『踊る!牛丼ランド!!』ーーせりふ三題噺
昼休みの部室。
窓の外では、運動部の掛け声が遠く響いている。

つむぎは机に突っ伏したまま、
低いうめき声を漏らしていた。
「……あかん」
つむぎ、まどろんでいく。
となりで本を読んでいた心春が、
そっと顔を上げる。

「珍しいですね」
「ネタが出ぇへん……」
心春は少し目を丸くした。
その言葉を、
つむぎが口にするのは珍しかった。
「なんか今、
うちの頭ん中、
遊園地みたいになってんねん」
「遊園地?」
「うん……」
つむぎは遠い目をした。
「コーヒーカップあるやろ」
「ありますね」
「あれが全部、牛丼」

「嫌な遊園地ですね」
「しかも牛が乗って笑ってんねん」
「嫌すぎます」
つむぎは頭を抱えた。

『ねぎ多めで〜!』
『汁だくで〜!』
『アタマ多くして〜!』
『紅しょうが山盛りぃ〜!』
牛たちが叫ぶ。
牛丼カップは、
ぐるぐる回る。
丼の牛たちは、
丼の中で腹を抱えて笑っていた。
「……ああもう」
『オー!』
ひとつの丼が、
派手にスピンした。
中から、
サングラスをかけた金髪の助っ人外国人が立ち上がる。

『ツムギサンの頭の中、タノシイネ〜!!』
「誰やねん!!」
『ホームランデイテマウヨ〜!!』
「ここは90年代の近鉄遊園地か!!
……知らんけども‼️」
『ネギ、世界ヲ救ウヨ〜!!』
「もうやかましい!!」
つむちゃん、つむちゃん……
「……あ」
つむぎは顔を上げた。
そこには、
デッキブラシを持った心春が立っていた。

「あ、心春……」
心春は少し困ったように笑う。
「私がデッキブラシでゴシゴシ擦ってなかったことにしますね」
ゴシゴシ……
「……は?」
つむぎはゆっくり瞬きをした。
牛はいない。
遊園地もない。
部室の窓から、
昼の光が差しているだけだった。

「……なんか嫌な夢見た」
「どんな夢ですか?」
「……あれ?」
つむぎは首をかしげる。
「思い出せん」
心春は小さく笑って、
本を閉じる。
「今日は帰りましょう」
「……そやな」
鞄を持って立ち上がる。
廊下の向こうでは、
誰かが学園祭実行委員の話をしていた。
心春は歩きながら、
静かに言った。
「今年の学園祭は、漫才ですね」
つむぎは少しだけ目を丸くして、
それから笑った。
「……ねぎ多めでいこか」
心春が笑う。
「なんですか、それ」

<おわり>
今回、はらとけいさんの企画に参加させていただきました。
ありがとうございます。
