アートマネジメントは、どこで行われている?
劇場や美術館から、地域・学校・福祉の現場まで
第2部:活動を成り立たせる場と人>01. アートマネジメントは、どこで行われている?>
1.アートマネジメントの現場とは?
アートマネジメントと聞いたとき、どのような場所を思い浮かべるでしょうか。
劇場や音楽ホールの舞台裏、美術館の展覧会、芸術祭の事務局…どれも代表的な現場です。
また、芸術団体はもとより、自治体、学校や大学、地域の公民館、福祉施設や病院、企業などにも、文化芸術に関わる仕事があります。そして、アートマネジメントに携わる人々の中には、特定の組織に所属せず、企画ごとに複数の地域や団体を行き来する制作者やコーディネーターも少なくありません。
仕事の呼び方や組織の形は違っていても、文化芸術が生まれ、人に届き、続いていく条件を整えるという点では、重なる活躍が見えてきます。
2.そこで行われている仕事とは?
2-1. 仕事が生まれる場所
文化庁の資料では、アートマネジメントは、文化のつくり手と受け手をつなぐ役割として捉えられています。企画・制作、広報、資金調達、営業、関係者との調整などを通して、作品や活動が社会と出会う環境をつくる仕事です。(出典:文化庁「アートマネジメント人材の育成及び活用について(論点整理案)」)
この整理を手がかりにすると、アートマネジメントの現場は、先に列挙したような組織や施設の名前を越えて広がります。
文化芸術と人のあいだに、どのような出会いや関係をつくるのか。 活動に必要な人、場所、資金、情報を、どのようにつなぐのか。
こうした問いが生まれるところに、アートマネジメントの仕事があります。
2-2.文化政策から見えてくる広がり
文化芸術基本法は、文化芸術活動を行う人や団体の自主性と創造性を尊重しながら、人々が文化芸術を鑑賞し、参加し、創造できる環境を整えることを基本にしています。地域の文化活動、学校教育、劇場・音楽堂、美術館・博物館、民間による支援なども、文化政策の対象として位置づけられています。(出典:文化庁「文化芸術振興の基本理念」)
文化芸術推進基本計画(第2期)にも、文化芸術の創造・継承や参加機会の充実とともに、地域、教育、福祉、観光、まちづくり、産業などとの連携が示されています。
政策は、文化芸術を支える方向や制度。現場では、それを地域や参加者の状況に重ね、具体的な企画や関係へと形にします。その間をつなぐところにも、アートマネジメントの働きがあります。
2-3.作品や公演と人が出会う場所
劇場・音楽ホール
劇場や音楽ホールでは、公演の企画・制作、出演者との調整、広報、チケット販売、舞台技術、安全管理、鑑賞のサポートなどが、常に行われています。
貸館を中心とする施設もあれば、地域の特徴を踏まえた自主事業、学校へのアウトリーチ、市民参加型の活動を行う施設もあります。同じホールでも、誰にどのような文化体験を届けたいのかによって、仕事の組み立て方が変わります。
美術館・博物館
美術館や博物館では、作品や資料を集め、保存し、調査し、展示を通して社会へ伝えます。展覧会の企画とともに、教育普及、広報、作品の貸し借り、保存環境の管理、地域との協働など、多くの仕事が重なります。
国際博物館会議(ICOM)が2022年に採択した博物館定義には、研究・収集・保存・解釈・展示に加えて、アクセシビリティ、多様性、持続可能性、地域社会の参加といった視点も盛り込まれています。(出典:International Council of Museums「Museum Definition」)
作品や資料を守り、次の世代へ引き継ぐこと。人々がそれらと出会い、学び、楽しみ、考える場をつくること。地域の人たちと対話しながら、その意味を社会へひらいていくこと。
こうした役割を結びつけるところにも、アートマネジメントの働きがあります。
2-4.組織や地域の文化活動を支える場所
オーケストラ、劇団、舞踊団などの舞台芸術団体でも、創作や公演と並行して、年間計画、会場の確保、契約、会計、資金調達、広報などが進められます。規模の小さな団体では、芸術家や身近な協力者が複数の役割を担うこともあります。
芸術祭や映画祭では、複数の作品、芸術家、会場、観客を、一定の期間と地域のなかでつないでいきます。作品の選定、著作権や契約、協賛、ボランティア運営、地域住民との対話など、さまざまな仕事が同時に進む、スピーディーで複雑なマネジメントが進行する世界です。
自治体や文化振興財団などでは、文化振興計画、文化施設の運営、助成制度、地域の文化事業などを担います。教育、福祉、観光、地域振興など、ほかの分野との接点も多くあります。文化芸術基本法には、地方公共団体が地域の特性に応じた施策を主体的に進める役割も示されています。(出典:e-Gov法令検索「文化芸術基本法」第4条)
地域のお祭り、公民館の講座、市民による演奏会、商店街の展示、地域資源を生かしたアートプロジェクトも文化芸術とアートマネジメントの現場です。住民、自治体、学校、商店、地域団体、芸術家などが出会い、その土地にある人、場所、記憶、技術をつなぎながら、活動がつくられていきます。
2-5.教育、福祉、医療、企業のなかで
学校や大学では、公演、展覧会、地域連携、学生による企画、芸術家との協働などが行われています。
ユネスコの文化芸術教育の枠組みも、文化芸術教育を、学校内外や生涯にわたる学びを含む「生態系」として捉えています。教育機関、文化施設、芸術家、行政、地域社会、民間団体など、多様な関係者による連携も重視されています。
福祉施設や医療機関では、創作ワークショップ、音楽活動、展示、院内公演などが行われています。参加する人の意思、体調、安全、プライバシー、参加しやすさを考えながら、芸術家と医療・福祉の専門職が活動を組み立てます。
WHOの研究レビューからも、芸術と健康・ウェルビーイングをめぐる実践と研究の広がりや、文化と保健・福祉を横断する連携の可能性が見えてきます。(出典:世界保健機関「What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being? A scoping review」)
企業も、公演や展覧会への協賛、文化財団の運営、地域での文化事業などを通して文化芸術と関わっています。企業メセナ協議会は、こうしたメセナ活動を、芸術文化への支援に加えて、教育、地域、福祉、環境などに関わる社会への投資として捉えています。(出典:企業メセナ協議会)
2-6.独立して活動する人たち
特定の施設や団体に所属せず、独立してアートマネジメントの従事する制作者、プロデューサー、コーディネーターもいます。
企画ごとに芸術家、会場、行政、企業、地域住民をつなぎ、複数の地域や分野を行き来しながら活動を組み立てます。組織の境界を越えて動くことで、異なる立場のあいだに新しい関係が生まれることもあります。
3.場所が変わっても、重なる問い
アートマネジメントの現場は、劇場や美術館から、自治体、地域、学校、福祉・医療、企業まで、さまざまな場所に広がっています。
それぞれの場所で目的や制度、関わる人は異なります。ただ共通しているのは、文化芸術と人や社会とのあいだに立ち、活動が成り立つための環境や関係を整えていること。
作品や公演を企画する。必要な人や資金をつなぐ。参加しやすい環境を考える。文化芸術の意味を言葉にして伝える。そこで生まれた経験や関係を、次の活動へつなげていく。
「アートマネジメントは、どこで行われているのか」と考えていくと、その答えは、特定の場所や職種の名前というよりも、文化芸術を生み出し、届け、支え、つないでいる現場そのものにある。と云えそうです。
