次世代のIPエコシステムを創出し、企業とタレントをつなぐ「Wunderbar」
DEEPCOREが出資する株式会社Wunderbar(ヴンダーバー)は、タレントの素材を広告に利用できるサービス「Skettt(スケット)」を展開しています。同社がいかにしてこのビジネスを確立したのか、そして、どのように事業を成長させていくのか。
今回は、Wunderbar代表取締役CEOの長尾 慶人さん、弊社キャピタリストの左 英樹と池田 愛和に、事業の転換期とこれから描いている将来像について伺いました。
<鼎談者>
株式会社Wunderbar
代表取締役CEO 長尾 慶人(Keito Nagao)
DEEPCORE キャピタリスト
左 英樹(Hideki Hidari)
池田 愛和(Yoshikazu Ikeda)
タレントと企業のマーケティングを支えるエコシステム構築への挑戦
──Wunderbarの事業について教えてください。

長尾:現在のメイン事業は、タレントの素材を広告に利用できるサービス「Skettt(スケット)」です。一から撮影することなく、事前に撮影済みの「素材」を活用することで、従来のタレント起用と比較し、コストを抑えてすばやく柔軟に企業のマーケティング活動に利用できる点が最大の特徴です。
このサービスの背景には、私たちが掲げている「次世代のIPエコシステムを創る。」というミッションがあります。毎年、IPはものすごい勢いで増えており、競争が激化しています。そうした厳しい環境にあるIPを支える仕組みが、今の日本にはほとんどありません。
実際に、広告業界の案件は、人気のアニメやタレントに依頼が集中してしまいます。しかし、私たちが着目するのは、テレビや広告での露出が多いタレントに限らず、全国的な知名度や実績を持ち、長年にわたって活動を続けてきたタレントです。
こうしたタレントは、起用コストを適切にコントロールしながらも、知名度に裏打ちされた十分な訴求力を発揮できる。また、これまでの出演歴やキャラクターのほか、培われてきた信頼といった“確立された価値”を活かすことで、企業にとって費用対効果の高いマーケティング施策が可能です。そのため、広告との親和性が高く、目的に応じた柔軟なコミュニケーションが実現しやすいのです。

左:私は広告代理店出身なので、芸能事務所との仕事の難しさは身をもって知っていますが、芸能事務所の攻略は、世の中のさまざまなビジネスの中でもかなり難易度が高いんです。その中で長尾さんがこれまで何十もの事務所を巻き込んでプラットフォーム上に多様なタレントを置き、広告主のマーケティング課題に生かせているのは、本当にすごいことだと思います。
──長尾さんのルーツについても教えていただけますか。
長尾:私は小学校の頃から、相手を観察して気持ちを察するタイプでした。その後、ジュノンボーイコンテスト入賞をきっかけに芸能事務所に所属し、俳優を目指しましたが、紆余曲折あり、16歳で芸能界を諦めました。高校を中退してからは、光通信系の会社でひたすら営業職に没頭していましたね。

左:投資検討プロセスにおいて長尾さんと向き合う中で、観察力が非常に優れている方だと感じていました。例えば、この広い会議室の中でも、“誰がどこに座って、どういう表情をして、どういった発言をしたか”を細かく見ているんです。こうした観察力は、幼少期から備わっていたんですね。
長尾:ありがとうございます。私自身は学歴がない分、多くの痛みを経験しながら這い上がってきたことが大きく影響していると思います。相手の立場や背景にかかわらず、その人の戸惑いやもどかしさに共感できる。だからこそ、相手を責めるのではなく、できるだけ分かりやすく伝えることを心がけています。
失敗から学んだエンタメ業界と芸能事務所へのアプローチ方法
──Wunderbar創業後に、実は失敗した事業があったと伺いました。
長尾:そうですね。コロナ禍の際、知り合いのタレントから「仕事がない」と連絡をもらったことをきっかけに、アメリカで流行していた「CAMEO(カメオ)」というサービスの日本版として「VOM(ヴォム)」を立ち上げました。これは、タレントがスマホで撮影した動画をファンに販売できるサービスです。
しかし、芸能事務所からは続々とNGが出て、わずか半年でサービスを終了することになりました。動画の届く先が不明瞭であることのリスクや、タレントの手残りの少なさ、サイト上での金額の一覧表示による安売り感が大きな理由でした。アメリカはエージェント制なので、タレント本人が多くの決裁権を持っていますが、日本の場合は芸能事務所の裁量が大きく、そうはいきません。トラクションは良かったのですが、タレントが参画しにくい。持続可能なシステムではなかったのです。
左:芸能事務所のさまざまな要望に応え続けることは、非常に難易度が高いですよね。
長尾:サービス終了してすぐに、次はどうすればいいのかを考えました。新サービスの「Skettt」は、素材提供サービスとして、サイト上のタレントごとの金額を非表示にしました。地方中小企業がタレントを起用したくても高くてできない、どこに相談すれば良いのか分からないといった悩みを解決するサービスとして打ち出すことで、事務所には社会貢献という側面が生まれると考えたからです。
また、重要だったことは、最初にどのタレントに登録してもらうかでした。アーティストや女優の方々から登録を進めたことで、幅広いタレントに参画していただけるようになりました。
左:戦略的にタレントを並べている点は強みだと思います。
長尾:特にエンタメ業界では、一度失敗すると、業界内であまりよく思われず、それ以降は話を聞いてもらえないことも多い。もう一度話を聞いてもらうために、相手が何に課題を感じているか、興味関心はどこにあるか、熱量はどの程度なのかなど、あらゆるものを洞察していきました。そこは大きな転換点だったと思います。
左:芸能事務所の攻略は非常に難易度が高いとお話しましたが、長尾さんが成功している理由は、人間力とビジネス視点の掛け算にあります。エンターテインメント業界のマーケティングは、テレビ・新聞・ラジオの時代から、SNSやデジタル広告へと大きくシフトしています。その中で、長尾さんは人間力やコミュニケーション能力、相手への尊重と、相手が抱える構造的な課題をどう解決するのかというビジネス的視点を組み合わせていると感じています。
また、「Skettt」の主要顧客は、地方の中小企業や成長企業、大企業の一事業部です。こうした企業の広告主は、大手の広告代理店とはあまり関係値がありません。しかし、広告主は影響度の高いタレントを起用したい。この課題に対して、芸能事務所とスムーズに連携し、適切なタレントを選出してくれる。これが、Wunderbarの事業のコアです。
池田:私も、Wunderbarのビジネスモデルは非常に秀逸だと感じました。芸能事務所を攻略する難易度の高さに反して、それを実現している長尾さんの人間力とビジネス視点の両立が素晴らしいと思います。

DEEPCOREから見た長尾慶人という人物
──投資検討プロセスの中で、印象的だったエピソードを教えてください。
左:先述のとおり、長尾さんは今回が二度目の起業です。投資家としては「前の会社をなぜ畳んだのか」が気になるところだったので、「前の会社の経営者を紹介してもらえませんか」と長尾さんにお願いしたことがありました。
即座に「もちろんです」と紹介してくれて、前会社の経営陣にインタビューしたところ、「長尾さんは誰よりも一番早く会社に来て、誰よりも仕事と数値にコミットしていました」と教えてくれました。即座に紹介してくれることも、相当な勇気と誠実な人付き合いがなければできませんし、これ以上のリファレンスはありません。しかも、その方々が今でも長尾さんのことを一人の人間として尊敬し、認めて、応援してくれている。なかなか実現できることではありません。
池田:私が投資検討中に長尾さんに対して感じたのは、“野心と素直さ”です。野心という点では、長尾さん自身はもちろん、CPOの伊藤さんやCTOの柳澤さんも含めて、経営陣全体が強い成長意欲を持っています。伊藤さんへのヒアリングでは「僕はこの会社にかけています。フィリピンから日本に帰国し、必ず事業を成功させようと思っています」と、非常に熱い思いを語ってくれました。一方、素直さという点では、過去を隠さず透明性のある情報交換をしてくれます。この2点が、一緒に仕事をしたいと思った大きな理由ですね。
また、DEEPCOREがデューデリジェンスを進める中で、会社に関するあらゆる数値を見ていた際、営業管理のエクセルにも、“常に敬意・感謝をもってメールを送ること”という旨のコメントが残されていました。Wunderbarの理念が社内に浸透している結果が、これまでの数値に現れているのだと改めて感じましたね。
長尾:DEEPCOREの皆さんとやり取りする中で印象的だったことは、出会ってすぐに私たちの性質を理解し、情緒的でありながらも論理的かつ合理的にコミュニケーションをとってくださる姿勢でした。左さんは、何を言っても第一声で「非常によく理解できました」と受け止めてくださる姿が印象的でしたね。キャピタリストの方がそうした姿勢で向き合ってくださるのは、組織全体がそういう文化だからこそ。私たちの会社は、「尊重・感謝・協調」というスピリットを大切にしていますが、まさに同じ価値観を持つ方々だと感じました。
左:投資検討では、2か月をかけて、あらゆる角度から議論を重ねます。お金の話はもちろん、これまでの人生・子育て・会社の将来像。経営者は従業員の生活を預かっているので、その責任とコミットメントを深く理解する必要があるんです。投資家とスタートアップという関係性ではありますが、“役割と立場を超えた関係性”を築けたと感じていますね。
長尾:おふたりのコミュニケーションは、Wunderbarの文化に合っていると感じています。伝え方には思いやりと優しさがありますが、一つひとつの指摘の粒度が細かく論理的です。特に、シリーズAというフェーズでは、シードやアーリーフェーズとは異なるマインドや考え方を持たなければいけません。
実現ハードルが高い中で、それらをあらためて外部から指摘されると、見方によっては否定されたように感じてしまう。しかし、DEEPCOREのコミュニケーションは、「尊重・感謝・協調」というスピリットと通じるものがあります。日常での配慮と思いやりが、世の中で通じることを再認識できた点も嬉しかったです。
池田:私たちができることは、新しいアイデアを提示することではなく、今ある課題にどう取り組むべきか、また、それらを可能にするケイパビリティを提案することです。エンジニアの人材紹介やネットワークを活用したアライアンス先の紹介など、事業成長に関わる支援にも注力していきたいと思っています。
──今後の事業展望をお聞かせください。
長尾:「次世代のIPエコシステムを創ること」です。たとえば、現在の「Skettt」の管理画面は広告主に向けた機能がメインですが、今後は、権利の保護やマネジメントのデータ化など、IPホルダーやIP業界をサポートできる“守りの機能”も充実させていきたいと考えています。
個人としては、中卒という厳しい環境から這い上がってきた姿を発信することで、より多くの起業家やチャレンジしたいと思っている人、世界をもっと豊かにしていきたいと思っている人たちの一歩を後押ししていきたいと思っています。
──ありがとうございました!
■株式会社Wunderbar
設立:2019年3月
https://wunderbar.co.jp/
<Wunderbarのnoteはこちら>
<Skettt(スケット)はこちら>
<プロフィール>
株式会社Wunderbar
代表取締役CEO 長尾 慶人(Keito Nagao)
15歳の頃にジュノンボーイコンテストにて上位入賞後、某大手芸能事務所に所属。その後、家庭の事情で高校を中退し、札幌と福岡で光通信系の会社を立ち上げる。GMOインターネット株式会社、株式会社ディーエヌエー、Recustomer株式会社(旧ANVIE 共同創業)を経て、株式会社Wunderbarを創業。タレントの素材を広告に利用できるサービス「Skettt(スケット)」を展開している。
「Skettt(スケット)」:https://skettt.com/
DEEPCORE
キャピタリスト 左 英樹(Hideki Hidari)
DEEPCOREで、海外を含む投資業務に従事。ソフトバンクグループ株式会社の社長室 戦略企画グループにて全社戦略の企画業務に携わった後、投資企画室マネージャーとして同社の投資検討・実行、ファンド立ち上げ業務に従事。その後、ソフトバンク・ビジョン・ファンド 東京オフィスに転籍し、主に中国・東南アジアにおけるスタートアップ企業へのデューデリジェンス、投資実行、投資後のモニタリング業務を経験し、DEEPCOREに参画。慶應義塾大学経済学部、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科卒業。
DEEPCORE
キャピタリスト 池田 愛和(Yoshikazu Ikeda)
DEEPCOREで投資業務に従事。学部時代に専攻していた数理統計学の知識を活かしてAIについて体系的に学び、大学院では運動×自然言語処理というテーマで研究に従事。大学院在学時、(株)松尾研究所においてAIを活用した新規事業開発チームに参画。その後、自然言語処理AIスタートアップにて研究に取り組みつつ、事業部門の責任者として事業開発に携わる。大阪大学基礎工学部卒、大阪大学基礎工学研究科修了(工学修士)。
