ジェンダーロール〜その役割の担い手は男?女?
あなたが今、次の人物像を思い浮かべるとしたら、どんな性別を想像しますか?
①「介護職で働いている人」
②「会社の重要なプロジェクトを率い、部下を指導している人」
③「保育園・幼稚園へ子供の送り迎えをしている人」
④「家族の夕食の支度にとりかかろうとしている人」
⑤「バスの運転手を職業にしている人」
さて、みなさんはどんな人物像を思い浮かべましたか?
もしかしたら、①、③、④は女性、②、⑤は男性と、無意識のうちに性別を当てはめてしまった人もいるのではないでしょうか。
しかし、これらの役割は性別に関係なく、誰でも担えるはずです。私たちが普段いかに古くからのジェンダーロールに無意識に囚われているか、そしてジェンダーロールを流動化することで社会がどのように変容するのか、考えていきましょう。
ジェンダーロールとは何か
ジェンダーロールとは、社会や文化の中で「男性らしさ」「女性らしさ」として期待される行動や役割のことです。
これは生物学的な性別(セックス)とは異なり、社会的に形成されるものです。例えば、「男性は外で働き、女性は家を守るもの」といった考え方は、まさにジェンダーロールの典型と言えるでしょう。
時代や地域、文化、民族などによって変わりうる流動的なものですが、社会的な期待を強制すれば、差別や抑圧、力の不均衡、果てはメンタルヘルスの悪化や人間関係の悪化まで波及する深刻な問題に発展する可能性もあります。
例えば男性は強くあることを求められ、過度なプレッシャーを与えられたり、女性は教育を受ける自由や行動制限を受けたり、男性に従属することを強いられることもあります。
具体的には、以下のような固定観念もジェンダーロールの強制につながりかねません。
女性は感情的になりやすい
男性は人前で泣くものではない
女性は化粧をするべきだ
男性は背が高くて筋肉質であることが望ましい
こういったイメージもジェンダーロールの強制に繋がりかねません。
また、LGBTQ+の人々は男女のどちらのカテゴリにも属さないことで生きづらさを感じるなど、社会的な疎外感を感じる原因にもなり得ますし、ジェンダーロールによって力の不均衡が生まれ、個々人が自分自身を正直に表現することを制限されることは、人々のメンタルヘルスや人間関係に良くない影響を及ぼす可能性が高いです。
日本社会における女性の社会進出
戦後、日本では男女平等をうたう日本国憲法第14条が制定されましたが、実態として女性の社会進出は遅々として進んでいませんでした。そうしたなか1985年の男女雇用機会均等法の制定は、性別による差別的な取り扱いを禁止し、女性が職場に進出する大きなきっかけとなりました。その後も、育児・介護休業法の整備など、仕事と家庭の両立を支援する制度が拡充されてきました。
2015年には女性活躍推進法が制定され、企業規模に応じて女性の雇用促進や行動計画の策定・公表が義務付けられたのですが、非正規雇用の拡大や出産・育児によるキャリア中断など、依然として課題は多いのが現状です。
諸外国と比較すると、日本の女性の社会進出は依然として遅れを取っているのが現状です。世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数では、日本は低位に留まっています。2023年のジェンダーギャップ指数では、日本は146カ国中125位と依然として下位に位置しており、管理職に占める女性割合もわずか15%に留まっています(※1)。
例えば、管理職に占める女性の割合や、政治分野における女性の参画は、国際的に見て低い水準にあります。
これは、法整備が進んだ一方で、依然として「女性は育児や介護の主な担い手であるべき」という固定観念が社会に根強く残っていることが一因として考えられます。介護施設の求人広告で女性職員ばかりが写っていたり、保育園のお迎えの時間に合わせて働く場所を探すのが女性であるといった光景は、その典型的な例と言えるでしょう。
日本国外でのジェンダーロールへの取り組み
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」は、若年層からのジェンダーに関する教育の重要性を強調しており、幼少期から偏りのない教育を行うことで、差別やいじめの抑止に繋がると考えられています。
そして、SDGsの採択により、「ジェンダー平等の実現」の目標が掲げられたことで、ますます人々のジェンダーに対する認識が変化しています。
アイスランドでは2018年の性別による賃金格差を禁止する法律の施行を皮切りに、育休制度や子育て支援のインフラを充実させ、2024年のジェンダーギャップ指数で12年連続1位を獲得しています(※2)。人々の意識の変化、実効性のある法律、それを支えるインフラの整備を国レベルで取り組んできたことで、経済面でも2010年代後半から平均4%以上の経済成長率を維持し、国連の「世界幸福度報告書2024」では世界3位にランクインに入っている(※3)ことは、これからの日本がどのような経済成長の道を辿っていくべきか大きなヒントになり得るでしょう。
固定化されたジェンダーロールに囚われる私たち
これは私の実体験ですが、入院中に自分で衣類を洗濯をしているのを見た、女性の看護師の方々が「女子力が高くてすごい!」と口を揃えて声をかけるのです。このエピソードは、性別と特定の行動を結びつける無意識の偏見が、私たちの中に深く根付いていることを示しています。
洗濯という行為は、性別に関係なく誰でも行う生活の一部です。それにもかかわらず、「女子力が高い」という表現が出てくるのは、洗濯が「女性の役割」というジェンダーロールに紐付けられているからに他なりません。
また「歴女」「リケジョ」などと言った言葉は、中には、『まるで歴史や理系分野には女性の研究者が存在しないかのような偏見を助長する』と批判的な見方もあります。
つまり、ジェンダーロールは他者から押し付けられるだけではなく、女性自身が内面化していることもあり、「家事=女性の仕事」という価値観は、無意識のうちに女性自身も再生産している現実があるといえるかもしれません。
このように、私たちは知らず知らずのうちに、自分自身をも含む他者にジェンダーロールを押し付けてしまうことがあります。女性が自ら「私には無理」とキャリアアップを諦めたり、男性が育児休暇を取ることに躊躇したりするのも、そうした固定観念が影響していると言えるでしょう。
ジェンダーロールを流動化するメリット
では、ジェンダーロールを流動化させることで、社会にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。
多様性の促進とイノベーションの創出
固定観念にとらわれず、誰もが自分の能力を最大限に発揮できるようになります。これにより、組織や社会全体に多様な視点やアイデアがもたらされ、新たなイノベーションが生まれやすくなります。
労働力不足の解消と経済成長
特定の性別に役割を限定しないことで、より広い人材プールから適切な人材を見つけることが可能になります。これは、少子高齢化が進む日本において、深刻な労働力不足の解消に貢献し、ひいては経済成長を促す要因となります。
個人の幸福度の向上
ジェンダーロールからの解放は、個人が自身の価値観や才能に基づいて生き方を選択できる自由をもたらします。「こうあるべき」というプレッシャーから解放されることで、個人の精神的な満足度や幸福度が高まることが期待できます。
家庭内の協力体制の強化
性別に関わらず家事や育児を分担することで、夫婦間のパートナーシップが強化され、協力的な家庭環境が築かれます。これは、子供たちの健全な成長にも良い影響を与えるでしょう。
実際、北欧諸国では育児休業制度が男女問わず整備され、父親の育児参加が当たり前となっています。それによって出生率や女性の就業率が安定的に推移しています(※4)。
そして男女共同参画が進んでいる国々では、経済成長率が高い傾向にあるというデータも存在します。ジェンダー平等の推進は、社会全体の活力を高めるための重要な要素なのです(※2)。
ジェンダーロールを考える上での注意点
ジェンダーロールの流動化を進める上で、注意すべき点も存在します。それは、個人の選択を尊重することです。例えば、「専業主婦(夫)になりたい」と考える人に対して、無理に社会進出を促すようなことは、ジェンダーロールからの解放とは言えません。重要なのは、性別にとらわれずに、誰もが自身の望む生き方を選択できる社会を実現することです。
また、ジェンダーロールの流動化は、既存の社会構造や人々の意識に変化を求めるものであるため、一時的な混乱や反発が生じる可能性も否定できません。性別役割分業の見直しは、世代や文化によって受け入れ度合いが異なるため、対話や教育の丁寧な積み重ねが重要となっていきます。
本来の目的は、誰もが自分の意思で生き方を選べる社会の実現にあります。選択肢があって初めて平等は意味を持つのです。
"選ばされる"のではなく、"自分で選ぶ"ことができることが重要と言えるのです。
これからの私たちとジェンダーロール~ジェンダーを超えて「自分らしさ」の追求へ
私たちがこれからジェンダーロールとどう対峙していくべきか、その答えは、「無意識の偏見に気づき、個人の選択を尊重する」という姿勢に集約されます。
ジェンダーロールそのものには善悪はありませんが、私たちは、日々の生活の中で無意識のうちにジェンダーロールに影響されていることに気づく必要があります。メディアが発信する情報、周囲の人々の言動、そして私たち自身の内なる声に耳を傾け、性別に基づいて役割を固定化していないか問い直すことが重要です。
果たしてそれは本当に性別によるものか、それとも社会的な刷り込みなのか一度立ち止まって考えてみることが求められます。そんな小さな気づきの積み重ねが、より柔軟で多様性に富んだ社会を築いていく礎になることでしょう。
そして、最も大切なのは、多様な生き方を認め合う社会を築くことです。男性だから、女性だからという理由で、誰かの可能性を狭めるようなことがあってはなりません。社会の中でジェンダーロールが「絶対的なもの」として通用しなくなれば、男女どちらであっても自由にキャリアや生活のスタイルを選択できるようになっていくでしょう。
誰もがそれぞれの個性や能力を活かし、自分らしく輝ける社会を目指すことこそが、ジェンダーロールの真の流動化と言えるでしょう。
参考・出典
(※1)内閣府『男女共同参画白書 2023年版』
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/index.html
(※2)世界経済フォーラム『Global Gender Gap Report 2023・2024』
(※3)UN Sustainable Development Solutions Network『World Happiness Report 2024』
https://worldhappiness.report/
(※4)OECD『Family Database』
https://www.oecd.org/els/family/database.htm
サストモ『ジェンダー平等は経済力アップにつながる? アイスランドに学ぶ、誰もが生きやすい社会のヒント』
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