参加したセミナーの内容が吹き飛んだ話【体験談】
若いころに社員数名で隣県のセミナーに参加したときのことです。
事前の案内で「セミナー終了後、出席の証として自分の名前のハンコが必要」と告知されていました。
当日、車で会場に向かっていると、到着間際に後輩の桜林くん(仮)が、
「ハンコ忘れました」
結構慌てています。
私は「まあ、なくてもなんとかなるだろう」と軽く考えていましたが、会場に着いて受付を済ませても、彼の様子は落ち着きません。
「どうしよう、どうしよう」
その気持ち、分からなくはありません。
入社1年目、2年目の頃って、ちょっとしたミスがとんでもないことのように感じるものです。
とはいえ、そこまでテンパらなくても・・・と思っていた私の横で、彼はセミナー中もそわそわ。
内容なんてまったく耳に入っていない様子です。
午前の部が終わり、昼休みに入りました。
みんなが席で弁当を食べている中、彼が急に立ち上がって言いました。
「近くにダイソーがあったので、ハンコ買ってきます!」
そう言って出ていきました。
もはや、ハンコがないと昼食も喉を通らないようです。
残ったメンバーで昼食をとっていると、誰かがぽつりとつぶやきました。
「“桜林(さくらばやし)”なんて珍しい苗字のハンコ、ダイソーにあるかな?」

確かに。いや、たぶん、絶対ない。
そのうち、絶望的な顔をした彼が戻ってくるんだろうなと思いながら、私たちは何とも言えない気持ちで彼の帰りを待っていました。
15分ほど経って、戻ってきた彼の表情は、まさかの満面の笑み。
「えっ、“桜林”のハンコあったの!?」とみんなが驚いて聞くと、彼はこう答えました。
以下、会話の再現です。
桜林くん(仮)「いや、ありませんでした。」
皆「?」
皆「無かったの?」
桜林くん(仮)「はい、でも“桜木(さくらぎ)”はありました。」

皆「??」
皆「桜木?」
桜林くん(仮)「はい、桜木です。」
皆「・・・でも、あなたは“桜林”だよね?」
桜林くん(仮)「はい、“桜林”です。」
皆「じゃあ、なんで“桜木”を?」
桜林くん(仮)「だから、“林(はやし)”も買ってきました!」

皆「???」
皆「えっ?なんで?」
桜林くん(仮)「?」
皆「?」
桜林くん(仮)「!?」
桜林くん(仮)「・・・だから、“桜木”と“林”を重ねて打てば、“桜林”になるじゃないですか!」
皆(しばし沈黙)
・・・
・・・
皆「いやいや、何言ってんの!」
桜林くん(仮)「いいアイディアでしょ? 最初“桜林”がなくて絶望したけど、これを思いついたんです!」
皆(再び沈黙)
・・・
・・・
皆「・・・それに、ハンコを二つ重ねてもうまく“桜林”にはならないでしょ」
桜林くん(仮)「なりますよ!打ってみますね!」

桜林くん(仮)「あーーーー、“桜森(さくらもり)”になってしまったーーーーー、最悪だー」
皆「いやいや、ハンコって重ねて打っちゃダメなんだよ!」
桜林くん(仮)「えっ、そうなんですか?」
午後のセミナーも、そんなハンコ騒動の余韻を引きずったまま、彼は終始落ち着きませんでした。
結局、受付で「ハンコを忘れました」と伝えると、スタッフの方が笑いながら、
「大丈夫ですよ。サインで結構です」
拍子抜けするほど、あっさり解決しました。
今では若かりし頃の良い思い出です。
そして何よりも、この出来事のインパクトが強すぎて、私も「桜林くん(仮)」も、セミナーの内容はまったく覚えていないというのは、言うまでもありません。
