ショートショート ゾンビ階級社会
ゾンビパンデミックから十年が過ぎた。
人類はほぼ滅び、生き残った人間は地下シェルターで息を潜めている。地上を支配するのはゾンビたちだ。だがその世界にも、いつしか秩序と呼べるものが生まれていた。
最初にそれを見抜いたのは、まだ知能の残った旧医師のゾンビだった。噛まれてから間もない個体は思考力を保ち、言葉さえ話せる。一方、感染から時間が経ち、脳の腐敗が進んだ個体は、ただ徘徊し、獲物を求めて彷徨うだけの存在になる。
思考できる者たちは、自分たちを支配階級と呼んだ。彼らは廃墟となったビルに住み、腐敗の進んだ同胞たちを労働力として扱った。腐敗ゾンビに獲物を追わせ、捕らえさせ、餌を運ばせる。まるで、かつて人間が家畜を使ったように。
支配階級のゾンビは、自分たちにはまだ理性がある、だから支配する資格があるのだと信じていた。だが、ある夜、旧医師のゾンビは気づいてしまう。腐敗の進んだ同胞たちの目に、かすかな哀しみが宿っていることに。
彼らは忘れていないのだ。かつて人間だった頃のことを。ただ、それを言葉にする力を失っただけで。
旧医師のゾンビは、自分の腕を見た。皮膚はまだなめらかで、思考はまだ明晰だった。
だが、それはいつまで続くのか。
自分もいずれ、あの哀しい目をした同胞たちの列に加わる。支配する側から、支配される側へ。
そう思った瞬間、彼は初めて理解した。人間だった頃から、この社会は何一つ変わっていないのだと。
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