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小さなイノベーションを起こす、「違和感」から発想するブリコラージュ思考

今から12年前の2013年にNHK Eテレの教育番組「デザインあ」の展覧会を観た。展示物の中に、アートユニットPerfektronが手掛けた「ごちゃまぜ文庫」という作品があった。児童文学の本の題名の上下を組み替えて新しいタイトルを作って遊ぶ積み木である。

出典:https://archive.transbooks.center/ab

上下がレゴブロックのように着脱できるようになっていて...

出典:https://archive.transbooks.center/ab

適当に組み合わせると、トムソーヤの無情(トムソーヤの冒険+ああ無情)や、泣いたまほうつかい(泣いた赤鬼+オズの魔法使い)のような意味不明なタイトルができあがる。

聞き慣れないこの不思議なタイトルは、人々の想像を掻き立てる。子供に限らない。大人も違和感を払拭するために思わず創造力を働かせてしまう。

「ブリコラージュ」だと思った。


ブリコラージュとは、以前の記事でも紹介したが、ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作ることである。

フランスの社会人類学者レヴィ=ストロースの1962年の著書「野生の思考」でも採り上げられ、先住民族の知恵を解いている。

そこまで難しく考えなくても、そのごちゃまぜ文庫のブリコラージュ思考は、製品やサービスのアイデア創出に応用できるのではないかと閃いた。

正確には、ユニークな発想をするために頭を柔らかくする効果があると感じた。そこで、その年に「プチ・イノベ(ーション)」と称したワークショップを企画し、クライアント企業のデザイン部の方々に向け実施した。シンプルな発想による「デザインのプチ変更」で新しい価値を⽣み出すことを目的とした。

筆者作図

もう遠い昔のことですっかり忘れていたが、先日、同僚に「こんなのやりましたね~」と言われて思い出した。しばし懐かしんでいたが、ふと、今でも有効なのかもしれないと思い、リファイン&アップデートしてシェアすることにした。


ブリコラージュ思考(勝手に命名)


冒頭で挙げた「ごちゃまぜ文庫」に着想し、当時、このような発想法を考案した。

まず、既存の製品やサービスなどの対象を5W+1Hで「要素分解」してカード化し、次にカードを差し替えて構成を組み替えることで生じる「ギャップ」を埋めることで、アイデアを創出する方法。

「違和感」を覚える要素を書き換えていくことで、元の製品やサービスを、新しい意味や価値を持つものに変えるという考えである。

⼤々的な技術⾰新ではなく、20年越しの製品⾰命でもない小さな変革(だが大きな効果をもたらす)であることを前提に、そのお手本に最も相応しいと思われる、カモ井加工紙が2008年に発売した「MTマスキングテープを題材にして、要素分解の見本を作った。

出典:https://www.masking-tape.jp/

塗装時の養生に使うマスキングテープを要素分解してみる。

筆者作図

ターゲットユーザーを変えると「違和感」が生じる。

筆者作図

「創造力」を働かせてそのギャップを埋めてみる。

筆者作図

MTマスキングテープの誕生は、実際にはマスキングテープをラッピングやコラージュに利用していた女性たちがカモ井加工紙の工場を訪ねてきたことがきっかけだそう。

https://www.jr-furusato.jp/magazine/3465/

なので、このような思考法で導き出した訳ではないのだが、わかりやすく秀逸なので、勝手にモデルケースにさせていただいた。

MTマスキングテープは、WHO~対象ユーザーを変えることで元の商材に新たな価値を与えたケース。わたしは余ったご飯をおにぎりにして冷凍保存する際に、小さく切ったマスキングテープに日付を書いて貼っておくのだが、そのような用途を上の図に当て嵌めると、WHAT~何のためにを「ラベリングするため」に差し替えることになる。

出典:https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4550182913910

↑ 無印良品の「ミシン目入りマスキングテープ」。このようなアイデアに辿り着くのかもしれない。

ちなみに塗装やコーキングの際にはみ出さないようにするための従来品は、3M(スリーエム)が1925年に発売。

出典:https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/p/c/tapes/masking-paper-tapes/masking-tapes/

粘着力の強いテープだと貼った部分の表面まで剥離してしまうことから、専用のテープとして開発されたそう。


より柔軟に考えるための3つの発想法🍡


ワークショップを開いて、さぁ「ブリコラージュ」をやりましょう!と言っても参加者は一瞬戸惑ってしまう。そこで、発案の手引きとなる発想法(高名な先生方が過去に提唱された)を3つ採り上げ、参考にしてもらうことにした。

① ラテラル・シンキング(水平思考)


ラテラル・シンキングとは1960年代に、医師で心理学者のエドワード・デボノ博士が提唱した「既存の前提に囚われることなく、柔軟に発想を広げる思考法」である。

普段、よく行われるロジカル・シンキングは、一つの物事を深く掘り下げ体系化し、合理的に結論を導き出す方法。前提⇒推論⇒結論という思考プロセスであることから「垂直思考」とも呼ばれる。

それに対し、ラテラル・シンキングは「前提」から問うことで、水平方向に発想やその可能性を広げる思考法。 経営学者フィリップ・コトラー氏の2003年の著書Lateral Marketingでの例がわかりやすいので図にさせていただくと、

既出の図解も参考に筆者作図

このように常識からはみ出した考えに飛躍することで、これまで不可能だったことを可能にしたり、変わりようのないものの価値を変えることができる。

飲み会に車で来た人もビールの味わいやのどごしを楽しめるようにしたノンアルコール・ビールテイスト飲料然り、先述のMTマスキングテープもこのラテラル・シンキングが当て嵌まる。

新しいジャンルを開拓する発想法と言えるのかもしれない。最近の例では、アートを「鑑賞するも」のから「体験するもの」に変え、美術鑑賞や芸術作品の複製の概念を覆した「イマーシブアート・ミュージアム」が該当しそうだ。

出典:https://kadcul.com/event/77

↑ 角川武蔵野ミュージアムで2022~2023年に開催された体験型デジタルアート展「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」。若い人たちが美術展に足を運ぶきっかけとなった。


② ナッジ理論(nudge)


ナッジ理論は、2017年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のリチャード・セイラー教授と法学者のキャス・サンスティーン教授が2008年に提唱した行動経済学。

「望ましい行動に人を自然に導く方法論」を指す。

イソップ物語の「北風と太陽」を思い出して欲しい。旅人のコートを強風で吹き飛ばして強制的に脱がせようとして失敗に終わった北風に対し、太陽は日差しで暖かくすることで旅人が自らコートを脱ぎ成功したお話である。力ずくで何かをさせるのではなく、「自発的に」行うように促す視点は、まさにナッジである。

てがきですのβのイラストを活用し、筆者作画

清掃の負担を減らすために男性用便器に的の役割を果たす蝿の絵を付けたオランダのスキポール空港のトイレが、ナッジの代表的な表現例。

筆者が見つけた他の事例も紹介させていただくと、

出典:https://www.createid.com/branding/squid-soap https://www.allinmam.com/handen-wassen-wordt-nu-nog-leuker/

2007年に米国のAirbourne社が発売した「Squid Soap」のこの容器のデザイン。これもナッジだ。

手を洗おうとポンプを押すと手のひらに「スタンプ」が押されるので、それがきれいに落ちるまで時間を掛けてしっかり洗わなければいけない。手を洗う前に手を汚すという「逆説的な発想」によるソリューションである。

ラテラル・シンキングは、常識から「はみ出す」発想法であるのに対し、ナッジは、視点を「ずらして」ポジティブに相手の裏をかくような考え。はみ出したりずらしたりすることでユニークなアイデアを導き出す点で、「違和感」起点で考えるブリコラージュ思考の発想支援になると感じた。

最近のプロダクトにもナッジを実現させているものはないか考えてみた。

出典:https://www.zdnet.com/article/best-android-phone/

Google Pixel 9 Pro Foldの「Made You Look」機能。二つ折りスマホの特性を活かし、開くと外側に向く画面にユーモラスな動物の絵のアニメーションを表示することで、赤ちゃんや小さい子供の撮影時に「自然な笑顔」を引き出せるようにした。


③ クリティカル・シンキング


3つ目のクリティカル・シンキング(批判的思考)は、当たり前とされてきていることに疑いの目を向けて物事の本質を見極める発想法。発案者は、アメリカの哲学者ジョン・デューイ氏(1910年に提唱)。

元々は、メタ認知とのセットで学校教育を目的に用いられていたようだが、近年は、ビジネスための思考力を鍛える方法の一つとして定着している。

ブリコラージュ思考のワークショップでは、この概念を単純化し、「そもそも論」と名付け、既に常態化していてスルーしていることに疑問を投げかけることを奨励した。

そもそも論の例を今挙げるとしたら、大王製紙が2019年に限定販売した「エリスMegami素肌のきもち シンプルパッケージ」がまず頭に浮かぶ。

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000447.000001310.html

外袋をホテルのアメニティをイメージしたシックなデザインにしたのだ。これが消費者の潜在ニーズを顕在化したアイデアだったようで高い評価を得る結果となった。

そもそも生理用品のパッケージは、人目に触れるのが恥ずかしくなるようなデザインにしなければいけないのか? まさに常態化していることを疑問視して導き出した結論である。

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000447.000001310.html

↑ 2022年には、個包装を「紙」にしたエリス 素肌のきもち ナチュラルシリーズを発売。

ワークショップを実施した12年前には、Steelcaseが2011年に発売した「Node Chair」というプロダクトを採り上げた。米国のデザインファームIDEOが考案した製品で、

出典:https://www.steelcase.com/products/classroom-chairs/node/

テーブル付きの学習チェア(タブレットチェアやライティングチェアと呼ばれる)を基本に、キャスター付きの脚部にバッグを置けるようにしたもの
この製品が誕生したのは、チームでの「共創」が教育現場や職場で重視され出した頃。教室や会議室をダイナミックに使う学習/ワークスタイルが採られるようになったが、
「そもそも」デスクやテーブルも動かさなければいけないのか?
体と一緒に椅子もテーブルも荷物も移動できれば良いのではないかと考え、このアイデアに至ったと推測する。

出典:https://www.steelcase.com/products/classroom-chairs/node/

タブレットチェア自体は、戦後の米国のベビーブームで教室に大量の生徒を収容できるようにする必要があったことから1950年代に開発されたようだ。

筆者作図

社会背景が変わることで生まれるギャップを創造力で埋めるとこうなる、と、ブリコラージュ思考にも当て嵌ままるのではないかと考える。


デザイン以外にも使える(かも)


5W+1Hで要素分解し、一部分を差し替えて生じる「違和感から発想する」この思考法は、極めて単純で安易に思われるかもしれない。だが、チームで課題を共有し、共に想像を膨らませ、頭を捻り、思っても見なかったアイデアに辿り着くのに簡単で有効な方法ではないかと考えた。

もちろん、実現性や市場性などの検証も必要になるので一筋縄では行かない。

まずは普段から頭を柔らかくして考える癖を付けるのに役立てばと思い、シェアさせていただいた。

デザインに特化してお話ししたが、デザイン以外にも応用できるような気がする。自分で図を作っていて、他社事例の成功要因の分析にも使えそうだと感じた。また、「一要素を差し替える」という方法だけ切り取って、様々なフレームワークに活用することも可能ではないだろうか。

是非、一度、ゲーム感覚で試してみていただけたら嬉しい。

NewsPicksトピックス 2025.4.18掲載記事より転載(筆者:本人)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ

人や社会のウェルビーイングに寄与する視点から、気づきや洞察を発信しています。デザインの面白さや可能性を、専門外の方にも届く言葉で伝えることを大切にしています。

普段は、デザイン・カルチャー・生活者インサイトを軸に、
● 新商品/サービスのコンセプト開発
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などを行なっています。

企画やデザインの方向性で迷われていたり、生活者の価値観から発想したい場合、または社内共有のためのストーリー構築などもお手伝いできます。

あわせて、執筆や講演・社内勉強会のご依頼も承っています。
お気軽に designxwellbeing@gmail.com までご連絡ください。

(トップ画像は、「てがきですのβ」のイラストを組み合わせて作成しました)

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