「re 前世」第3話 #創作大賞2024#漫画原作部門
〇第三話
<前世 江戸時代後期>
さち、前の日に母乳を分けてくれた女性の家を訪ねている。
さち「これお団子どす。お乳の出が良うなるって前に乳母さんが話してあったさかい、置いておきますえ。受け取ってもらわられへんどすやろか‥」
女性「‥ありがとやんす。いただきます。お嬢さん」
さち、嬉しそうに女性に頭を下げる。
さち、女性の家を出ると、外に数人の男衆が待っている。
さち「何どす?!」
さち、きぬを抱いたまま走り出すがすぐに追いつかれて、きぬを無理やり奪い取って連れて行かれてしまう。
さち「あかん!返して!うちの妹を連れて行かんといて!」
さち力いっぱい走るが、全然追いつけずどんどん離れて行ってしまう。
さち「きぬ‥きぬ‥」
泣きながら走り続けるさち。
<現世 現在:2024年>
産婦人科の一室。
沙耶良が赤ちゃんを抱っこしたままベッドに座り、希実に前世の話をしている。
沙耶良「それから、妹には二度と会えなくて‥そんな夢を何度も繰り返し見て‥」
希実「‥そうなんですか」
沙耶良「この子はその時離れ離れになった妹なんです。変だけど、そうなんです」
希実「‥」
沙耶良「すみません‥こんなこと言われても困りますよね‥」
希実「いえ‥私もそうです」
沙耶良「‥私は前世で出来なかったことを果たす為に、また妹と会えたんだと思ってます。だから、分からないけど‥その持って生まれたという映像にも何か意味があるんじゃないでしょうか?」
希実「‥」
沙耶良「すみません、何かいい加減なことは言っちゃいけないって分かってるんですけど‥何かお節介してしまってますね。すみません」
希実「とんでもないです。親身になって聞いて頂いて嬉しいし、後藤さんに話していただいて本当にすごく有難いです。私、子供の頃、皆自分と同じように何らかの映像を持って生まれたんだろうって思ってたんです‥でも違うんだ、私だけなんだって分かってからは言わないようにしてて‥誰かに言ったら変な人だって思われるんだって思って、ずっとずっと誰にも言えなくて‥」
沙耶良「そんなにずっと‥私の場合は夢を見始めたのは一年半くらい前からなんです。それでもこれだけ辛いのに、どれだけ大変か‥」
沙耶良、思わず立ち上がり、赤ちゃんを右手に抱っこしたまま、左手で希実の腕をさする。
希実「‥」
希実、思いがけず涙が零れる。
数日後、希実が駅の構内を走っている。
時折人にぶつかりながら走って行く希実。
駅の柱に寄りかかり待っている睦を見つける。
携帯を見ている睦をじっと見ている希実。
ふと睦が希実の視線に気付き、笑いかける。
希実、睦に手を振り近づいて行く。
睦「いつからいたの?」
希実「うん、さっき。何か声掛けられなかった」
睦「え?何で?携帯見てただけでしょ」
希実「そうなんだけど‥何か私、遠くからでも睦のことなら絶対見つけられるなって思って、何かぼうっと見てた‥」
睦「そりゃあそうでしょ。家族なんだから」
希実「そっか‥そうだね」
睦「あ、お店さ、あっちの方みたい。ここなんだって」
睦、携帯の画面を見せると睦と瑠衣の写真の待ち受け画像になっている。
睦「待ってね‥えっと、ここだ」
睦、操作して地図の画面を見せる。
希実「へえ、ここから近そうだね」
睦「うん、行こう」
歩き出す睦と希実。
睦と希実、小さな雑貨店で未知音の誕生日プレゼントを選んでいる。
二人で、やはり瑠衣と色違いのマフラーを選び、希実がカウンターへ向かう。
希実「ラッピングしてもらって来る」
睦「うん」
睦、ふと近くにあった食器の棚に土鍋セットを見つける。
土鍋と同じ柄の器が5個付いている。
手に取り眺める睦。
注文を終えた希実が睦の近くへ戻って来る。
希実「土鍋セット?これですき焼きしたら良さそうだね」
睦「うん。買ってこようかな‥」
希実「皆喜ぶよ。これもプレゼントにしよう」
睦「いいよ、俺が欲しいだけだし‥」
希実「‥」
睦、土鍋を持ち上げて眺めている。
睦と希実、レストランで食事をしている。
家族連れで賑わっている店内。
希実「こないだのすき焼きの時、瑠衣さんの器だけ皆と違ってたもんね‥睦、気にしてたんだね‥」
睦「ん?いや、まあ何となく‥」
希実「ふふ‥何かいいね。瑠衣さんもきっと睦のそんなとこが好きなんだね」
睦「え?さあ‥どうかな‥」
照れながら答える睦。
睦「この店ずっと昔にさ、父さんと俺と希実と三人で来たの覚えてる?希実の誕生日の時」
睦が希実に尋ねる。
希実「うん、覚えてる。母さんが生徒さんの誕生日を祝ってあげたいからって来れなかったときでしょ?」
睦「そうだったね」
<十五年前の自宅>
部屋で出掛ける支度をしている十歳の希実。
嬉しそうにカチューシャをつけ、部屋を出ていく。
希実、リビングに入ると和志と未知音が珍しくもめている。
希実に気づいていない二人。
いたたまれずキッチンに立っていた睦が希実に気づき、手招きをする。
睦「希実、ピコ食べる?」
希実「うん」
希実、睦、キッチンでアイスを食べながら、リビングの二人を見ている。
和志「だったらその子も一緒に食事に呼びなよ?」
未知音「そんなこと出来ないよ。その子が、希実も今日誕生日なんだって知ったら、居心地悪く思うと思う」
和志「でも、希実だって今日楽しみにしてたんだよ。ママがいない誕生日なんてイチゴの乗ってないショートケーキだよ」
未知音「‥それなりに美味しくない?」
和志「は‥間違えた‥」
思わず笑う未知音。
未知音「ごめん‥私も最初は一緒にって思ったの。でも、それだとその子が私にとって四分の一みたいで‥今日はその子に一分の一だって思って欲しいの。だからその子と二人っきりで祝ってあげたいの。ごめんなさい。希実にはちゃんと話す」
和志「‥分かったよ」
キッチンの希実、そっとカチューシャを外す。
睦、自分の被っていた帽子を取り、希実の頭に被せる。
睦「あげる。おめでとう」
小さく頷く希実。
<現在>
レストランで食事をしている睦と希実。
睦「あの日、お店に着いたら希実が、ご飯食べなくていいからプリンアラモード食べたいって言いだしてさ、でも父さんが何も言わずにプリンアラモード頼んでくれたんだったよな」
希実「そう。父さんと睦がご飯分けてくれようとしたんだけど、何か意地になってプリンアラモードだけ食べたんだったよね。何かごめんね‥気を使ってくれてたのに‥今更だけど‥」
睦「あはは。いや俺も何か印象的で、希実があんな風に言って困らせるのってそれまで見たことなかったからさ、何かすごい覚えてる‥」
希実「うん‥あの時何故か我儘だって分かってたんだけど、どうしてもどうしてもプリンアラモードが食べたかったの。あれ何だったんだろう‥自分でもあの時の気持ち何か覚えてるんだよね‥無茶なこと言ってるなって思いながらもどうしても止められなかったな」
睦「俺、あれ以来プリンアラモード見ると必ず希実のこと思い出したもん」
希実「あはは」
睦「でも母さんさ‥スクールカウンセラーって本当に天職だなってくらい向いてると思うんだけど、やっぱり子供の頃は少し寂しかったな‥母さんの中にはいつも生徒がいて‥皆のお母さんっていうか、俺達だけの母さんじゃない気がしてた‥」
希実「うん。私も‥だから、私と睦は普通の兄妹より仲がいいねって言われるのかな‥」
睦「‥全部は甘えられないっていう気持ちを共有出来たっていうのはあるのかもな‥」
希実「うん、そうだね。でもさ‥結婚したら睦、居なくなっちゃうんだね‥」
睦「いや、近くに住むつもりだし今までと大して変わらんよ」
希実「でも家族じゃなくなっちゃうじゃん」
睦「何で?家族でしょ?」
希実「ううん。今の睦の家族は、父さんと母さんと私のことだけど、結婚したら睦の家族はそっちになる」
睦「‥ああ、考えたことなかったな」
希実「でもずっと兄妹であることは変わらない。睦と私はこの先兄妹ってことだけで繋がってくんだね」
睦「‥それだけじゃないでしょ。歴史とか思い出とか絶対なくならないし、思いとかそんなものでも繋がってるよ」
希実「そうかもしれないけど、思い出って段々遠くなっていくし、思いなんてもっと頼りなさ過ぎるよ」
睦「どうしたの?‥何か怒ってるの?」
希実「ううん。睦が幸せになるんだから嬉しいに決まってるじゃん」
睦「でも‥何かあの誕生日の時と同じ顔してる」
希実「‥」
睦「希実は1分の1だよ。何も変わらんから」
希実「‥でも」
睦の携帯の通知音が鳴る。
睦「あ、やばい。今何時かな?俺、用事出来ちゃって‥家まで送ってくよ」
希実「え‥そっか‥いいよ、電車で帰るから」
睦「いいって、そこまでが一セットだから」
立ち上がる睦。
家の前で車を降りる希実。
窓が開き睦が声をかける。
睦「晩御飯いらないって言っといて」
希実「分かった。送ってくれてありがとう」
睦「ううん、いいプレゼント見つかって良かった」
希実「うん」
睦「じゃあ」
去っていく車を見送っている希実。
ー希実『何日も前から楽しみにしていたこの時間には、楽しみにしていた日数分の思いが乗っかっていて、たったこの数時間にその日数分の期待や不安や恥ずかしさや弾んだ気持ちやそんな幾種類もの気持ちが重なって積もっていて‥なのにそんな楽しい時間は一気に過ぎ去っていき、寂しさという一種類だけの気持ちを残す』ー
希実「変わるよ‥結婚したら、奥さん、子供、それからおじいちゃんおばあちゃん‥妹のことなんて思い出さない日が多くなるよ‥」
心が寒いと人は温まらないものなのかもしれない‥と、身をすくめながら睦の車が角を曲がり見えなくなるのを希実はぼんやりと見ていた。
四話へ続く
