令和の倉庫は「ひとにやさしく」
公益財団法人流通経済研究所
研究員 船井 隆
突然ですが、質問です。
「物流倉庫」と聞くとどんな場所をイメージしますか。
かつては、ハードな労働環境から3Kと揶揄されていたこともあるかと思います。しかし、それはもはや変わりつつあります。この度、令和の最新倉庫を見学する機会があり、自分の考えが古いイメージのまま止まっていたと驚きました。
もし、あなたも、倉庫という場所について古いイメージのままで止まっているのであれば、ぜひ読んでいただきたい本日のお話。ひとにやさしい令和の倉庫事情をアップデート。働きやすい倉庫への投資が、人への投資、人的資本経営につながるという論点にてお付き合いください。
都心のIT企業?

まずはこちらの写真。どこかのカフェかと思われるのではないでしょうか。しかし、こちらは三菱地所株式会社が開発した物流倉庫「ロジクロス相模原」の共有スペースの写真なのです。倉庫施設のテナント企業の従業員さんや、出入りする配送ドライバーのみなさんなどが、こちらで休憩したり、打ち合わせなどをしたりすることができるスペースです。
私の撮った写真では表現しきれませんが、見晴らしのよい大きな窓が広がり、開放感と日当たりがとても気持ちのよい空間でした。観葉植物や家具などのクオリティも含めて、都心のハイグレードオフィスビルに勝るとも劣らない設備です。


PC作業やスマホ充電もバッチリ(筆者撮影)
さらに驚いたことに、こんなクオリティの休憩室が延床面積約5万坪の施設内にいくつもあるんです。しかもそれぞれに異なるテーマがあって色々な雰囲気を楽しめるというこだわり。



こんな場所なら最高に気持ちのいい休憩時間が過ごせることはもちろんですが、それだけではありません。
近年はABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という言葉が注目を集めているように、ひとところで一日中作業をするのではなく、タスクの種類(集中⇔リラックス/1人で黙々⇔チームでアイデア交換)にあわせて場所を変えながら作業をすることが生産性とモチベーション向上につながるという指摘もあります。
もちろん職種によって働き方は大きく異なりますが、バックオフィス業務に近い従業員にとっては、自分の拠点となるデスクに加えて、複数のコンセプトを持つこのスペースを活用できるというのは非常に大きなメリットになるのではないでしょうか。生産性やモチベーションの向上につながりそうです。

※この画像の設備が同倉庫にあるわけではありません※
エナジーチャージもお任せあれ
一方、倉庫の敷地が広すぎて外に買い物に行くのも一苦労だろうな、と思ったあなた。安心してください。24時間稼働の無人コンビニがあります。





命を救うかもしれない設備
ここまでは、一般的な事業所として魅力的な設備を持っているというお話でしたが、もう一歩、倉庫としての側面に踏み込んで、そこで働く人にやさしくという観点でみると、同施設には非常に重要な設備があります。
それは、「空調」です。もはや誰もが認識している通り、夏の暑さへの対策は非常に重大な課題であり、熱中症はかつてなく身近なリスクになってきています。折しも今月6月1日より、改正労働安全衛生規則が試行されました。これは職場における熱中症対策の強化を義務付ける内容で、倉庫のように熱中症リスクが高いと考えられる職場では、対策のための体制整備や対応手順作成などが求められます。そのことから、エアコンが設置されていない施設で作業する方向けに、空調服などの売り上げが急上昇しているという報道も増えています。
一方、ロジクロス相模原は、標準装備で全館空調がついているんです。しかも、同施設は現在のインフレ傾向が始まる前に着工されたことから、コストを抑えた形で空調を設置することができました。そのため、今から同規模の倉庫に空調を新設する場合に比べて、賃料への影響がかなり低くなっているとのことです。すばらしい先見の明だと思います(一人ひとりが空調服を使用することと、倉庫を包括的な空調システムで涼しくすることと、どちらが人と環境により優しいかを検証することは必要かもしれません)。
実際に、私が見学した日は日差しが強く非常に暑い日だったのですが、施設内は非常に涼しかったです(なお、スペックとしては、外気温34度のときでも室内が28度程度になる仕様とのこと)。

天井高への影響を最小限に抑えたレイアウトとなっている
設備投資が人への投資に
あらゆる業界で人手不足が叫ばれている昨今、企業は求職者から選ばれる存在にならなければなりません。そう考えると、このように「ひとにやさしい」倉庫を使う流通企業は、そうでない企業に比べて人材を集める競争力が増すのではないでしょうか。
流通企業が倉庫を選ぶ際、その拠点の物流機能が自社の戦略に合うかが最重要基準になりますが、プラスの視点として、そこで働く人の生産性や健康のことを考えた投資という観点から戦略的に選定することも今後非常に重要になると考えます。これは、人的資本経営の考え方とも通ずる部分ではないでしょうか。
また、今年から海外人材が日本で働くための特定技能制度に「トラックドライバー」が加わり、来年からは「倉庫作業」の新設も議論されています。海外から来た人材は、地縁に関係なく働く場所を選ぶ傾向にあり、そのため幅広い地域の選択肢の中から、労働環境や待遇などの条件をシビアに比較すると指摘する声もあります。そうなったとき、選ばれる事業所を持っている、ということの重要度は更に増すでしょう。
という論点から、今回は倉庫の主眼である物流面での機能ではなく、少し角度を変えた視点にてお話をさせていただきました。
三菱地所のみなさま、最新設備の見学機会をいただきまして誠にありがとうございました!

本レポートでは、戦略的に重要な物流機能や環境への配慮は今回言及できませんでしたので、詳細は下記リンクよりご確認ください⇩

