【フードバンク取材】セカンドハーベスト・ジャパンが描く2030年のビジョン
公益財団法人 流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
当研究所では、社会における円滑な食品アクセスの確保を目指し、農林水産省と連携してフードバンク支援事業を推進しています。今回はその事業の一環として、セカンドハーベスト・ジャパンのフードバンク活動について取材しました。浅草橋の拠点にて、芝田様と坂本様に伺った内容をレポートします。

誰もが食にアクセスできるフードセーフティネットを
――まずは、団体の概要について教えてください。
セカンドハーベスト・ジャパンは、2000年から活動を開始した日本初のフードバンクです。「すべての人に、食べ物を。」という理念のもと、誰もが必要な時に安心・安全な食にアクセスできる社会を目指し、フードセーフティネットの構築に取り組んでいます。
活動の柱は主に4つあります。まず「①フードバンク活動」では、品質に問題がないにもかかわらず廃棄される食品を企業などから寄贈いただき、福祉施設や支援団体へ提供しています。2024年には総重量約1,318トンの食品の寄贈を受けました。それを全国472団体に供給し、様々な形で延べ103万人の方へ食の支援を届けました。

(団体HPより転載)

10トントラックの納品受入れも可能で、冷蔵・冷凍設備も設置
(団体HPより転載)
次に「②ハーベストパントリー」では、個人向けの緊急食料支援を行っており、2024年、東京・東神田の直営パントリー「marugohan」では延べ12,400世帯を支援しました。

(団体HPより転載)
さらに「③ハーベストキッチン」では、調理をする環境が整っていない方などのため、寄贈された食品で作ったお弁当を提供しています。調理師監修のもと、ボランティアの皆さんとともに2024年は毎週250〜500食のお弁当を作って、上野公園などで配布しました。

(団体HPより転載)
そして「④政策提言と発展」では、地方でのフードバンク立ち上げ支援や、講演・シンポジウムの開催、官民協議会への参加などを通じて、フードバンク活動の普及と発展に向けた提言活動を行っています。
――団体のミッションとして掲げているフードセーフティネットの構築について教えてください。
フードセーフティネットとは、食べ物を通じて人々を支える社会的な仕組みであり、緊急時でも必要な食品を確保できるようにする体制や活動の総称です。当団体では、この仕組みを水道や電気と同様に、生活インフラの一部として整備すべきだと考えています。
2024年には能登半島地震や豪雨災害への対応を通じて、災害時の即応支援から中期的な物流拠点の設置まで、フードセーフティネットの実践を進めました。また、沖縄では継続的なフードパントリーの運営を開始し、地域に根ざした支援の形を広げています。
2030年までに現在の10倍となる15,000トンの食品提供を目標に掲げ、平時・有事を問わず、誰もが必要な時に安心・安全な食品にアクセスできる社会の実現を目指しています。

(団体HPより転載)
2030年に向けたビジョン:食品の大きな流れと小さな流れ
ーー10倍という大きな目標を見据えて2030年に向けたビジョンを策定されたとのことですが、どのような内容でしょうか。
フードバンクが社会において信頼される存在になることが重要で、そのためにはフードバンク業界の構造の整理を促進していく必要があります。
一般的な食品流通では、下図のように生産・製造から消費者までの効率的な流れが確立されています。一方で、食品寄贈の分野では、寄贈元から受益者までの流れの中において、大小様々なフードバンクやパントリー、子ども食堂、ファシリテーターなどがそれぞれ活動しており、流通の重複や非効率が生じています。さらに、これらの全体が漠然と「フードバンク」と呼ばれることもあり、企業が食品寄贈を検討する際に、ミスマッチや、そもそもどこに提供すればよいのかわからないという状況が生じています。

(提供資料より転載)
また、規模によるミスマッチもあります。例えば、全国的に展開している食品メーカーが「過剰在庫の5000ケースを引き取ってほしい」と考えたとしても、地域のパントリーではそれを受け入れるキャパシティがなく、せっかくの支援のお声がけが需給のミスマッチで成立しないようなケースも多々あります。

(提供資料より転載)
このような事例では、大きなキャパシティを持つ団体が受け皿となることが効果的です。そこで集まった食品が広域的なネットワークを通じて各地に配分されれば、需給のバランスが調整できます。そのネットワークにおいて中小規模の団体が受益者へ食品を届けるラストワンマイルを担う構図が、全国規模の大きな食品の流れとして整理できるのではないでしょうか。
逆に、地域における個人や企業からの少量寄贈が遠隔地の大規模団体に送られるのも効率的ではない面があります。支援の想いは非常に重要なものですが、その支援は同じ地域の中で必要としている方に届けるという選択肢があります。こちらは、地域の中で循環させていく小さな流れといえます。
この広域での大きな流れと、地域での小さな流れが効果的に連携するためには、業界の構造整理と規模に応じた階層分けが必要です。まずは、大きなキャパシティを持つ団体が中小規模団体を支援し、信頼される受け皿として機能することが求められます。食品の配分だけでなく、文書管理や衛生管理のノウハウ面でもサポートしていくことで、小規模団体が成長し、次は支援する側へとステップアップしていく。このようなサイクルが生まれることで、フードセーフティネット全体の質と信頼性が向上していくと考えています。

(提供資料をもとに筆者作成)
ビジョンを共有できる仲間づくり
――お聞きした内容が実現されれば、社会における食品アクセスの大きな向上につながると思います。簡単な道のりではないと思いますが、特に課題となることはなんでしょうか。
目の前の課題は、十分なリソースの確保です。2030年までに現在の10倍となる15,000トンの食品を取り扱うためには、人員・倉庫・拠点などのインフラを整備する必要があります。どこまで実現できるかは未知数ですが、この受け皿としてのキャパシティ向上に着実に取り組んでいくことが重要だと考えています。
この目標は、自分たちだけで達成できるものではありません。ビジョンを共有し、連携できる仲間づくりが不可欠です。ドナーのみなさんとの関係性強化はもちろん、フードバンク同士の連携、支援の最前線で活動する地域団体との協力など、やるべきことは多岐にわたります。
それぞれの組織の規模や、活動の位置づけによって、担う役割は変わってくると思います。企業とのコミュニケーションでより多くの食品を集めることに注力する団体も必要ですし、地域においてラストワンマイルの支援に取り組む団体も欠かせません。上下の関係などではなく、同じビジョンのどこを担当するかの違いです。
この考え方を共有し、対等なパートナーとして協力できる仲間が増えていけば、15,000トンという目標に一歩ずつ近づいていけると信じています。
編集後記
取材の中で印象的だったのは、一般の食品流通と寄贈の流通の差異の部分でした。構造的にも規模的にも伸びしろがあると感じます。
その観点から、現在、消費者庁による実証が進んでいるフードバンクの認証制度が果たす役割は大きいでしょう。この制度は、「一定の管理責任を果たすことができるフードバンクを認証することにより、食品寄附活動への社会的信頼を高め、企業等からフードバンクへの食品寄附活動の拡大につなげることを目的」として社会実装に向けた議論がなされています。
(※詳細はこちらの消費者庁資料をご参照ください)
他の領域の方から見ると、フードバンクの仕組みやモノの流れがよくわからないこともあるかと思います。そんなときに、公的な認証制度と、それを取得している団体が存在していることは一つのわかりやすい入口となります。そのため、同制度において認証されたフードバンクは業界のリーダーとなることが求められます。補助などが集まって活動しやすくなる側面もあるでしょうが、一方でリーダーとしての責任を果たすことが強く望まれます。
セカンドハーベスト・ジャパンのビジョンと重なるところですが、認証を取れる体制がある団体が、社会におけるフードバンクの存在感と信頼性を高める先陣を切り、企業や行政を巻き込んでいく。そして、自団体だけでなく、近隣地域の中規模、小規模のフードバンクを支援しながら関係性を強化していく取組みが期待されます。その結果、中規模、小規模の団体は、食品アクセスのラストワンマイルにより注力し、充実させていくことができます。
とはいえ、この見方は制度の肯定的な側面に限ったものです。導入後に混乱や不具合などが発生する可能性もあります。そのため、当研究所では今後の動向を丁寧にフォローして、食品の流通における必要な支援や政策の提言につなげていきたいと考えております。
芝田様、坂本様、貴重なお話を聞く機会をいただきまして、誠にありがとうございました。
