ショートショート 売れないから
「次の作品です。」
審査員の一人が原稿を手に取り、読み始めた。
――人間は、自分たちだけを主人公にしてきた。
今日の主役は、三千年を生きる一本の木である。
人間は戦争を始める。
爆弾が降る。
木は逃げられない。
半身を焼かれ、それでも春になれば芽を吹く。
やがて平和が訪れる。
人間は「自然を守ろう」と歌う。
木は黙って葉を揺らす。
しかし、また宗教が争いを生み、国家が憎しみを育てる。
爆撃機が空を覆う。
木は、また逃げられない。
私たちは、一度も争ったことはない。
それなのに、いつも人間の戦争に巻き込まれる。
部屋は静まり返っていた。
「……なるほど。」
審査員長は原稿を閉じた。
「では、この作品を書こうと思った理由を聞かせてください。」
作家志望の青年は静かに立ち上がった。
「人間中心の物語ばかりだからです。地球には、人間より長く生き、人間の歴史を見続けてきた存在がいます。木の視点から人類を描けば、人間の愚かさも、宗教も、戦争も、違って見えると思いました。」
誰も口を開かなかった。
やがて一人の審査員が、小さくつぶやく。
「……感動しました。」
別の審査員もうなずく。
「発想もテーマも素晴らしい。」
青年は深く頭を下げ、退室した。
扉が閉まる。
審査員長は応募用紙を手に取り、評価欄の「不採用」に、ためらいなくチェックを入れた。
備考欄には、一行だけ書いた。
「売れないから。」
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