10.秋、終わる日に(翔と蓮)
秋の終わり。
放課後のグラウンドには、冷たい風が吹いていた。
色づいたイチョウの葉が、さらさらと音を立てながら舞い落ちる。
その日、3人は、なぜか約束もしていないのに、同じ場所へ足を運んでいた。
咲良はベンチに座って、落ち葉を指先でいじっていた。
やがてやってきた翔は、少し息を切らしながら、黙って隣に腰を下ろす。
そして最後に蓮が来た。
3人の視線がふと重なり、言葉がふいに風に溶けた。
沈黙のあと、咲良が先に口を開いた。
「ねえ、私……ずっと考えてたの。
どっちが好きなのかって。
でもね……やっぱり決められなかった。
だって、ふたりとも好きなの。
ふたりがペアでいるときが、一番好きなの。
……それって、ずるいよね」
翔は目を伏せた。
蓮は静かに目を閉じた。
そして、その静寂を破ったのは――翔だった。
「咲良。
それ、わかってたよ。
おまえの“好き”がどこを向いてるかって。
俺だって……蓮のこと、好きなんだ。
ずっと、そうだったんだ」
咲良がゆっくり翔の顔を見る。
彼の声は、震えていたけれど、まっすぐだった。
「それでも、俺は、蓮の隣にいたかった。
好きだから、ペアでいたかった。
……ずっと、それだけだった」
風がまた吹いて、木の葉が回る。
蓮は、その風を目で追いながら、ぽつりとつぶやいた。
「翔くん。……ありがとう。
実は、僕も――翔くんが、好きだよ」
咲良の目が大きく見開かれた。
翔も、一瞬、信じられないような顔で蓮を見た。
「ただ……怖かった。
君の気持ちに気づいた時から、
この関係が壊れるのが、怖かった。
だからずっと“ペアテスト”のことばかり考えて、
君の気持ちには答えられないふりをしてた。
……でも、もう逃げない。
僕も、好きだよ」
翔の目に涙が浮かぶ。
それは、喜びと、解放と、これまで積み重ねてきた不器用な時間のすべてだった。
咲良は、二人を見て、ふっと笑った。
悲しいわけじゃない。
ただ、あまりにも眩しかった。
「そっか……よかった。
ほんと、よかった。
私、きっとこの秋のこと、ずっと忘れないと思う」
そして、立ち上がって言った。
「私も……誰かと“ペア”になりたいな。
今度は、心から、そう思える人と」
•
空はもう、冬の色に変わり始めていた。
落ち葉が最後の舞を踊るように、風に乗って滑っていく。
3人の時間が、静かに流れていく。
季節が終わるのは、さみしいことじゃない。
終わることでしか、始められないこともあるから。
翔がそっと蓮の手に触れた。
蓮は驚いたようにそれを見つめたあと、小さくうなずいた。
3人それぞれの「告白」は、違う形だった。
でも、その夜、たしかにひとつの想いになった。
それは秋の終わりに咲いた、ささやかな奇跡だった。
そして、ふたりのペアテストは、冬のはじめへと続いていく。
