天の道~真実の行方18話
2章ー⑦
実証出来ない『手』の正体、、其処から先、次々に繋がっていくものにさへ
「自分の妄想なのだ」と、念じ込もうとしていた瞳だが、又しても偶然が重なり合うようにしてやってきたのは、それから間もなくの事だった。
「こんな現実離れした話し、誰が信じてくれよう」
そんな常識を払い除けてくれた同僚の西原千里の言葉が、漠然と思い描いていた瞳の発想を揺ぎ無いものにしていくのだが、自然と話せるシチュエ―ジョンが与えられたのも、砂浜体験に重なる導きかも知れないと、思えるような偶然だった。
普段からスピリチュアルな世界観を持つ西川千里が瞳は少し苦手だった。
視線を外さない透き通った彼女の目に見つめられると、それだけで全てを見透かされているようで、自分の心に疚しさを持つ瞳には、その目が眩しすぎた。
「何か、抱えているでしょう?」
西川千里が、瞳にこんな声掛けをするのは初めてではない。
彼女からすれば、瞳が秘め事を抱えている事など疾うにお見通しなのだ。
時に心の底からウワァ~~と込み上げる抑えきれない感情に、3階病棟の悪事を吐きだし心を軽くしたいと思う事もあったが話した所で、自分のように聞いた人をも巻き込んでしまい、所詮、解決策は見いだせないだろうとの決め事が、その都度、ブレーキをかけてくれていた。
時間は、だてに過ぎるものじゃない、、5年と言う月日が、苦しかった瞳の心の傷を溶かしていってくれたのだ。
「何か、抱えているでしょう?」
そうだ!この人になら、砂浜での出来事を話しても通用するかも、、
いつもなら「何にもないわよ」と逃げ腰だったが、今回ばかりは渡りに船と
飛びついた。
「多分、その『手』は、幽霊だったような気がする
普通に考えれば、その時何か、対応する筈、、よね?
『これは本物に間違い無い』と思うから、瞳の言うように、触ってみるとか
警察を呼ぶとか、何か……何かした筈。でも、これは本物だと思いながらも、『何故か分からないけど』そのまま立ち去ってしまった」
「気になって又、行こうとしたけど、偶然、天気が悪くて行けなかったし
行ったとしても、雨で流されていた……つまり、その『存在』そのものが
瞳に触発されて、瞳の前だけに出て来た『実体のない何か』だったのよ」
「ものがある、と言う存在ではなくて、存在すると言うだけの存在
ん~……『残像』かな?『思念』とは違う、と思うんだけど
だからこそ、何も出来なかったんだと思う
それを見ながら、何も出来なかったし、立ち去る事しか出来なかった
結局『そういう風になっていた』んだと思う」
瞳の過去など知ろう筈のない西原千里にしてみても、砂浜体験は不思議な
非現実的なものとして写ったのだろう。けれど即座に、摩訶不思議な世界をスムーズに語りだす西原千里は、其処に、常識云々など微塵も感じられず
肯定的で、こんな世界も在り得ると、瞳を納得させるのに十分な説得力があり、発想途中にあった瞳の砂浜体験への構想は、西原千里の言葉に後押しされるように、固まっていった。
自分の前だけに現れた『実態のない何か』は、言うまでもなく、其処から先あの『天使達』に繋がっていく。
そしてもう、、とうに、あの頃に呼び戻されている瞳の心。
開かれた掌が、何かを掴もうと無念の現われのように感じたのも道理に叶う
これまで、静かに現れるだけだった‟あの子達”の悲痛な叫び声が、初めて聞こえた気がする『助けて!』と。
このままで良い訳がないと感じながら、結局、何も出来ずにいた私を
ずっと、、待っていたんだ!
摩訶不思議な砂浜体験は、瞳の潜在意識が見せたものなのか、それとも
待ちくたびれた‟あの子達”が発したものなのか
そんな事、どっちだっていい。紛れもなく起こった現象は、‟あの子達”の
魂がまだこの世にいる最大の証だ!と、行き着く瞳だった。
生を受けた存在自体を認められない、行き場を無くした存在は
行きたくても行けないんだ……天国へ。私の夢に現れた時からそうだった。
天使の筈の‟あの子達”の姿には、いつまで経っても、飛んでいける羽が無い!翼を持たせてあげないと……永遠に昇れる訳がないのだ。
その為の手助けをして貰う役目を‟あの子達”は私に託していたのだろう。
此処まで来て、ようやく、‶あの子達”に関わって来た真髄が見え
フラッシュバックも、砂浜体験も、感動の渦となって瞳を包んだ。
それらが伝えていたのは、只、『真実を語りなさい』と、其れだけだったと気付いた。行き場の無い‶あの子達”を救える方法はたったひとつ。
それは、‶あの子達”を想う心を集める事。
想う心は‶あの子達”への存在を生み、如いては天国に昇る為の翼を与える
架け橋となる事だろう。
伝えなければならなかった真の目的に達した時、全ての邪心が取り除かれたピュアな心だけが残った。これこそが、真髄と言える必要なものだったのだ
人を憎み、罪を恨み、色んな邪心を持った5年前の瞳では、やはり語れない道だった。今だからこそ、真髄に触れる事の出来た5年のたおやかな時間も決して無駄ではなかった、めぐり巡って…目の前に再び現れた道は、自分が渡るべく、最初から用意されていた1本だけの道だったのだ。
進むべき真実に天から与えられた道がある。
【真実への扉を開く日はきっと来る。それは自ずとやって来る。】
そう考えながら、3階病棟を後にした過去の自分が蘇る。
確かに…成す術がなかったあの頃、、いや、、今の高ぶる感情を以ってしたら、まだまだ、前に出る心が追い付いていなかったとしか例えようがない。
そして今、‶あの子達”を天国へ送り届けるという、使命を受けたピュアな心には、辿り着くのを待っていたかのように、繋がっていた1本の道がはっきりと見える。
今度こそ、この道を踏み出さなければ、この先、自分は人として成り立たないと、決意する瞳だった。
