青山商事のサステナ経営はなぜ進むのか?──サステナビリティ・事業成長・人的資本経営が創る好循環(前編)
今回は、アパレル業界においてサステナビリティの実装を先導する青山商事の取り組みをご紹介します。
同社では、ESG推進・コーポレート本部と商品本部を中心に、素材選定から製造・販売・回収までを視野に入れた循環型ビジネスの構築を進めています。特に、不要衣類の回収・再資源化プロジェクトや「WEAR SHiFT」などの独自の取り組みが注目されています。
環境負荷の低減や社会的責任への対応が急務となるアパレル産業。その中で青山商事がどのように体制を整え、事業戦略にサステナビリティを組み込んでいるのか、その推進役を担うご担当者様への取材をもとに、詳しくお伝えします。
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美

【お話をうかがった方々】
執行役員 ESG推進・コーポレート本部長兼総務部長 長谷部道丈さん(中央)、広報部 サステナビリティ推進グループ長 宮本征大さん(左)、報道グループ長 髙橋直哉さん(右)
❚ サステナビリティ推進体制
聞き手:サステナビリティの推進体制について、現在の組織とその立ち上げの経緯を教えてください。
長谷部さん:当社がサステナビリティに本格的に取り組み始めたのは、プライム市場に上場していることが大きなきっかけです。上場企業としてSDGsへの対応や情報開示が求められるなか、小売業としてお客様と直接接する当社は、社会からの期待の高まりを強く感じていました。
まず今から5〜6年前、ESGに関する情報発信の必要性が高まり、ESG関連のホームページを開設しました。その際は自然な流れで広報部が担当となり、そこから体制づくりが始まりました。
その後、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示が求められたことが、取り組みを加速させる大きな契機となりました。「今後はしっかり対応していかなければならない」という共通認識が社内で共有され、議論の場づくりが進みます。
まず、2023年4月に、全社横断型の組織としてリスクマネジメント委員会傘下に「サステナビリティ部会」を立ち上げました。その後、2023年10月には、広報部内に「サステナビリティ推進グループ」を設置し、体制を強化しました。
新たに設置された「サステナビリティ部会」は、経営との結びつきを持った意思決定プロセスが整備されています。重要事項は部会で協議・報告され、取締役会に上申し最終決定する流れになっています。各部署での実務は、サステナビリティ推進グループが取りまとめ役となってサポートしながら進めています。

(出所:青山商事グループ「SUSTAINABILITY DATA BOOK 2024」)
長谷部さん:このように組織体制を段階的に整備したことで、会議の招集やメンバー選定などがスムーズになり、推進力が一段と高まりました。そこから得られた「気づき」や「学び」も多く、体制整備の効果を実感しています。
課題としては、現在は広報部がサステナビリティを兼務しており、実質的には「広報兼サステナビリティ推進部」という形です。今後、経営判断によりますが、「サステナビリティ推進部」や「準備室」といった専任組織として独立できれば、より明確で推進力のある体制になるのではないかと考えています。
サステナビリティ推進グループは現在2名体制で、業務を対応しています。もともとリスク統括部・人事部に在籍していた人材が関わっており、その経験に加え、外部講習などにも参加しながらサステナビリティ分野の知識を持つメンバーで構成されています。
一般的に社会分野のテーマでは、当社に限らず女性メンバーが中核を担うケースが多く見られます。ダイバーシティ推進や女性活躍、社会貢献、森林保全、自治体連携など、社内外を巻き込む領域では特に女性の活躍が目立っています。縫製工場などでは女性従業員が多く、工場視察の際には現場との連携を含めてサステナビリティ推進に大きく寄与していると感じています。
環境分野では、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のS2が重要なテーマになっており、気候変動だけでなく、生物多様性やプラスチック問題など、今後対応すべき領域が広がる見込みです。有価証券報告書におけるIFRSサステナビリティ開示基準の中でもS2は特に重要だと認識しており、第三者検証など外部からの視点も踏まえて対応を進めています。

聞き手:「サステナビリティデータブック」を拝見しましたが、とても充実した内容ですね。
長谷部さん:サステナビリティデータブックの初版は、私が多くの部分を作成しました。当時は情報開示への要請が高まる一方、社内にまだ出せていない情報や更新されていない内容も多く、ゼロから情報を集めて編集する必要がありました。完成後はその内容をベースに、既存情報の更新や新たな情報の追加を進めることで、徐々に充実させていきました。
私は採用や法人営業の領域を長く担当してきたこともあり、その視点を活かしながら構成しました。一方で、ほかのメンバーは人事やリスク統括など管理部門出身で、それぞれ得意分野を分担しながら進めています。現在は私を含めて3名体制で担当していますが、社外では「何人で作ったのか」と驚かれることもあります。
もっとも、すべてを一から作ったわけではありません。土台となる部分は経済人コー円卓会議(CRT)日本委員会※のプラットフォームを活用し、その上で各部署との面談を通じて情報を集め、整理・編集して仕上げました。ブラッシュアップとアップデートを同時に進める形で作り上げたものです。
※経済人コー円卓会議(CRT:Caux Round Table)…ビジネスを通じて社会をより自由かつ公正で透明なものとすることを目的としたビジネスリーダーのグローバルネットワーク。
🔗https://crt-japan.jp/
長谷部さん:実際の実務を支えてくれているのは各部署の協力です。環境分野は総務部、社会分野は人事部・人材開発部、ガバナンスは総合企画部が主に担当し、それぞれの支援がなければここまで形にすることはできませんでした。特にガバナンスは経営領域であり容易に変更できる部分ではなく、社内外の理解や機運が高まって初めて前に進みます。
情報を集約した理由の一つは、「誰に何を伝えるか」を統一するためです。さまざまな部署や経営層からサステナビリティの情報開示について同じ質問を受けるなかで、「それなら最初から情報を一本化して開示したほうがいい」と考えました。広報としても、人によって説明内容が変わる状況は望ましくなく、「これを見れば全体像が分かる」と言ってもらえるものにしたいという思いがありました。
初版作成に取り掛かった当初は、社内から「本当に作るの?」と半信半疑の反応もありましたが、完成後は「便利だね」という声を多くいただいています。いまは、「作るのが当たり前」という認識が社内に定着してきたと感じており、店舗の店長・マネジャーやブロック長・ゼネラルマネジャーといった現場のマネジメント層にも理解を広げていく段階に来ています。
聞き手:データブックを整理したことの効果はどのように感じられていますか?
長谷部さん:データブックを整備したことで、経営やIRから質問を受けた際にも「この資料をご覧ください」と示せるようになり、説明の一貫性と正確さが保てるようになりました。担当の取締役も活用しており、投資家とのエンゲージメントの場でも役立っています。
営業現場でもサステナビリティへの取り組みついてお客様に資料を提示するケースがあり、「こんなに取り組んでいたんですね」「よく分かりました」と評価していただくことも増えました。営業活動の後押しにもつながっており、社内外の情報を一つに集約した意義は大きいと感じています。
データブック作成を始めて今年で4年目、第4版となり、ページ数は約100ページに達しました。前回からマテリアリティ(重要課題)の内容も反映したことで、全体としてより経営とサステナビリティの統合を感じさせる資料にアップデートされています。まとめ上げるまでに1年ほどかかりましたが、それだけ完成度の高い手応えのある内容になったと実感しています。
❚ マテリアリティ策定のプロセス
聞き手:マテリアリティ策定プロセスについて教えてください。
長谷部さん:はい。マテリアリティの正式な策定は今回が初めてです。これまでは当部で重要テーマを仮設定し、中期経営計画に落とし込む形で対応していましたが、今回はプロセスそのものを重視し、次のような手順を踏んで策定しました。
まず、業界動向や社会的に注目されているテーマ、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)の項目などを参考にしながら、重要課題の候補を抽出しました。そのうえで、関連部署を集めてワークショップを実施し、「ステークホルダーごとのリスクと機会」、「バリューチェーン上の影響度」、「リスク・機会の整理」などを班ごとに議論し、発表してもらいました。そこで出てきた内容を集約し、マテリアリティの全体像を固めていきました。
策定プロセスの中では、「どのステークホルダーに、どの段階で、どのような影響が及ぶのか」を体系的に整理しています。環境面ではシナリオ分析を、社会的な面ではステークホルダー・エンゲージメントなども取り入れました。
特に大きかったのは、NGO団体によるリスク評価です。CRT日本委員会を通じて1万2,000以上の団体から情報を収集し、専門会社による分析を経てリスクの洗い出しと評価を行いました。こうした多角的な情報に基づいて検討を重ねたことで、実効性のあるマテリアリティ設定ができたと考えています。
また、取り組みの中では、中期経営計画と連動させながら、主要施策と定量・定性目標を設定しました。社外への開示はタイミングや手段の難しさがある一方、重要課題として取締役会の承認を得たことで、全社的に推進に拍車がかかりました。
策定プロセスでは、外部パートナーとも議論を重ね、各項目の影響度や時間軸を社内の実感とグローバル基準の両面から調整。半年から1年弱かけて、ステークホルダーへの影響、バリューチェーン上の位置づけ、リスクと機会を丁寧に検討・整理し、最終的に以下の7つに集約しました。

(出所:青山商事グループホームページ「マテリアリティ(重要課題)の特定」)
長谷部さん:「経営のレジリエンス向上」については、私たちがこれまで取り組んできたサステナビリティへの取組と、グループガバナンスの強化を重要な柱と位置づけています。「脱炭素社会と循環型社会への適応」では、CO2排出削減や汚染防止といった基本的な施策に加え、ネイチャー・ポジティブ(生物多様性)への取り組みといった分野にも今後一層注力していく考えです。
また、「人的資本経営」の視点は特に重要です。小売業にとって「人」は資本そのものであり、社内外における人権尊重は当然ですが、ビジネスと人権(BHR)に関する指導原則に基づいた人権デューディリジェンスの対応も不可欠になっています。これらは中期経営計画とも密接に連動しています。
加えて、スマート・サステナブル商品への対応は小売業ならではの課題であり、収益の観点も関わるため、財務と非財務の両面での連動、いわゆる経済合理性も求められます。また並行して「安心・安全の提供」や「お客様からの苦情・報告への対応」といった取り組みも新たに盛り込みました。
聞き手:バリューチェーン全体にわたって各部署や外部関係者とワークショップ形式で連携しながら進めてこられました。半年から1年でここまで仕上がったのは大きな成果だと思いますが、その過程は大変ではありませんでしたか。
長谷部さん:苦労はありましたが、知識と経験を持つ人が主導すれば、しっかりと形にすることができます。外部の専門家のサポートも受けながら、内部で全体を理解し、関係部署や専門家と調整しながらまとめていく役割を担えたことは自分としても良かったと思います。
聞き手:当初は仕組みも整っていない中で、長谷部さんが主導して進められ、そこに知識を取り入れながら形をつくっていかれた。そして今回は、外部の意見を取り入れつつ社内での対話も重ね、内容をアップデートされたということですね。
長谷部さん:はい、その通りです。特に大きかったのは、NGOの約1万2千団体の声を集約できたことです。これは私たちにはないネットワークであり、世界各国からの意見を反映できたのは非常に意義がありました。結果として、ESGの視点やステークホルダー・エンゲージメントなど、多様な観点を盛り込むことができたのです。市民社会からの知見が加わったことで、より実効性のあるマテリアリティになったと考えていますし、経営層への提案・承認プロセスにおいても説得力が増したと考えています。
聞き手:青山商事様のマテリアリティは「リスク管理」と「機会の活用」がバランス良く盛り込まれています。サステナビリティの取り組みでは、環境対応や人権への配慮など、「リスクを減らす」ことに偏りがちな印象ですが、「機会を活用する」視点も意識的に取り入れられたのでしょうか。
長谷部さん:そうですね。リスクと機会は表裏一体ですので、どちらかだけでは不十分です。私は「このリスクに対してはどんな機会があるのか」と常に確認しながら整理していきました。例えば「気温上昇でスーツ需要が減る」というのはリスクですが、「涼しい商品を開発すれば新たな需要になる」というのは機会です。このように両面を丁寧に捉えて整理したことで、バランスの取れた体系的な内容に仕上がったと思います。
❚ マテリアリティ策定から得た学び
聞き手:マテリアリティの取り組みを振り返って、良かった点や今後の見直しのポイントはありますか。
長谷部さん:一番の成果は、重要課題であるという前提に立ってプロセスを踏み直し、7つのマテリアリティを根拠を持って設定できたことです。経営にもきちんと認識してもらえた点は大きな前進でした。ただし、マテリアリティは設定して終わりではなく、状況に応じた見直しが不可欠です。
たとえば、中期経営計画の変更や、プラスチック規制の強化といった外部環境の変化があれば、関連する項目だけでも更新する必要があります。すべてを見直すのではなく、影響のある部分だけを毎年チェックして修正するスタンスが現実的だと考えています。
特に環境分野は変化のスピードも注目度も高い領域です。生物多様性などは対象範囲が広がっており、ティア2・ティア3(一次取引先〔Tier1〕のさらに上流にあたる、素材・部材などの供給層)といったサプライチェーン全体の把握や開示にも、今後本格的に対応していかなければなりません。そこが正確に把握できなければ、マテリアリティフレームワークの構築やリスク評価も進めづらくなります。
私たちは業界の最先端を走るというより、「半歩先」を目安に進めることを意識しています。規模感としても時価総額約1000億円規模の会社ですので、SSBJの開示にも段階的かつ進捗状況を見ながら備えています。そうはいっても2030年以降には有価証券報告書での対応が必須になる見込みで、コストとのバランスを取りながら慎重に準備を進めているところです。
❚ サプライチェーンにおける人権尊重
聞き手:今回はマテリアリティの中でも「サプライチェーンにおける人権尊重」「スマート・サステナブル消費」「キャリア育成とモチベーション向上」の3点に焦点を当てたいと思います。まず、人権に関する取り組みとその背景について教えてください。
長谷部さん:サプライチェーンにおける人権尊重では、昨年度、2回目の人権方針改定を行い、新たに「先住民族」の項目を追加しました。東南アジアへの生産シフトが進む中で、製造拠点周辺に先住民族の土地が含まれている可能性を考慮したものです。調達方針や取引先行動規範にも明記し、人権デューディリジェンスに基づいた対応を進めています。
人権リスクアセスメントを実施し、リスクの高い国を抽出したうえで、現地調査(人権インパクトアセスメント)も行っています。現在2回目の報告書概要を公表していますが、大きな人権侵害は確認されていません。今後も継続的にモニタリングしていきます。
また、Sedex※の活用も進めており、登録サプライヤーに向けたフォローアップ説明会を実施しました。リスク評価の見方や改善の方法を共有し、サプライヤーとの協働によるリスク低減を重視しています。
※「サプライヤーエシカルデータ交換(Supplier Ethical Data Exchange)」のこと。自社及びサプライチェーンを含む社会・環境面に配慮した倫理的で責任ある事業慣行の推進を目指すNPO。サプライチェーンデータの管理・共有・評価に役立つグローバルなプラットフォームを提供している。
長谷部さん:苦情処理メカニズムについても整備を進めており、社内外のホットライン設置に続き、将来的には主に取引先様工場従業員を想定した苦情等にも対応できる体制づくりを検討しています。まずは工場内での課題解決とマネジメント体制の確立を優先しています。

(出所:青山商事ホームページ「[社会] ビジネスと人権」)
聞き手:現地調査を実施している工場は海外工場とのことでしたが、国や体制について教えてください。
長谷部さん:現在視察の対象先と選定しているのは、当社グループ会社のインドネシア工場に加え、主要取引先が運営するカンボジア工場、ベトナム工場も対象としています。人権リスクアセスメントでは、カンボジア、中国、ミャンマー、ラオス、インドネシア、ベトナム合計6か国を重点国としています。調査自体はCRT日本委員会と協同で打合せをしながら、外部の専門家であるCRT日本委員会主導で公正・中立な目線で実施しています。
Sedex説明会の参加者は主に日本の担当者ですが、取引形態は商社経由や協力工場などさまざまで、現地に日本人管理者が駐在しているケースもあります。
聞き手:現地調査だけでなく、能動的な活用や継続性が担保できている点も特長ですね。今後の展開についてはいかがですか。
長谷部さん:現在も継続的に担当者が年1回程度、現地でインパクトアセスメントを行っています。本来であればWBAが推奨している年2回実施したいところですが、人員・コストのバランスを踏まえ、現実的なペースで進めています。重要なのは継続性と改善につながる運用だと考えています。
※「World Benchmarking Alliance」のこと。企業のSDGs達成度を測る評価指標を開発し、世界の主要企業約2,000社を対象にランキングを公表している国際機関。
聞き手:現地視察を通じて、人権面で特に気づきや課題を感じた点はありましたか?たとえば賃金や労働環境、廃棄物管理など、現地に行ったからこそ見えたものがあれば教えてください。
長谷部さん:現地視察では、大きな課題は確認されず、総じて高く評価できる状況でした。カンボジアの工場では、現地ILOの認証証書も掲示されており、サプライチェーンマネジメントや人権、労働安全衛生への取り組みが制度的に進んでいる印象を受けました。防火訓練なども定期的に行われており、全体として管理体制はしっかり整っていました。
従業員は主にカンボジア人ですが、国境が近いこともあり、スーパーバイザーにはベトナム人が就いています。マネジメント層は韓国籍の方で、多言語環境の中でも情報共有が滞らないよう、アプリや紙面を使い分けながら連携が取られていました。
教育水準については、日本と比べて就学年数が短いという背景があります。日本が小・中・高あわせて12年(6・3・3の12年制)なのに対し、カンボジアでは小中学校あわせて9年(6・3の9年制)で、授業時間も半分程度と聞いています。識字率の課題もあるため、現場では分かりやすい言葉で繰り返し説明をしたり、理解度に応じて伝える工夫がなされていました。
また労使の対話体制もあり、従業員代表とのコミュニケーションが製品品質や不良率の低減にもつながっていると感じました。こうした現場の実践は、実際に足を運ばないと見えない部分だと思います。
インドネシアの工場でも、妊婦専用トイレの設置や男女で区分けされた礼拝スペースの確保など、宗教・文化への配慮が徹底されていました。ハード・ソフトの両面で、現地に根ざした形で人権や働きやすさを尊重している点は大きな学びでした。
聞き手:直近のカンボジア工場視察は何名体制で、どのくらいの期間で実施されたのでしょうか。
長谷部さん:当社からは担当取締役、広報部マネジャー、メイン商品を担当するバイヤー、私の4名が参加しました。またCRT日本委員会からは2名が同行し、通訳は3名体制で3言語に対応しました。
視察にあたっては、事前にアンケートを実施し、その結果を踏まえて現場で確認しました。実際の視察では、工場見学に加え、各部門に分かれて現地従業員へのヒアリングを行いました。従業員の属性が偏らないよう、性別・雇用形態・通勤形態などを考慮し、ざっくばらんに話せる雰囲気づくりも意識しました。
聞き手:インドネシアとカンボジアの工場は、どちらも貴社向けが中心ですか。
長谷部さん:いずれも当社向けが中心です。グループ会社の工場では主に当社製品を製造しています。またカンボジアの主要取引先工場もほぼ当社向けで稼働していると伺っています。
聞き手:グループ工場と取引先工場では、協力体制や信頼関係に違いはありますか。
長谷部さん:基本的には大きな違いはありません。ただし、発注量が大きく下がると、先方にとって当社への優先度が変わる場合はあります。かつては年間で大きな規模で取引があった工場も取引規模が少量になると、どうしてもこちらの要望にも応えにくくなるケースは出てきます。
聞き手:人権デューディリジェンスは、認証取得や現地調査などコストや工数が大きくかかる取り組みであるにも関わらず、なぜ貴社は積極的に進めておられるのでしょうか。たとえば小売業などではまだあまり本格化していない一方、アパレル業界では社会的要請も高く、取り組みが広がっているという背景もあるのでしょうか?
長谷部さん:そうですね。業界全体として人権課題への対応が不可避になってきていると感じています。新興国の労働問題が国際的に批判されたり、大手アパレル企業が人権問題で注目されることもあり、NGO・NPOをはじめとした市民団体などからの視線も厳しくなっています。そうした背景から、開示を含めた対応を進めていかないとステークホルダーの期待にも応えられませんし、ESG評価機関を始めとした外部評価にもつながりません。そうしたことから、マテリアリティの観点からも優先度の高いテーマとなっております。
また、同じ“アパレル”でもカジュアルとスーツでは製造工程もサプライチェーンも全く異なります。スーツは部材点数も多く、技術的にも高度な工場で作られるため、一般的なファストファッションと一括りに語れない部分があります。ただ、CO2排出、水リスク、廃棄物、労働環境など、世界的に問われるテーマが共通している部分が多いことは言うまでもありません。ラナ・プラザの崩落事故※のような象徴的な出来事もあり、人権・安全・環境は常に注視される分野です。

(出所:IDEAS FOR GOOD「用語集 ラナ・プラザ崩壊事故とは・意味」)
長谷部さん:もちろん、初年度からすべてを網羅的に把握・対応することは現実的ではありません。サプライヤーや社内への説明・理解促進も必要ですし、段階的に開示や改善を積み上げていくことが重要だと考えています。実効性と透明性を両立させながら進めていくことが、結果的に企業価値や信頼につながると認識しています。
(前編終わり)
後編では、スマート/サステナブル消費への対応やキャリア育成、サステナビリティ推進の仕事のやりがいなどについてお伺いした内容をご紹介します。
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