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【Vol.68】2050年ネットゼロへの試練——IMO MEPC 84が突きつけた国際海運の分岐点

【ソースリファレンス】

今回の記事は、最新の海事情勢に関する以下のトピックを分析したものである。

一般財団法人 日本海事協会(ClassNK)「IMO第84回海洋環境保護委員会(MEPC 84)審議速報」

主なトピック内容は以下のとおりである。

・IMO 2023年GHG削減戦略(2030 / 2040 / 2050年目標)の進捗と中期対策(GFI規制 / ネットゼロ基金)をめぐる各国の対立構造

・舶用燃料ライフサイクルGHG強度(LCA)実用化に向けた基本原則の合意と継続課題

・LNGエンジンのメタンスリップ計測 / 計算方法に関する2026年版ガイドラインの採択

・船上CO2回収(OCCS)の作業計画拡張と鉱物化技術の算入合意

・水素 / アンモニア燃料エンジン向けNOx規制(2028年夏発効)の承認

・北東大西洋排出規制海域(ECA)の新規指定(2027年9月1日発効)

・バラスト水管理条約の改正とガイドライン採択

・IMO DCS(燃料消費報告制度)データの透明化に向けた条約改正

【3行サマリー】

何が起きたか:

IMO MEPC 84において、2050年ネットゼロを目指す中期対策(炭素課金 / GFI規制)の採択に向けた調整が継続し、北東大西洋ECAの新設、LNGメタンスリップ規制ガイドライン、水素 / アンモニアNOx規制の承認など、複数の具体的な規制強化措置が相次いで決定 / 承認された。

なぜ重要か:

2026年末の臨時MEPC会合での中期対策採択が現実味を帯びるなか、燃料調達コストの大幅上昇と技術投資の加速が不可避となり、日本の海運会社 / 荷主企業 / 造船業は戦略的意思決定を迫られる局面に入った。

結論:

規制の方向性は「脱炭素の加速」と「排出実態の可視化」で一致しており、対応が遅れる企業はコスト競争力と荷主からの選別の両面でリスクを負う。 早期の燃料戦略再構築と技術投資が企業防衛の要諦となる。

【海事ニュースの要点解説】

IMO MEPC 84の概要と背景

国際海事機関(IMO)は、2026年に第84回海洋環境保護委員会(MEPC 84)を開催した。 本会合は、国際海運の脱炭素化を左右する規制枠組みの策定において、極めて重要な節目となる場である。 前回のMEPC 83でMARPOL条約附属書VI改正案が承認されたものの、炭素課金制度や基金の設立をめぐって各国の意見が鋭く対立し、中期対策の審議は約1年間中断していた。 MEPC 84はその膠着状態を打開し、2026年12月4日の臨時MEPC会合での採択に向けた議論を再起動させる会合として位置づけられる。

中期対策(GFI規制・ネットゼロ基金)の現状

MEPC 84の最大の焦点は、GHG燃料強度規制(GFI規制)と、いわゆる「ネットゼロ基金」の設計をめぐる各国の立場の調整である。 GFI規制とは、船舶が使用する燃料のGHG強度(単位輸送量当たりの温室効果ガス排出量)に上限を設け、超過する場合にはペナルティや基金への拠出を求める仕組みである。

今回の会合では、修正なしでの現行改正案採択を支持する立場、炭素課金や基金を含まないアプローチを主張する立場、代替燃料の現実的な入手可能性を前提とした強度基準の緩和を求める立場など、依然として多様な意見が提出された。 それでも、「現行改正案の調整は可能」とする国が多数を占め、2026年9月と11月に中間作業部会を開催し、同年12月4日の臨時MEPC会合で採択を目指すスケジュールが確認された。

2023年GHG削減戦略が定める目標は、2030年に輸送効率40%以上の改善(2008年比)・GHG総排出量最低20%削減・ゼロエミッション燃料等最低5%普及、2040年にGHG総排出量最低70%削減、そして遅くとも2050年頃までにGHGネット排出ゼロである。 これらの目標達成に向けた規制の具体化がMEPC 84で本格的に動き出したことの意義は大きい。

燃料LCAガイドラインの実用化

舶用燃料のライフサイクルGHG強度(LCA)計算に関しては、いくつかの重要な基本原則が合意された。 まず「回避排出」(他の活動で排出されるはずだったCO2を回収・利用した場合の差引計算)については、現段階ではLCA計算式に組み込まないこととされた。 また設備・インフラの製造段階に由来する排出量も計算から除外される。 燃料認証制度(SFCS)の対象範囲は、原料採取から燃料タンクへの補給まで(WtT)の段階とし、第三者認証・トレーサビリティ・二重計上防止を原則とする。 燃料の出所追跡方式(Chain of Custody)はマスバランス方式を基本とし、物理的な帰属関係を持たない「book and claim方式」は採用しないことが決定された。

一方で、船上でCO2を回収する技術(OCCS)の検証分担や、デフォルト値の統計処理、積荷燃料の上流排出など、引き続き議論が必要な課題も残されている。

メタンスリップと亜酸化窒素の規制強化

LNG(液化天然ガス)燃料エンジンにおける「メタンスリップ」——燃焼しきれずに大気中に排出されるメタン(CH4)——の計測と規制については、2026年版の新ガイドラインが採択された。 LNGエンジン特有 of メタンスリップ率を補正する計算式が追加されたほか、基準となるLNG燃料のCH4含有率(84.6重量%・92.2 mol%)が明示された。 メタンはCO2の約80倍(20年間)の温室効果を持つとされており、LNGを「つなぎの低炭素燃料」と位置づけてきた海運業界にとって、この規制強化は燃料戦略の根拠を再検討させる可能性がある。

大気汚染防止規制の具体化

水素・アンモニアを燃料とする非炭素系エンジンに対するNOx(窒素酸化物)排出計算手法として、水素/酸素バランス法を組み込んだNTC(NOxテクニカルコード)の改正が承認され、2028年夏に発効する見込みである。 VOC(揮発性有機化合物)規制については、新造原油タンカーに対し0.20bar以上の開弁圧を持つP/Vバルブ(圧力・真空バルブ)の装備を義務付けることが決定され、同じく2028年夏以降に起工される船舶に適用される。

北東大西洋ECAの新設

北東大西洋が新たに排出規制海域(ECA)に指定された。 ECAとは、NOx・SOx・PMについて通常より厳しい規制が適用される特定海域を指す。 発効日は2027年9月1日であり、NOx三次規制は2027年1月1日以降の建造契約船等に、SOx規制(硫黄分0.10%以下)は2028年9月より適用される。 欧州を経由する航路を持つ船社にとっては、規制対応燃料への切り替えや航路設計の見直しが必要となる。

バラスト水管理条約の改正

バラスト水(船舶の安定性保持のために積む海水)の管理に関する条約改正案も承認された。 バラスト水管理計画(BWMP)への保守スケジュール、非常時対応計画、処理済み汚水の一時貯留手順の追加、活性物質の最大許容放出濃度(MADC)遵守の義務化、厳しい水質条件下での排水に関する免除要件の追加などが含まれる。 「2026年版バラスト水管理計画ガイドライン(G4)」も採択された。

【独自視点】日本経済・関連業界への影響

日本海運大手への直接的インパクト

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