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ショートショート 捏造の実在化



高梨美咲がその記事を見つけたのは、就職活動中の後輩からのメッセージがきっかけだった。

先輩の名前で検索したら、変な記事が出てくるんですけど。

高梨は、地方紙で環境問題を追う記者だった。ある化学メーカーの排水データ改ざんを追及する連載を、半年前に書き終えたばかりだった。

検索して出てきたのは、聞いたことのないニュースサイトの記事だった。

高梨美咲記者、取材データ捏造の疑い。関係者への聞き取りなしに記事を執筆していたことが判明。

書いてある内容は、細部まで具体的だった。存在しない情報提供者の名前、存在しない社内メールのやり取り、存在しない編集会議での発言まで、まるで見てきたかのように記されていた。

高梨には、まったく身に覚えがなかった。

発信元を辿ろうとしたが、サイトの運営者情報は空欄だった。ただ、記事の文体には、奇妙な癖があった。妙に整然とした構成、感情を排した淡々とした語り口。これは、人間が悪意を持って書いた文章というより、何かに書かせた文章だと、高梨は直感した。

問い合わせてみると、案の定だった。競合の化学メーカーと利害が重なる、ある広報コンサルタントが、生成AIに指示を出し、高梨の経歴、過去の記事、SNSの発言を学習させたうえで、それらしい捏造の物語を作らせていた。事実に虚偽を一滴混ぜ、残りをもっともらしい細部で固める。それだけで、記事は驚くほどの説得力を持った。

問題は、そこからだった。

その記事は、匿名掲示板に転載され、要約され、さらに別の誰かがAIに再要約させた。誰かが作ったまとめサイトには、高梨の捏造疑惑が、まるで既に決着のついた事実であるかのように記載されていた。ある海外のファクトチェックを謳うサイトさえ、一次情報を確認しないまま、この件を関連ニュースとして紹介していた。

高梨の勤める新聞社は、事態を重く見た。そして、外部有識者を含む諮問委員会が設置されることになった。

委員会の目的は、高梨の記事に捏造がなかったかを、あらためて検証することだった。皮肉なことに、高梨を貶めるために作られた嘘が、高梨自身の潔白を証明するための、長く苦しい手続きを生み出していた。

委員会は三ヶ月かけて、高梨の取材メモ、録音データ、情報提供者への再確認を、一つ一つ積み上げた。結果、捏造の事実は一切ないと結論づけられた。

しかし、その結論を報じる記事は、最初の捏造記事に比べて、驚くほど拡散しなかった。

高梨は、ある夜、自分の名前を検索してみた。

上位に表示されるのは、いまだに、あの最初の捏造記事だった。委員会の結論を伝える記事は、検索結果の三ページ目に、ようやく現れた。

高梨は、画面を閉じた。

自分の潔白は証明された。だが、証明された潔白より、証明されなかった疑惑のほうが、いつまでも先に人の目に触れる。この非対称を、誰も正すことができないのだと、高梨は静かに理解した。

数年後、高梨の名前を検索した誰かが、こう呟くだろう。

なんかあの人、昔、捏造疑惑あったよね。

その一言に、真偽を確かめようとする者は、もう誰もいない。

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岩鷹サケスキーAI共作小説家 よろしければ応援お願いします!いただきましたチップは有意義に使わせていただきます。