。
テレビで野球を見ているのに、
なぜか途中で、
お風呂に入ってしまう。
テーブルに指を置いて、
ピアノも弾けないのに、
ピアノを弾くまねをしている。
冬になると、
はんてんを着て、
そのすそで、
鼻をふく。
瓶の牛乳を、
なぜか、
最後まで飲みきれない。
パチンコの景品は、
決まってぬいぐるみ。
車の後ろには、
缶コーヒーが
たくさん転がっている。
歯はあまり磨かないのに、
薄くなった髪は、
きちんと整えている。
小さい頃、
社会が得意だと言うので、
地図記号を聞いてみた。
すると、
わかったのは、
温泉マークだけだった。
「アイスとシャーベット、
どっちにする?」
と聞くと、
父は、
迷わず、
「アイスコーヒー」
と答えた。
孫をあやすとき、
変な顔をしているつもりらしいが、
なぜか、
普通の顔のままで、
声だけが大きい。
孫を抱っこして、
あやしているのに、
なぜか、
旦那の名前を呼んでいる。
旦那は、
何も言えない。
小さい頃、
幼稚園の帰りに、
父におんぶしてもらったことがある。
少し恥ずかしかったけど、
少し、
嬉しかった。
父なりに、
一生懸命だったのかもしれない。
父と行った、
ラジオ体操。
父の車で走った、
あの道。
ステーキ屋に行くと、
父の言葉を思い出す。
瓶の牛乳を見ると、
父の飲んでいた牛乳を思い出す。
孫はもう、
抱っこできないほど、
大きくなった。
朝ごはんの納豆が、
少しだけ、
特別に感じる。
そんな父との時間は、
今思うと、
とても豊かな時間だったのかもしれない。
