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ジェームス・チャンス初来日公演の記録(2005年7月)

フロントアクトはパニックスマイルとザゼン・ボーイズ!

ライヴでこんなに興奮したことは久しぶりだった。
代官山、unitでニューヨーク、ポストパンクの雄、ジェームス・チャンスの初来日ギグ。なんとフロントアクトがパニックスマイルとザゼン・ボーイズ!
ジェームス・チャンスは'78年、ブライアン・イーノのプロデュースにより発売されたポストパンクミュージシャンのオムニバスアルバム、『NO NEW YORK』で有名になったサックス&ボーカリスト。そのアルバムの裏面で目の周りを内出血で真っ黒にしているのがチャンスだ。当時、過激なステージングで有名で、よく客席に殴り込んだという。写真はそんな時に客の反撃に会った時のものらしい。
チャンスはもちろんだが、今回のもう一つの見所はフロントアクト二組の共演であった。
福岡でインディーズのレーベルを立ち上げた向井氏と吉田氏が共に上京し、かたやナンバー・ガールスとして一世を風靡(その後ザゼン・ボーイズを結成)、かたやオルタナティヴなバンドとして留まっていることをかねがね不思議に思っていたのだが、今回のライヴはその理由がより明確にみえたように思えた。
すごく簡単にかたづけてしまえば、パニックスマイルが変拍子でたたみかけ、ノリを途中で切ってしまうのに対して、ザゼンはあくまでロックしているのだ。
つまりパニックは疑似ロック──アヴァンギャルドに対してザゼンはロック一直線なのだ。
たしかにザゼンも、例によっての途中での停止、タメ等あるのだが、リズムは途切れない。また、ビートも変わらない。つまりノっている客を裏切らないのだ。それに比してパニックはどんどんと客を置き去りにして、これでもかというくらいにビートを変化させ続ける。まぁ、ファンにとってはそれがたまらないのだが。
あとは、向井氏の持つカリスマ性もあるだろう。トークと歌詞で客を挑発し続ける銀縁眼鏡。このキャラは秀逸だ。
しかし、パニックはそんなに器用ではない。ただ楽しそうにアヴァンギャルドし続ける。灰野氏と対バンするパニックはいとも簡単に想像できるが、ザゼンではそうはいかない。というか、灰野氏までを茶化してしまうのがザゼンだろう。
まぁ、それにしても、フロントアクトだけでお腹一杯になりかけた。

さて、ステージではコントーションズのセッティングが始まる。ドラムスを始め、当人たちが出てきてセッティング。そしていよいよジェームス・チャンス登場!
白のスーツが有名だが、この日は白のジャケットに黒のバンツ。そしてボウタイ。泣きのサックスを一吹きすると、有名な例のたこ踊りを始める。一曲目から元気だ。
バンドメンバーは、ほぼオリジナルに近いようだ(といっても、レック、チコ・ヒゲの日本人二人が抜けたあとの)。ベースがサポートメンバーのようだが。
ジェームス・チャンスの音楽をどう説明すればいいのだろうか。紹介文には大抵、全てに「フェイク」が付いている。曰く、フェイクジャズ、フェイクファンク(ジェームス・ブラウンならぬジェームス・ホワイト名義での活躍もあり)、フェイクソウル。
そうそう、ステージを見た感想で、彼のサックスは、笛付きヤカンの音というのがあった。なんて正直な感想だろう! たしかにそう聞こえるといえば聞こえる。本当はフリージャズというのがあって、それのフェイクなんだよと説明するより全然早い。とまぁ、サックスはそういう音だ。
彼のボーカルは基本として最後の音は甘え声で高く終わる。彼のキーボードは基本として楽器売り場で子供が遊んでいる時の音だ。
そんな彼の音にタイトなバックバンドの音が加わると独自のダンスミュージックになる。
ジャスを勉強しようとミルウォーキーという田舎からニューヨークにやってきた彼がどうしてこのような音にたどり着いたのだろう。
まぁ、それはさておき、ステージ上の彼はハンカチで汗を拭き拭き、熱演を続ける。いや、熱演というのは誤りだな。淡々とやっているのだが汗をかいているのだ。目つきは鋭い。
でも途中、ポケットのハンカチを探していて、間違ってはずしたボウタイで汗を拭こうとして、焦ったりもする。
しかし、カッコいい。52歳、頭も薄くなるし、ハラも出気味だが。とにかくカッコいい。
1時間強のライブが終わるとアンコールがかかり、チコ・ヒゲ氏が登場。チャンスを呼び戻し、アンコールが2曲。それも最後はサックスのソロでナット・キング・コールのスタンダード曲をやる。あれぇ、けっこう吹けるんじゃないのサックス!
お客さんがずいぶんと大人しかったように思えたが、なにはともあれ、東京でジェームス・チャンス&コントーションズの音を聞くことが出来ただけでも奇跡だと思う。
それも『NO NEW YORK』から百万光年もたったいま。
持続は力だなぁ。

うーん、困った。
ちょっとジェームス・チャンス熱が抜けなくなってしまった。
当日会場でも販売していたのだけれど、『ジェームス・チャンスとポストNYパンク』という本が出ていて、ついにそれも買ってしまった。
けっこう良くできている、この本。そして、あらたな感慨がいくつか。
思えば、なんで『NO NEW YORK』のなかで、チャンスが特に気になったか考えてみると、やはり、あの痙攣するサックスなのだ。
いわゆるフリージャズにおけるサックス・ソロの典型的な吹き方ではあるのだが、展開がまるで違う。というか、展開していかないサックス。でもこの音色、誰かに似ている。そう、アルバート・アイラーのキュルキュルサックスだ。
もちろん、アイラーのソロはその音からどんどん展開していくのだが。
彼のテクニックがどれほどのものなのか、よくは解らない。少なくとも通常のライブでは、サックスのソロはテクニカルではない。ただ、それが意図されたものである可能性は十分にある。キーボードの演奏においてはさらに下手加減が顕著で、前にも書いたが、楽器店の前で子供がよく鍵盤を叩いているあの調子である。これも、まぁ、なんだか怪しい。あそこまで下手に弾くのは逆に大変ではないのか。
本の冒頭で、DNAのドラマーだったイクエ・モリ氏が、「ジェームス・ブラウンのように歌い踊りながら、アルバート・アイラーのように吹いて観客を圧倒していた」と書いているが、ある意味、それはそれで的確な比喩なのかも知れない。
ひとつ驚いた事実は、Yo La Tengoのアイラ・カプラン氏の文書の中に、ボトム・ラインでのストーンズ・トリビュート・コンサートで彼が『アンダー・マイ・サム』をカバー(これ、もう絶妙な選曲!)、ハウスバンドの中にいたトム・スコットとサックス・バトルをやったというではないか!
トム・スコットといえばタクシードライバーのテーマ曲で一躍有名になったサックス・プレーヤーで、いまや大先生。これはもうどんなことになったのか。うーん。
もうひとつは04年にCBGBで行われたロバート・クワインの追悼コンサートで、トリだったチャンスが、ジョン・ゾーンを従えて、アイラー・バージョンのサマータイムを演奏したという。
これもちょっとというかぜひとも聞いてみたいものだと思った。
チャンスはニューヨーク、アッパーウェストサイドのアパートに奥さんと年老いたペルシャ猫と一緒に暮らしているという。

補考:興奮冷めやらず2回に渡りmixiに掲載

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