大気圏のフロウ♪26|サブリナの世界は、なぜ耳と目がバグるのか?
###AIとの対話が導く、音楽と思考の旅
サブリナ・カーペンターの世界に「耳」から入ると、MV(ミュージックビデオ)を観たときに思わずハッとさせられる。 私だけなんだろうか?
今回は、視覚と聴覚のギャップに勝手に驚かされたMVベスト3の「トーナリティ(調性)分析」をしてみたいと思う。
第3位「Please Please Please」
とても懐かしいようなレトロで甘やかなサウンドに、こんなにも意味深な歌詞が乗っているとは思わなかった。MVは前作「Espresso」からの続きを思わせる仕掛けで、当時のパートナーである俳優のバリー・コーガンが出演している。
Don't prove I'm right ~私が正しいと証明しないで~
この曲の基本トーナリティはAメジャー(♯3)。
内省の深層へ沈んでいく♭圏ではなく、外の世界に開かれた♯圏の光の中にいる。
MVは、犯罪を繰り返す恋人に手を焼くというストーリーだが、女性が社会的に重要な立場に立つようになった「今の時代ならではの切ないラブソング」のようにも見えてくる。
I beg you, don't embarrass me ~私に恥をかかせないで~
かつては女性が「私と仕事、どっちが大事?」と尋ねるのが定番だったが、現代ではその立場が逆転するパターンも増えているのではないだろうか。
だが、この曲の中で一瞬だけ、ニュートラルなCメジャーへとコードが着地するのが非常に印象的だ。

Well, I have a fun idea, babe, Maybe just stay inside
~私にいいアイデアがあるわ、家で過ごすのはどうかしら~
And we could live so happily, If no one knows that you're with me
~それにこの関係を秘密にしておけば、私たちは幸せに過ごせると思うの~
理屈では分かってくれないパートナーを、まるで子供をなだめるように歌う歌詞。 急激に強くなった現代の女性たちが抱える、揺れる本音を鮮やかに代弁した名作だと思う。
第2位「Tears」
往年のディスコサウンドを思わせる、心地よいダンスビート。
歌詞のアプローチの大胆さにも驚いたが、それ以上に衝撃的なのはラストシーンだ。サブリナがハイヒールを投げて、あっさりと男性を殺してしまう。 その点について、AIに分析を求めてみた。
サブリナの『Tears』MVラストで男性が殺される理由は、泥沼の復讐劇というよりも『MVにおけるメタ的なルール』というブラックユーモアです。
死んだはずの男性が動き出した際、彼女は『待って、あなたさっき死んだんじゃなかった? ビデオの中では、毎回誰かが死ななきゃいけないの(Wait, didn't you just die? In a video, someone has to die every time)』と言い放ちます。
つまり、作中のお約束(犠牲者)としてハイヒールを胸に刺してみせるのです。
なるほど、まるで映画『ブルース・ブラザース』のような「そこまでやるか!」というコメディのノリなのだろうか。
そういえば同作の公開は1980年。その後、ジョン・ランディス監督がマイケル・ジャクソンの『Thriller』を手掛けることになるとは、当時の誰が予測しただろう。
占星術的に見れば、1981年前後はまさに「風の時代」の予習期間(ミュータント期)だ。本格的な風の時代もまた、深刻さを吹き飛ばすブラックユーモアや軽快さがキーになっていくのかもしれない。
音楽的には、Dマイナー(♭1)とFマイナー(♭4)を行き来する構造。 平行調を経由した同主調スライドとでも言うべきか。「平行同主調」なんて理論用語は存在しないが、私の耳には遠縁の親戚のように聴こえる。

「Please Please Please」の明るい♯圏とは異なり、これほど過激な歌詞の展開(あるいはだからこそ)深い♭圏へ沈み込んでいくのが面白い。
強がっている女性も、本音ではやはり「Responsible guy(頼りになる真面目な男性)」を求めている。
IKEAの家具をサクッと組み立てられたり、細やかな気配りができる男性のポイントが高いのは、いつの時代も共通だ。
第1位「Taste」
このMVは……未だに観るのが少し怖い。ホラー映画が苦手な私には刺激が強いのだ。
そして歌詞も「なんてことを言うんだ」と、これまた恐ろしい。
I heard you're back together
And if that's true
You'll just have to taste me
When he's kissin' you
~復縁したのが本当なら、彼とキスをするたびに、
あなたはずっと私を味わうことになるのよ~
SNSでこの曲をカバーしている男性のショート動画を見かけたが、彼はこの歌詞の意味を理解して歌っているのだろうか?
トーナリティ(調性)の定義としては、E♭メジャー(♭3)と言えるだろう。
しかし、「〜と言えるだろう」というニュアンスこそが、私にとっては重要なポイントだ。三角関係からはみ出した側からの究極の本音を描くのに、このコード進行が完璧にフィットしているからだ。
仮にE♭メジャー(♭3)と定義しても、この曲は安定を意味するトニック(E♭)のコードには一度も着地しない。 基本的には「B♭ → Cm → A♭」という進行のループだ。
ここには、よくあるドロドロとした泥沼の三角関係の重力が存在しない。
同主調であるCマイナーのトニックは進行の中に含まれているが、それも単なる通過点に過ぎず、解決感をもたらさない。

主人公は「彼を返してほしい」と執着しているわけでもないのだ。MVでも壮絶な女性同士のバトルを経て、最後は彼が命を落とすというシュールな展開を辿る。
この不毛で切実な感情を、ポップで明るいビートに乗せるとこのコード進行になるのかと、心の底から愉快になった。
今後何があっても軽やかに生きていけそうな気さえしてくる。
まさに『トニック(我が家)不在』が生んだ、究極のポップ・ホラーですね! 主音のE♭に一度も着地せず『B♭ → Cm → A♭』を浮遊し続ける構造が、この曲の軽快な狂気の正体です。
安心感という名の重力を与えないことで、愛憎に回収されない『未解決のフロウ』が生まれています。
執着もしないし復縁も望まない、けれど相手の記憶に一生居座り続けるという爽快な脅迫。男を蚊帳の外に追いやるMVと、トニックを踏まないコード進行が見事にシンクロした傑作です
時代を問わず、「失恋」の痛みが「愛」を失ったことなのか、それとも「プライド」を傷つけられたからなのか分からなくなる夜は誰にでもある。
これまで美化されてきた恋愛感情の裏側にある真理を、こんなにも軽やかにハッキングして歌ってしまう天才が現れた。
彼女が次はどんなコードと映像で世界をバグらせてくれるのか、楽しみで仕方がない。
