Lil YachtyとConcrete Boysが語る、創造の流儀
2026年2月、All-Star Weekendの喧騒が冷めやらぬ中、Lil YachtyとConcrete Boysのメンバーたちは余韻に浸る間もなくスタジオに戻り、アルバムの最終調整を続けていた。2月27日リリースの "It's Us Vol. 2" は、彼らにとって単なるグループ作品の第2弾ではない。それは5〜6人の人間が時間をかけて「正しく感じるまで」磨き続けた、妥協なき共同創作の結晶だ。
Bootleg Kev Showでのロングインタビューで、Lil YachtyとConcrete Boysのメンバーたちはきわめて率直に語った。アルバム制作の舞台裏から、LSDを聴きながらPink Floydを聴いた夜のこと、Tyler the Creatorのそばで学んだ9か月のツアー、そしてSoundCloudラップ世代を振り返る歴史観まで。その言葉の随所に、現代ヒップホップにおいて最も誠実なクルーの1つである彼らの「創造の流儀」が刻まれていた。
"It's Us Vol. 2" 誕生まで:時間こそが最大の武器
"It's Us Vol. 2" は、もともと2025年にリリースされる予定だった。しかし発売は約1年延期された。その理由について、Lil Yachtyは明快に答えている。「骨格は去年からあった。ただ、急いだ感じを出さずに、ちゃんと筋が通るようにすることが目標だった」。
5〜6人が集まるグループは、当然ながらスケジュール調整が難しい。しかし、Yachtyが強調するのは「集まること自体の困難さ」ではなく、「時間の感覚」だ。「大人になると、時間が本当に早く過ぎる。気づいたらもう3月になりそうで、本当に瞬きすれば1年が終わる」。それでも彼らは焦らなかった。昨年6〜7月にニューヨークでロックインしたセッションが決定的な転換点となり、アルバムの方向性が固まっていった。ロサンゼルスと行き来するなかでも、特にニューヨークのセッションで「本当に良い曲が作れた」とメンバーが口をそろえる。
収録曲については、「今年(2026年)に作ったものは1曲もない」と彼らは口をそろえる。大半は昨年以前に制作された音源だが、ロサンゼルスとニューヨークを往来しながら重ねたセッションの中で、少しずつ完成形に近づいていったのだ。アルバムのゲストとして、Veeze(非公式な8人目のメンバーとも言われる)とRio Da Yung OGの名前が挙がった。特にVeezeについて、Yachtyは「公式メンバーかと聞かれたら、本人は公式だと言うと思う」と苦笑いした。
各メンバーのお気に入り曲を聞かれると、”Push It”、”If I Wasn't Rapping”といった曲名が飛び出した。タイトルだけで、このアルバムがいかにバラエティに富んでいるかの予感がする。バンガーあり、内省的なトラックあり。「It's Us」というタイトルどおり、これが本当に彼ら全員のアルバムだと証明するための、慎重かつ丁寧な選曲が行われたのだ。
スタジオという名の聖域と混沌
Concrete Boysのスタジオセッションは、伝説になりつつある。特にDc2Trillが仕切るセッションについて、ホストのBootleg Kevは「あるスタジオが君を出禁にしたと聞いたが」と切り出した。Dc2Trillは苦笑いしながら「ある人に、スタジオをMagic Cityにしてると言われた。笑うのをこらえるのに必死だった」と告白した。
彼のスタジオには、必要かどうか関係なく友人たちが溢れ、タバコの煙が充満し、ピーナッツが床に散乱し、音楽はスタジオよりもラウンジの方が大きく流れている。「そういう雰囲気があってこそ、いい曲が生まれる」とDc2Trillは言う。ただし、彼は一つの転換点にも触れた。「みんなとも話して、これからはちょっと変えていくつもりだ。楽しいムードは保ちながら、もう少しだけ落ち着いた感じにしていく」。
ラップのスタイルについても興味深い話が展開された。Dc2Trillはライティング(書き留める)をしない。ADHDがあるため、書くよりもパンチ・イン(即興録音)の方が速く自分の感覚を捕まえられるという。Yachtyは対照的に、ビートなしで歌詞を書いてから後でビートに乗せるというアプローチを取ることがある。「ビートがない方が、自由にフローを考えられる。フローを決めてから詞をはめていくんだ」。
メロディやキャデンスの重要性についても、メンバー全員が口をそろえた。「運転中に頭の中でメロディが浮かんだら、即座にボイスメモに残す。キャデンスさえ決まれば、言葉は後からついてくる」。この言葉は、現代のラッパーがいかにライムよりも「節回し」を中心に発想するかを端的に示している。
歌詞を書くか書かないかという議論は、Biggieの話へと発展した。「BiggieやJay-Zは、書かずにその場でやった」とYachtyが言えば、別のメンバーが「でもペンと紙に書いた方が、言葉に重みが出る。より意図的になれる」と続けた。パンチ・インは勢いを掴みやすいが、意図的にラップをするときは書く方がいい。その二元論を彼らは誰も否定せず、状況によって使い分ける現実主義者として語った。
MCたちのルーツ:影響源を辿る
インタビューの後半、ホストはメンバーそれぞれに「最大の影響を与えたMC」を尋ねた。その答えは、彼らの音楽的・文化的背景を如実に映し出している。
Dc2Trillは即答した。「Big Moeだ」。Big Moeとはヒューストン出身のラッパーで、パープル・ドランク文化とスラブド・ミュージックの象徴的人物だ。Dc2Trillはさらに、Fat PatについてもDJ Screw周辺のレジェンドとして言及した。その文脈で、Dave Bluntという若いアーティストがBig Moeに似たフードとトラックスーツというビジュアルを持ちながら、実はBig Moeを知らなかったというエピソードが明かされた。「教えてあげたけど、それでも知らなかったと言い張った。なんで言わなかったのかが理解できない」とDc2Trillは頭を抱えた。
Yachtyはニューヨーク時代のJay-Zを挙げた。オールブラックのTimberlands、ブラックのPyrex、そしてあのディープなスタイル。「彼が僕にリリックを読ませてくれた。バーとダブル・アントルを理解しようとしたのも彼のおかげだ」。
これらの答えが示すのは、Concrete Boysが「SoundCloudラップ世代」というひと言では括れない、多様なルーツを持つ集団だということだ。ヒューストンのScrew Musicから、ニューヨークのロウ・ジェイ・ズィーまで。その間に存在する広大なヒップホップの地平を彼らは当たり前のように吸収している。
SoundCloudラップ世代の証人:Yachtyが語る歴史
インタビューのハイライトの一つは、Lil YachtyによるSoundCloudラップ時代の総括だ。「あのムーブメントのマウント・ラッシュモアを挙げるとすれば」という問いに、Yachtyはしばらく考えてから言った。「俺、Uzi、Carti、X、そしてLil Peepだ」。
Lil Peepについて言及した後、Yachtyとホストはあの時代の特異性について深く語り合った。「Peepが死んだとき、俺らみんなドラッグには気をつけないとと思った最初の出来事だった。彼とMacがそうさせた」。Juice WRLDが「俺らのあとの世代」であることも明確に述べている。「Juice Worldは後からだ。俺らのマウント・ラッシュモアには入らない」。
さらにYachtyは、当時まだ無名だったTay-Kという人物についても語った。「Tay-Kは一発でキャリアを掴めたかもしれないやつだったのに、逃亡中に録音した曲が話題になってしまった。その曲に乗っていたDiego MoneyやBandman Fariは、その後それぞれの道を歩めたけど」。
興味深いのは、Yachtyがそのムーブメントを相対化していることだ。「ヒップホップで一番最初の曲って何だと思う? 気になって仕方がない。ヒップ、ホップって同じような意味のない言葉を繰り返しているだけだろ。俺らだけが理解不能なことをやってたわけじゃない」。この視点は、サウンドクラウド・ラップとは何だったのか?で詳述した「どの時代にも意味のない前衛はあった」という文脈と重なる。
また、ヒップホップがサブジャンルに分かれているか?という議論も展開された。「昔は西海岸なら西海岸のサウンド、東海岸なら東海岸のサウンドという特色があった。でも今はインターネットがその壁を取り払ってしまった。俺は逆に、今のヒップホップはもっとサブジャンルで区分するべきだと思う。すべてをヒップホップという一つの箱に入れると、何が何だかわからなくなる」。
彼らが2016年当時の受け取られ方についても言及した。「2016年に生まれたラップは、完全に新しい波だったはずなのに、当時から比較され続けた。でも同じことは80年代にも90年代にも起きていた。各世代が今の音楽は意味がわからないと言い続けてきたんだ」。
Tyler the Creator という名の師匠
Yachtyが最も熱を込めて語ったのは、Tyler the Creatorとの関係性だ。2024〜2025年にかけて行われたChromakopiaツアーに帯同したYachtyは、「9か月間、世界中を一緒に回った」と振り返る。
「Tylerは俺のメンターだ。彼が俺を選んでくれたことは、本当に特別だった。俺は2年間アルバムを出していなかった。現実的に考えたら、なぜ俺を選ぶ? それでも彼は俺を連れて行ってくれた。それはお金では買えない何かだ。その智慧、その知識、そのコネクション。本当に感謝している」。
ツアー中、YachtyはTylerが最新アルバム "Don't Tap the Glass" を制作する過程をそばで見ていた。「Chromakopiaじゃなくて、その次のやつを作るところを見ていた。彼はツアー中に作ったんだ。俺は座って見ていて、本当にたくさん学んだ。パフォーマンスから、プロデュースするということ、ヒップホップの歴史、さらにはファッションやデザインまで」。
Tylerの音楽哲学についても、Yachtyは興味深い観察を共有した。「彼はすべてのことに理由があって、何もかもが計画されている。Chromakopiaのような緻密なアルバムから、 "Don't Tap the Glass" のような一見スポンタニアスに見えるアルバムまで。あれは彼にとっての考えすぎないバージョンだ。でもそれでも非常に精密だった」。
「最も意図的なアーティストの一人だと思う」とYachtyは言う。「すべての角度が考え抜かれていて、毎回ファン層を大切にしながら、同時に自分が感じるままに音楽を作る。流行や、ファンが求めるもの、自分が得意なことに関係なく、彼は自分がインスパイアされたものを作る」。
この哲学は、Yachtyが "Let's Start Here." で見せた姿勢と共鳴する。あのアルバム制作のきっかけについて、彼は明かした。「ある夜、LSDをやりながらPink Floydの "Dark Side of the Moon" を聴いていた。あのアルバムは今でも信じられなくて。制作と世界観が70年代とは思えないほど完璧で。だから考えた:俺が "Dark Side of the Moon" を作るとしたらどんな音になるだろう?と」。
それが出発点となり、A面からB面まで連続して聴ける、一つの「体験」としてのアルバムが生まれた。「スタート・ストップやスキップが必要ない。友達と集まって流してるだけで、空間が生まれる。雰囲気を持つアルバムが作りたかった」。当時、彼の人生は変化の渦中にあった。子どもが生まれ、キャリアは転換点にあり、自分の次のステップを模索していた。それが作品に刻まれている。そして現在は、その経験から学んだことをもとに、さらに先に進もうとしている。「次のソロプロジェクトでは、もっと遠くまで行くつもりだ」。
Yung Leanの告白:狂気の淵から生還した天才という記事でも触れたように、精神的な探求と音楽的実験は切り離せない。Yachtyのサイケデリックな探求も、単なる逸話ではなく、彼の創造性の核心に触れるものだ。
個と集団のあいだに:Concrete Boysの未来
2026年、Concrete Boysは集団としてもソロとしても、それぞれが動き出している。アルバム "It's Us Vol. 2" をリリースした後、まず5月に最初のソロアルバムをリリースする。
Yachtyのソロアルバムは今年中に出るかどうか不明だが、「9か月のツアーで制作の時間がなかった。今は作っている」と語った。「最高のものにしたい。Nikeのコラボレーションも今年いくつかあるし、アルバムも同時進行だ」。彼は今年の2月にはAll-Star Weekendのスニーカーサンプルを披露していた。あのグリーン・イエロー・レッドのデザインはCoachella用の衣装シューズだったのに、Nikeがこれ出すべきだと言い出したものだという。
DC、Camo、Draft Day、Honest、そして全員がソロプロジェクトを動かしていると言う。「Concrete 2026はリアルだ」とYachtyは締めくくった。
個と集団のバランスについて、このインタビューは一つの答えを提示している。Concrete Boysのスタジオに競争はない。「誰かを打ち負かそうとしたことは一度もない」とメンバーたちは言う。「自分がいい感じになってきたなという気持ちはある。でも、お前より俺の方がいいという感覚はない」。その代わりにあるのは、共鳴だ。誰かが良いバースを録ったとき、周りが自然と自分の基準を引き上げようとする。それが彼らのエコシステムだ。
スタジオが混沌としているほど、その中で生まれる音楽には生命力がある。Magic Citiesと言われたセッションから生まれた「いい曲」がその証だ。そして5〜6人が時間をかけ、急かさず、正しく感じるまで研ぎ澄ました "It's Us Vol. 2" は、その集団的な誠実さの結晶に他ならない。
ヒップホップが細分化し、流行のサイクルが加速する時代に、Concrete Boysは珍しい存在だ。彼らは「正しいタイミング」にこだわる。時間を武器にする。そして、急がない。その姿勢こそが、2026年のヒップホップシーンで最も信頼できる創造性のしるしかもしれない。ソロとグループの両軸で動き出した彼らのこれからが、今から楽しみでならない。アルバムを聴き終えたあとに、その信念が正しかったと確かめることができると確信している。
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