超指向性フォント「傾」-「ある場所からしか読めない」制約がつくる、新しい体験
アートディレクターの横澤と、クリエイティブ・テクノロジストの山岸が、ちょっと変わったフォントをつくりました。
名前は 超指向性フォント「傾 Kabuku」。
その名の通り、「ある角度からしか読めないフォント」です。
超指向性フォントとは?
ある角度からしか読めないフォントとは、どういうことでしょうか?
下の図をご覧ください。一見すると、点と線が並んでいるようにしか見えません。実は、これが今回私たちが作った「フォント」です。

この状態では、まるで文字に見えないと思います。しかし、スマホを縦に傾けて覗き込んでみると...。(PCの方は、画面を少し閉じて上から覗き込んでみてください)

このように、指定した角度から見るとちゃんと読めて、別角度から見ると文字にすら見えないようなフォントを作りました。
さらに、この超指向性フォントは、「バリアブルフォント」というフォントシステムを採用することで、使う人が自由に「読める向き」をコントロールできます。

意味を伝えることだけでなく、読むという行為自体を面白いものにしてくれる、遊び心のあるフォントです。
「アートディレクター × テクノロジスト」だから生まれたフォント
この書体は、illustratorやglyphsといった、いわゆる書体制作のための既存のツールだけでは作ることができず、この書体制作のための新しいシステム開発が求められました。

とはいえ、どんな書体を作ったらいいのか?が曖昧ななか、作るべきツールがなんなのかもわからない。最初のうちは、とにかく「書体」と「ツール」を双方作り直しながら、目指すべき書体の形について悩み続けていました。
ツールを作りながらフォントを作る。お互いがどこを目指すべきか、手探りの中での制作だったからこそ、デザインとエンジニアリングのコラボレーションが必要不可欠な書体でした。
展開:文字の価値を「情報」から「体験」へ
Dentsu Lab TokyoのR&Dプロジェクトとして制作されたこの書体は、もともとはメンバーの横澤、山岸のそれぞれの興味関心から始まりました。山岸はバリアブルフォントという新しい技術に対する興味、横澤はタイポグラフィのデザイン技術を使って新しい表現や体験を作るという興味がありました。
クライアントの課題起点で始まるクライアントワークとは違って、こうした個人の興味を起点に体験を具現化し、クライアントワークと結びつけることで社会実装を目指すのが、Dentsu LabのR&Dプロジェクトです。
私たちは、ただ書体をつくるだけではなく、これをどう使ったら面白いことができるのか?というところまでプロトタイピングをしました。
ある程度書体の形が定まったころに、電通CRメンバーをさらに巻き込み、「謎解き」と「絵本」の企画・制作を行いました。
謎解きチームには、謎解きが大好きな佐野さん(プランナー・BXCC所属)、内海さん(コピーライター・1CRP所属)。超指向性フォントを鍵に、傾けたり、覗き込んだりと、様々な動作を引き出す謎解きを制作しました。

佐野さん:文字を読みづらくするという行為は、文字が果たすべき役割と矛盾しているようにも思えます。
しかし、特定の誰かだけ解読できる暗号と捉えると急にワクワクしてきます。かつてマリー・アントワネットはラブレターを暗号で送っていたと言います。
誰かにだけ届けたい想いや情報を届けられるこの書体の可能性を、謎解きを通して感じていただけたら幸いです。
内海さん:今回意識したのは、「これも謎に関係あるの?!」という驚きを散りばめることです。それがあるだけで、短時間のゲームでも一気に謎解きらしさが強まると思います。その点このフォントは、仕掛けに組み込みやすく、読めた瞬間驚きのような感覚をもたらしてくれるので、謎解きと相性がいいと感じました!
そして絵本チームには、三浦さん(コピーライター・1CRP所属)、石井さん(アートディレクター・6CRP所属)。はーちゃんという女の子の、声に出せない本音が超指向性フォントで書かれていることで、ページをめくる時にだけ見え隠れするような絵本を制作しました。

三浦さん:日本語を知らない状態でひらがなを見るのが夢だったのですが、それを疑似体験できたような感覚でした。このフォントがあれば、絵本の世界はページとページの間、ページのその上にまで広がる気がします。気配や空気といったものまで伝わる絵本もきっとつくれるはず。もう次なる作品を夢見てワクワクしてしまいます!
石井さん:
「読める」をものすごく限定した一見不便なフォントですが、特定の条件が揃わないと読めない、隠しコマンド的なワクワク感が最高です。このフォントは、TOOLであり、TOYでもあるなと思います。意味を伝えることだけでなく、読むという行為自体を面白いものにしてくれる、遊び心のあるフォントです。これからいろいろなプレイヤーの手で面白い使い方が生まれていくのが楽しみです!
「超指向性フォント」で、こんな展開も?コラボお待ちしてます
石井さんのコメントにもあるように、超指向性フォントは「読むという行為自体を面白いものにしてくれる、遊び心のあるフォント」だと思います。
今後の展開として、たとえばこんなことができないかと考えています。
目線の高さに合わせて情報を出し分ける施設サイン。例えば、身長差のある子どもと大人に向けて、それぞれ違うメッセージを発信する。
景観保護のため、「本当に見えていてほしい場所にいる人」にだけに届くOOH/店頭演出。
リリックをグラフィカルに扱うようなMV/ライブ演出への展開。
ページをめくる瞬間にだけ読める言葉がある仕掛け絵本。
などなど。超指向性フォントは、現在もなお進化中です。今後はこうした体験のためにこの書体を活用し、それぞれの目的に向けた改修を行う中で、より良い形とまだみたことのない体験を作っていきたいと思います。ご興味を持たれた方はぜひ、Dentsu Lab Tokyoまでお問い合わせください!
こんな展開・お悩みに役立ちます
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Credit
Creative Technologist: 山岸 奏大(Dentsu Lab Tokyo)
Art Director: 横澤 武竜(Dentsu Lab Tokyo)
Producer: 安斉 史人(WOW.inc)
