ショートショート 株式会社アナログニンゲン
シンギュラリティから十七年。
街のあらゆる意思決定は、AIが担っていた。
信号機も、献立も、恋愛の相性診断も、葬式の弔辞さえも、すべてクラウド上のどこかで自動生成される。
人間はもう、選ぶことをしなくなった。選ぶ必要がなかった。
そんな中、駅前の掲示板に一枚の紙が貼られていた。
紙。ただの、紙だ。
手書きの文字は右肩上がりで、ところどころインクがにじんでいる。
当社は、一切のデジタル処理を行いません。
電話は人が出ます。伝票は人が書きます。
配達は人が歩きます。考えるのも、人です。
株式会社アナログニンゲン。すべて、この手で。
わたしはしばらく、その紙の前で立ち尽くした。
正直に言うと、笑ってしまった。
時代錯誤も甚だしい。効率という言葉を、まるで知らない生き物のようだ。
だが同時に、妙な胸騒ぎもあった。
最後にこんな、誰かの手の震えが残る文字を見たのは、いつだっただろう。
家に帰って検索してみると、驚いたことに求人が殺到しているという。
面接は対面のみ、履歴書は手書き限定。それでも列ができていた。
面白いのは、その求人情報そのものが、AIによって要約され、AIによって推薦され、AIによっておすすめ順に並べられていたことだ。
つまりわたしたちは、アナログを選ぶことすら、デジタルに選ばされている。
紙の広告を、指先ひとつでスクリーンショットに変えながら、わたしはそう思った。
そして、その画像を、迷わずAIに要約させた。
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