女を取り戻したかった。刺激に溺れて、本気になって、壊れていった私。
旦那に何も不満はない。
優しいし、真面目だし、
家族も大切にしてくれる。
だけど。
「綺麗だね」
その一言が欲しかった。
人は愛されていないから
心が揺れるわけじゃない。
愛されていることに慣れすぎて、
見えなくなったときに心が揺れる。
女として見られたい。
誰かに求められたい。
そんな小さな寂しさから始まった恋。
けれど気づけば、
彼女が失いかけていたのは
夫婦関係だけではなかった。
刺激に振り回され、
本当に大切なものを見失っていく。
そしてある日、
娘の何気ない一言が
彼女の世界を大きく揺らす。
「パパ、ママが風邪ひいたとき一番心配してたよ」
愛とは何か。
恋とは何か。
そして、
本当に失ってはいけないものとは何か。
そんな物語です。
綺麗だよ
旦那に何も不満はなかった。
優しいし、真面目だし、 家族も大切にしてくれる。
ただ。
レスになって何年も経っていた。
女として見られている感覚だけが どこか遠くへ消えていた。
その日。
少しだけメイクを変えた。
すると娘が言った。
「ママ、なんか可愛い。」
嬉しかった。
でも。
本当に聞きたかった相手は 旦那だった。
だけど旦那は気づかない。
何も言わない。
昔みたいに 「似合うね」とも言わない。
だから。
その言葉に弱かった。
「綺麗ですね」
たった一言だった。
画面の向こうの彼が送ってきた。
たったそれだけ。
それだけなのに。
忘れていた心が じんわりと熱を持った。
最初はただ嬉しかった。
女として見てもらえた。
そう思った。
それだけだった。
だけど人は。
欠乏していたものを与えられると そればかり欲しくなる。
朝起きるとメッセージを確認する。
仕事中も気になる。
返信が遅いと落ち着かない。
既読がついているのに返事がない。
それだけで胸がざわつく。
旦那に頼まれていたことを忘れた。
買い物。
書類。
娘の提出物。
以前なら忘れなかったこと。
でも頭の中は別のことでいっぱいだった。
彼は今何してるんだろう。
誰といるんだろう。
なんで返事がないんだろう。
いつしか。
女として見てほしかっただけなのに。
彼から見捨てられたくないに変わっていた。
気づけば。
旦那より彼の予定を優先していた。
娘の話より彼の言葉を待っていた。
家族といてもスマホが気になった。
そして。
ある日。
彼のSNSに女性のコメントを見つけた。
胸が苦しくなった。
イライラした。
落ち着かない。
おかしい。
私は結婚している。
束縛する資格なんてない。
そう思うのに。
心は言うことを聞かなかった。
誰なの?
その人。
仲良いの?
どんな関係?
聞きたい。
でも聞けない。
聞けば重い女になる。
嫌われるかもしれない。
あんなに欲しかった自由なのに。
気づけば。
一番縛られていたのは 自分だった。
彼からの
「綺麗だよ」
その一言は。
私を自由にしてくれる魔法ではなかった。
もっと欲しい。
もっと認めてほしい。
もっと見てほしい。
もっと特別になりたい。
その欲望は。
どんどん大きくなった。
ある夜。
娘がぽつりと言った。
「パパ、ママが風邪ひいたとき一番心配してたよ」
私は顔を上げた。
「ママ寝てる時も何回も見に来てたし」
「お薬も買いに行ってたじゃん」
言葉が出なかった。
彼は。
綺麗だよと言ってくれた。
でも熱を出した夜に 来てくれたことはない。
彼は。
会いたいと言ってくれた。
でも雨の中を薬を買いに 走ってくれたことはない。
彼は。
私を女として見てくれた。
だけど旦那は。
私の人生を見ていた。
その瞬間。
胸の奥が崩れた。
私は何を求めていたんだろう。
愛だと思っていた。
でも違った。
求めていたのは刺激だった。
刺激は人を高揚させる。
でも。
人生を支えてはくれない。
恋は心を奪う。
愛は人生を支える。
そして多くの人は。
支えられていることに慣れた頃。
奪ってくるものを 愛だと勘違いする。
失う直前になって初めて気づく。
当たり前だと思っていた優しさが、
本当は何より尊いものだったことに。
