天の道~真実の行方16話
2章-⑤
順子は今でも、そう言ってくれるだろうか?
当時、親友の順子が言ってくれた言葉を思い出す。
月日が経ち、あれから5年が過ぎようとしている。
あの頃を引きずっているのは、自分だけかも知れない。
それほど、、月日は経ったというのに、、
瞳を突き動かしてくれた竹内玲奈、そして順子の、当時の記憶を辿りながら瞳はある人物に宛て、手紙をしたためようとしていた。
新しい人との出会い、新しい生活は5年という歳月を経て、それなりの平穏を瞳に与えてくれた。只、親の反対を押し切ってまで選んだナースの道は捨て難く職場を変え、環境を変えての再スタートをきっていた。
新しい職場は何処にでもある普通の雰囲気と言えたが。3階病棟から来た瞳にとって、安らかで伸び伸びとした新鮮に感じられる場所だった。
だが、何処にでも、怒鳴ったり、怒りの感情をむき出しにする人はいるものだ。時に出くわす、そんな場面だけが苦手だった。
その度、心臓がバクバクと高鳴り、膝が震えだし、途端にモノクロの風景に引き込まれて行く。そんな時、瞳はいつも思ってしまう、、
「私はこの人に又、裏切られてしまうのではないか」
「あの時のような思いを味わされてしまうのではないか」
瞳に向けられるものでなくても、そういう場面に出会うと小早川が重なり
極端に反応してしまう瞳がいた。
自分が思っていた以上に、3階病棟で受けた痛手は深くトラウマとなって瞳を苦しめた。だが、常時、耳にしていた3階病棟の威圧的な表現のものとは明らかに違う類のもの、との認識と、滅多にある事でもなかったのが救いとなり、5年というたおやかな時間が過ぎようとしていた。
その間、訪れた変化と言えば、、、あれから命というものを、より以上
愛おしく思えるようになった事。
鳥とか、花とか、小さな虫達に至るまで、目を向けると色んな命があり
とりわけ、瞳のそれは自然の物に向けられた。
山や海……そこにも命は確実に息づいている。そんな中から、確実に命が在ったと存在する物……姿は残っているけれど、その内、それさへ朽ち果ててしまうような物を拾い集め、形のある今を生かした別の姿に生まれ変わらせてあげる事が生きがいとなっていた。
アクセサリーや雑貨として蘇らせ、傍に置いたり身に付ける事で
肌のぬくもりを感じて貰えたら、、そんな想いから始まった。
人はそれを『趣味』と呼ぶが、消えて行ったままどうする事もできなかった
‟あの子達”に繋ぎ合わせた、瞳自身への慰めだったかも知れない。
裏切らない自然を相手にした、瞳の日常は徐々に心を癒し、時折、頭を過っていた‟あの子達”の姿も、遠いものとなりつつあった。
このままの、時間が保てていたら、あの悪夢の出来事も、時の彼方にそっと置いていける、瞳の元にもそんな穏やかな日々が訪れていた。
でも、ほんのひと時の寛いだ時間も、忘れていた神様のシナリオの一部でしかなかった事など、この時の瞳は、まだ知らない。
あの時、、罠の仕組まれたレールとは知らず。仕向けられるまま乗り込んだ列車から瞳はまだ、降りる事を許されてはいなかったのか。
長い休憩地点を過ぎた列車は、穏やかに動き始めた……。
これを運命と言わず何と言おう!後に、瞳がこう考えずにいられない、ひとつの偶然は、再び苦悩と葛藤の中へと瞳を引き戻してしまうが、其処に真実がある限り、扉は開かれる、それは自ずと開かれる
釈然としないまま、そんな想いと引き換えに、身を引いた瞳の目の前に5年の時を経て、ようやく『真実の扉』が開かれようとしていた。
