「re 前世」第2話 #創作大賞2024#漫画原作部門
〇第二話
<現世 現在:2024年>
ベッドに入り眠っている25歳の希実。夢を見ている。
(夢の中)
<前世 江戸時代後期>
雪の舞う中、咳をしながら歩いているかお。
雪が吹雪いてくるにつれ、咳が酷くなっていく。
ついに咳が止まらなくなり、息が出来なくなってうずくまったまま倒れてしまう。
かお「仁‥ごほっ・・帰るけん‥ごほごほっ」
段々と視界がぼやけていく。
<現世 現在:2024年>
朝、部屋で目覚める希実。
カーテンを開けて外を眺める。
―希実『諦めようと思うと仁を想う夢を見る。何だか諦めないでって夢の中の女の子に言われてるような気がした』―
夕方の産婦人科の一室。
沙耶良がベッドに座り赤ちゃんを抱いている。
沙耶良「生まれてきてくれたんだね、きぬ‥今度こそ私が守るからね‥」
ノックの音が聞こえる。
希実の声「検温の時間です。入りますね」
ドアを開け、希実が入って来る。
希実、沙耶良と赤ちゃんの体温をカルテに記入していく。
希実「後藤さんっていっつも抱っこされてますね。疲れませんか?」
沙耶良「何か抱っこしてた方が落ち着くんです」
希実「へえ‥後藤さんって初産なのにもうすっかりお母さんっていう感じで、何かちょっと不思議な感じがします」
沙耶良「‥ずっと待ってたから」
希実「出産前からお母さんになれてたんですね」
沙耶良「‥お姉ちゃんなんですけど」
希実「お姉ちゃん?‥ああ、まだお若いですもんね」
沙耶良「いえ、そうじゃなくて‥何かこの子、妹の生まれ変わりなんじゃないかなって思ったりして‥」
希実「‥生まれ変わり?あ‥」
沙耶良の妹が亡くなったのかと思う希実。
沙耶良「あ、違います。妹元気です。すみません、私の勝手な妄想なんです。誰かの生まれ変わりなんじゃないかなって、前世で妹だったりしてって‥すみません」
希実「ああ、そうですか‥妄想、いいですね」
笑う希実。
希実「では、就寝前頃にまた来ますね」
沙耶良「はい。お願いします」
ドアを閉め部屋を出て行く希実。
廊下を歩いて行く希実の横を、後藤紗美莉が通り過ぎる。
沙美莉、各部屋の名前のプレートを見ながら歩いて行き、『205 後藤沙耶良』のプレートを見つけドアをノックする。
沙耶良「はい?」
ドアを開け沙美莉が入って来る。
沙耶良「沙美莉‥どうしたの?」
沙美莉「赤ちゃん見に来たんだよ。当たり前でしょ」
沙美莉、ベビーベッドの赤ちゃんを触る。
沙美莉「可愛い!髪‥金色じゃん!」
沙耶良「うん、そうなの」
沙美莉「へえ‥そっか‥いいじゃん!可愛いよ!最高!」
沙耶良「沙美莉、ここに来て大丈夫なの?‥お父さんもお母さんも怒ってたでしょ?放っておけって言われたんじゃないの?」
沙美莉「そんなこと気にしなくていいよ。こんな可愛い赤ちゃん見に来ないなんて二人共損してるよ。馬鹿だね」
沙耶良「‥ありがとう」
沙美莉「ねえ、お姉ちゃん‥退院したらさ、暫くうちに来なよ。愁もオーケーしてくれてるんだ。赤ちゃんに会うのすっごい楽しみにしてる」
沙耶良「ありがとうね。でも大丈夫。当分は外出なくてもいいように買い置きとかもしといたし、何とかやっていけると思うから」
沙美莉「無理だって。愁んとこもお姉さんが最近出産したんだけどさ、すっごい大変だって。絶対応援してやれって言ってくれてるの。そうしないと風邪もひけないよ。風邪くらいひける環境にしないと」
沙耶良「ごめんね‥駄目だね、私‥心配かけて」
沙美莉「いいじゃん、駄目でも‥今までお姉ちゃん、ずっと駄目じゃなかったんだからさ」
赤ちゃんを眺める沙美莉。
沙美莉「‥抱っこしてもいい?」
沙耶良「え?‥うん」
沙美莉、恐る恐る赤ちゃんを抱っこする。
沙美莉「これが噂に聞く姪っ子かー。やばいね」
嬉しそうに赤ちゃんを眺める沙美莉。
沙耶良「‥この子が助産師さん以外の人に抱っこして貰ってるとこ、始めて見た」
沙美莉に抱っこされている赤ちゃんを見て、少し涙ぐむ沙耶良。
その日の夜、見回りをしている希実。
沙耶良の部屋のドアをノックするが返事がなく、そっとドアを開ける。
希実「後藤さん?入りますね」
希実、部屋へ入っていく。
ベッドを見ると眠っている沙耶良。
ベビーベッドの赤ちゃんが小さく泣きだすが、希実が抱き上げると泣き止む。
希実「いい子だね‥」
希実が暫く抱っこしていると、沙耶良の寝言が聞こえる。
沙耶良「あかん‥きぬを返して‥妹を連れて行かんといて‥」
希実「後藤さん?」
沙耶良「きぬ‥きぬ‥」
泣きながら目を覚ます沙耶良。
沙耶良「あ‥」
上半身を起こし、ボウっとしている。
希実「後藤さん?‥大丈夫ですか?」
沙耶良「あ‥すみません。夢を見ていて‥」
希実「‥そういえば眠れないって仰ってましたけど、大丈夫ですか?良かったら赤ちゃん、預かってましょうか?」
沙耶良「いえ、大丈夫です!一緒にいたいんです」
沙耶良、切羽詰まったように答え、赤ちゃんを抱こうと手を伸ばす。
希実「あ‥はい」
希実、戸惑いながら赤ちゃんを沙耶良へ渡す。
希実「じゃあ‥お疲れでしたら遠慮なくお声がけください」
沙耶良「はい‥すみません‥」
希実「いえ」
沙耶良「あの‥」
希実「はい?」
沙耶良「あの‥私、妊娠をする半年くらい前からずっと同じ夢を繰り返し見るんです」
希実「‥同じ夢?」
希実、同じ夢と聞き、自分の見た夢と重なる。
沙耶良「はい。あの‥これまでそういう妊婦さんと会ったことってありますか?」
希実「妊婦さんですか‥いえ‥聞いたことないです」
沙耶良「そうですか‥分かりました。すみません、変なこと聞いて。そうですよね、気にしないで下さい」
希実、自分の映像や夢のことが気になってくる。
希実「あの‥妊婦ではないし、同じかどうかは分からないんですけど‥」
沙耶良「‥」
希実「映像みたいな‥経験したことじゃないのにまるで経験したことのように思う映像みたいなものが、私‥自分の中にずっとあって‥時々、夢にも見ることもあって‥ちょっと似てるのかなって思って‥」
沙耶良「‥そうです。私もそんな感じです」
希実「私の場合、時代が違ってるんです‥すごく昔なんだと思うんですけど、それなのに何か自分が体験したことのようなリアルな感じがして‥説明するの難しいんですけど‥」
沙耶良「‥私も同じです。時代劇みたいな風景で‥」
希実「本当ですか?私も何か絣みたいな着物を着てるんです。建物とかも古い感じで」
こっくりと頷く沙耶良に、驚く希実。
沙耶良「私は‥これって前世のことなんじゃないかって思ってるんです」
希実「‥前世?」
沙耶良「はい‥ただのロマンティシズムなのかもしれないなんて思ったりもしたけど、でもこの夢には意味がある気がするんです。教えて貰ってるっていうか‥自分でも変なこと言ってるって思うけど‥」
希実「・・いえ」
沙耶良「‥私の場合は、城下町みたいなところに住んでる景色なんです。夢の中ではは京都弁?みたいな方言で話してて‥」
<沙耶良の前世 江戸時代後期の京都>
城下町の一角で、菜種製油所を営んでいる石垣家。
石垣家の長女で十五歳のさち、母親のしげと言い争っている。
さち、生まれて間もない赤ちゃんを抱っこしている。
さち「あかんえ。この赤さんはまだ生まれたばっかりなんどすえ。お母やんが引き取らへんのなら、ウチが育てます」
しげ「さち、何でそんなん言いますの?何でお母やんの味方してくれはらへんの?」
さち「そんなんを言うてるんちゃうどすやろ?こないな赤さん一人でどないしますの?誰かが育てんとあかんやないどすか?」
しげ「せやったら中原はんのとこに預かってもろうたらよろしおす。子供はんおらはらへんし、たいそう喜ばれるわ。その方がこの子にとってもよろしおすえ」
さち「絶対にあかんえ。お母やんはちゃうても、お父やんは同じなんやさかい、ウチの妹どす。よそさまへ預けるなんて許しまへんえ」
しげ「さちは、お母やんが可哀想やって思ってくれはらへんの?」
さち「そやけど・・この子に非はあらへんやない。この子の実のお母やんかて、お産後すぐに亡くなってしまわれたんやし、一人で可哀想やあらしませんか」
しげ、ため息をつく。
しげ「とにかく、あかんものはあかんのどす。旦さんかてそないしてよろしいって言わはったんおすえ。さ、はよう、こっちへよこしおす」
さち「嫌や。この子はうちが育てますさかい」
しげ「あんさんには無理どす」
さち「無理とちゃいます」
さち、赤ちゃんを抱っこしたまま廊下を走っていき、自分の部屋へと閉じこもって襖につっかえ棒をする。
腕の中の赤ちゃんを見つめるさち。
さち「安心しい。うちが守るさかい。どこにも行かせへんからね‥名前もうちが決めたんえ。きぬちゃんや‥可愛いおすやろ‥」
さちの人差し指をきぬの小さな手がしっかりと掴む。
さち「きぬ‥」
暫くして、きぬを抱いたさちがこっそりと家を出て行く。
さち、近所に住む乳母のきくの元を訪ねていく。
きくが自分の子供にお乳を飲ませている。
さち「きくさん、お乳分けて貰われへんどすやろか?」
きく「お嬢さん‥心苦しいんどすけど、女将さんに断るようにと言われとるんどす。恐らくこのへんの人は皆そうやと思いますえ‥」
さち、何軒か回ってみるが全て断られる。お腹が空いて泣き出してしまうきぬ。
さち「待っとてな。何とかしますえ」
さち、遠く街外れまで歩いて行き、何とか赤ちゃんのいる女性を見つけ出す。
さち「お乳を分けて貰えへんどすやろか?頼みます。この簪、置いて行きますさかい」
綺麗な簪を置いて頭を下げるさち。女性、簪をさちへ返す。
女性「困った時はお互い様どす。こないな可愛いらしいお嬢さんが、そないな気遣いせんでええんどすえ」
きぬを抱っこしてくれる女性。
さち「おおきに‥おおきに‥」
感謝で涙がこぼれるさち。
三話へ続く
