The Good The Bad The Dollar Menuを聴け
Ray Vaughnとは
TDE(Top Dawg Entertainment)に所属するラッパー、Ray VaughnがPower 106のインタビューで自身の音楽、キャリア、そして新プロジェクトについて本音を語った。彼はクールなラッパー像を演じることなく、自身のありのままの個性、特にユーモアのセンスで人々を引きつけることを大切にしている。この飾らない姿勢こそが、彼の音楽と人生観に深く根差していることが、インタビューを通して強く伝わってきた。
彼の新しいプロジェクト「The Good The Bad The Dollar Menu」は、まさにその多面的な個性を音楽で表現しようとする試みだ。タイトルは、彼自身の壮絶な貧困経験に基づいている。裕福だった時(Good)、何も食べられなかった時(Bad)、そして安価な「ドルメニュー」でどうにか生き延びた時。この経験が、彼の音楽の根幹にあるテーマであり、人生の浮き沈みを反映している。
異色の職歴とTDEとの運命的な出会い
ラッパーになること以外に選択肢がなかったと語るほど、Ray Vaughnは音楽への強い情熱を抱いていた。しかし、ラッパーとして成功するまでの道のりは容易ではなかった。彼は生計を立てるために、害虫駆除業者、Amazonの倉庫作業員など、多種多様な仕事を経験してきた。
中でも彼の経験を象徴するのが、害虫駆除業者の仕事だ。ゴキブリやハチの駆除を行い、体が小さかったため狭い屋根裏部屋での作業もこなしたという。汚い家に住む人々への不満や、ハチ駆除に危険手当がついたことなど、彼のキャリアの中でも特にユニークなエピソードとして語られた。また、Amazonの倉庫での仕事では、昼食を盗まれた腹いせに他人のiPhoneを盗み、解雇されたという衝撃的な出来事も明かしている。「傷ついた人間は他人を傷つける」という言葉には、彼の経験してきた厳しさが滲む。
しかし、これらの仕事からクビになるたび、Ray Vaughnはラッパーになりたいという自身の夢への思いを強く再確認したという。そして、彼の人生を決定づけるTDEとの出会いが訪れる。レーベル創設者であるTop Dawgが、彼が他のアーティストと作った曲を偶然耳にし、Ray Vaughnのメロディーメイキングや楽曲構成の才能に気づいたのだ。「他のパートは関係ない、あの才能は誰だ?」となったTop Dawgに直接スカウトされ、Ray Vaughnは、地元LA郡のラッパーにとって憧れのレーベルであるTDEへの加入を果たした。これは彼にとって、まさに夢が叶った瞬間だった。
「The Good The Bad The Dollar Menu」が示す多才さ
新プロジェクト「The Good The Bad The Dollar Menu」は、Ray Vaughnの音楽的な多様性を示す重要な作品だ。プロジェクトからの楽曲「Dollar Menu」は、彼の音楽性の幅広さを見事に表現している。曲は、自身が経験した貧困という真面目で内省的なテーマから始まり、一転してパーティーや自慢といった盛り上がる雰囲気に変わる。この劇的な転換、つまり対照的な要素の並びこそが、彼がリスナーに伝えたい自身の音楽的な特徴だと彼は語る。人々が彼を真面目でリリックや技術を重視するスタイルのラッパーと固定観念を持つことを逆手に取り、様々なスタイルを見せることで、聴き手の予想を良い意味で裏切りたいのだ。
TDEのレーベル文化は、外部からは厳格なイメージを持たれがちだが、Ray Vaughnはそこに確固たる構造と忍耐、そして温かいユーモアがあることを語る。作品は完全に準備できるまでリリースされず、品質が徹底的に重視される。その一方で、Top DawgやKendrick Lamarといった先輩ラッパーとはフランクに意見交換を行い、キャリアや音楽についてアドバイスを求めることもある。メンバー間の遠慮のないジョークやからかい合いは、TDE内部の良好な関係性を示している。
Ray Vaughnは、ラッパーとしてだけでなく、パフォーマーとしての意識も非常に高い。観客を惹きつけ、コントロールする方法を熟知しており、自身のパフォーマンスを磨くために何時間も鏡の前で練習するという。顔の表情やジェスチャーなど、細部まで研究し、感情を的確に表現することを目指している。
現代のアーティストとして避けては通れないインターネット上の活動についても、彼は独自のスタンスを持っている。同じTDE所属のアーティストであるDoechiiの急速な成功から刺激を受け、インスピレーションを得ている。また、彼はインターネット上のトロール行為に対して積極的に反撃するタイプだ。特に自身の家族、とりわけ娘に対する悪意のあるコメントには一切容赦しない。トロールの個人的な情報さえ持ち出して反論することもあるという。彼は、このような荒らし行為と対峙し、打ち負かす能力が、現代のラッパーとして生き残るために必要不可欠だと考えている。
新プロジェクト「The Good The Bad The Dollar Menu」は4月25日にリリースされる。この日は、8年間刑務所にいた兄が出所した翌日であり、その翌日は娘の誕生日だ。彼にとって、このプロジェクトのリリースは家族との大切なイベントと重なる、非常に個人的で特別な意味を持つものなのだろう。
このプロジェクトを自身のキャリアの「基礎」と位置づけるRay Vaughnは、これまでのシングルだけでは伝わりにくかった自身の多様性を、この作品で明確に示したいと考えている。ロングビーチのヒップホップの遺産を受け継ぎ、次世代を担う存在となるべく、彼は今、その基盤を強固にしている。Ray Vaughnの多面的な才能と、人生経験に裏打ちされた音楽が、今後どのように展開していくのか、期待が高まる。
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