芸術とマネジメントは対立するのか?
表現の自由と、活動を続ける仕組みのあいだで
1.問い
芸術にマネジメントを持ち込むと、表現の自由が失われてしまうのでしょうか。
「マネジメント」という言葉からは、目標を立て、計画をつくり、予算や成果を効率的に管理する仕事が思い浮かびます。
一方、芸術には、まだ答えのないものを探し、予想できない表現を試し、すぐには理解されない作品を生み出す側面があります。
そう考えると、芸術は自由を求めるもの、マネジメントは芸術を制限するもの、という対立に見えるかもしれません。
実際の現場でも、「作品の質を大切にしたい」「より多くの人に届けたい」「予算の範囲に収めたい」「公的な事業として説明できる形にしたい」など、さまざまな異なる意見が生まれます。
では、芸術とマネジメントは、どちらか一方を優先しなければならないのでしょうか。
2.芸術とマネジメントは、異なる問いをもつ
芸術とマネジメントは、同じ考え方で動くものではありません。しかし、必ずしも対立するものでもありません。
芸術は、 何を表現したいのか。何を問いかけたいのか。 を常々考えます。
マネジメントは、 その活動を、どのように実現し、人に届け、続けていくのか。 をいつも考えています。
扱う問いは異なりますが、文化芸術の活動には、どちらも必要です。
ただし、両者の間に緊張が生まれることはあります。
舞台芸術団体を対象とした研究でも、文化組織には、芸術的な使命、市場や収入、公共政策、観客や支援者など複数の関係者からの期待が同時に存在し、それらが異なる方向を向くことが示されています。
このように、異なる考え方や判断基準を一つの組織のなかに抱える組織は、「ハイブリッドな組織」と捉えられます。(出典:Mometti, S. & van Bommel, K.(2021)"Performing Arts Organizations as Hybrid Organizations: Tensions and Responses to Competing Logics," Journal of Cultural Management and Cultural Policy(文化マネジメントと文化政策ジャーナル))
そしてここで大切なのは、緊張をなくすことではありません。それぞれが何を大切にしているのかを見える形にし、何を守り、どこを調整できるのかを話し合えるようにすることです。
3.なぜ、対立しているように見えるのか
マネジメントでは、限られた時間や予算のなかで活動を実現するために、計画を立てます。
一方、芸術の創造にあたっては、始める前は方向性だけが見えている場合も多く、試行錯誤のなかで作品が変わり、当初の方法を途中で見直すこともあります。
計画を立てることと、未知のものを探ること。ここに一つの緊張が生まれます。
もう一つの緊張は、活動をどう評価するかという点に表れます。観客数、売上、収支などは、事業の状況を知る大切な手がかりです。観客数が少なくても、そこに価値が生まれることがあります。少人数の参加者にとって、長く記憶に残る体験になることもあります。
公的な資金を使う文化施設や文化事業には、公平性、説明責任、安全性も求められ、その説明のために数字が使われる場面は多くあります。ここで問題になるのは、数字で確認できるものだけを価値と考えてしまうことです。
総じて、表現の自由を大切にしながら、その判断を誰と共有し、どのような言葉で説明するのか。ここに、異なる立場をつなぐ仕事が必要になります。
4.効果的であることと、効率的であること
マネジメントでは、活動を効果的かつ効率的に進めることが求められます。
効果的であるとは、その活動が目指していたことに近づくことです。
たとえば、これまで文化施設を訪れる機会の少なかった人に、文化芸術への入口をつくることが目的なら、来場者数だけでなく、実際にその人たちへ情報が届いたか、安心して参加できたかを見る必要があります。
一方、効率的であるとは、限られた人、時間、資金を生かしながら、必要な活動を無理なく実現することです。
役割分担を明確にする。同じ作業の繰り返しを減らす。連絡や申込みの方法を整理する。
こうした工夫は、芸術家や職員が、創作や企画、観客との関係づくりに力を注ぐための時間を守ります。
ただし、事業の目的を果たすには、効率のよさに加えて、届けたい相手に届いているかという視点が必要です。
少ない費用で多くの人を集めた場合でも、効果的といえるのは、本来届けたかった人に届いたときです。
反対に、創作の時間や対話の機会まで減らせば、効率は高まっても、活動の核となる価値が損なわれる可能性があります。
大切なのは、 目的のために残すべきものを見きわめ、そのうえで負担を減らせる部分を絞り込むことです。
5.効果と効率が、持続可能性を支える
文化事業を一度実施できたことと、その活動が持続可能であることは、別の問いです。
高い成果を出していても、少数の担当者の長時間労働や、芸術家の無償・低報酬の働きに支えられているなら、同じ方法を続けるほど負担が重くなっていきます。
反対に、支出を抑えることだけを優先し、作品の質や観客との関係が失われれば、活動を続ける意味そのものが薄れてしまいます。
効果と効率の両方を考えることには、一つの事業を成功させること以上の意味があります。
人が疲弊しない働き方をつくること。必要な資金を確保すること。観客、地域、支援者との信頼を育てること。そこで得た経験を、次の企画や次の担い手へ引き継ぐこと。
こうした条件が整うことで、文化芸術活動は次へとつながりやすくなります。
ここでいう持続可能性とは、活動の目的や表現の核を大切にしながら、方法、規模、資金、人員のあり方を状況に応じて見直し、人、経験、関係、信頼を次の活動へつなげられる状態を指します。
6.まとめ
芸術とマネジメントは、異なる役割をもつからこそ、その間に緊張が生まれます。
芸術とマネジメントの関係は、「芸術だから、予算や説明を考えなくてよい」という立場とも、「活動を続けるためには、売れるものだけをつくればよい」という立場とも違う、その中間にあります。
何を守り、何を工夫できるのかを考えながら、活動の目的に近づくことが、効果的であることです。
必要な価値を損なわず、限られた人、時間、資金を無理なく生かすことが、効率的であることです。
その両方を考えることが、芸術家やスタッフの疲弊を防ぎ、資金、経験、関係、信頼を次の活動へつなぐ持続可能性を支えます。
芸術とマネジメント、それぞれの問いを大切にしながらこの両方を担う仕事を、私たちは「アートマネジメント」と呼びます。それは、芸術とマネジメントの両方に軸足を置く仕事です。
アートマネジメントとは、両者の違いを言葉にし、活動の目的と方法を結びつけながら、文化芸術がよりよく生まれ、人に届き、無理なく続いていく環境を整える仕事なのだと思います。
