「偶然」を楽しむ、デザインに今採り入れたい「野生の思考」
何かを作る時、上手くできるように慎重に計画的に進めると出来上がりが面白くなくなることがある。左脳を働かせ過ぎてこじんまりとまとまったりもする。そう言う自分にも身に覚えがある。
近年は、たくさんの多種多様なツールが開発され便利になったことから創造力を働かせなくてもできることが増えた。料理もレシピ通りに材料を計って調理の手順を踏めばその通りにできるようになった。そしてそこには「意外性」や「偶然の産物」はなくなった。(以下長文)
🪑 ありあわせの不揃いの椅子

これは筆者が某所で撮影したバス停である。大きさも形も意匠もバラバラな椅子が置かれている。恐らくバスを待っている間に座れるように誰かが有り物の椅子を並べたのだろう。そこには計画性や意図が感じられない。その「無秩序さ」が面白く思わず写真に収めてしまった。
フランスの社会人類学者レヴィ=ストロースは、未開とされる先住民族の知恵や文化が文明社会の基層を成すことを発見した。1962年の著書「野生の思考」でそれを唱えている。その中でありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る「ブリコラージュ」を紹介しその思考を説いた。さらに近代の科学的思考(エンジニアリング思考)と対比させ、その思考(ブリコラージュ)の普遍性も示している。同氏の言う科学的思考とは、目標を設定しその達成に必要な材料や手段を揃え計画的に事を進めることである。
ブリコラージュは有り物でパパっと作る料理によく例えられる。修行中の料理人に課せられるまかない料理(ありあわせで作る従業員用の食事)が彼らにとっての登竜門でもあることを考えると、このやり方には相当の想像/創造力が求められることにも気づく。
写真のバス停の例は、何かを作っているわけではなく成り行きの結果に過ぎない。だが、計画的ではなく偶発的である点でブリコラージュに近いものがあると感じた。
🏢 雑多な渋谷の景観

成り行きの結果で言うと渋谷駅周辺の景観もそうだ。無秩序さが固有の世界を作り出している。自然発生的なブリコラージュと言えるかどうか微妙だが(拡大解釈)、更地から再開発する整然とした都市計画と比較すると、人工物なのに「野生的」に感じる。 空き地に生える雑草の生命力溢れる感じを思い起こさせる。
🖊️ 無意識のアート・試し書き

計画的ではない以前に人の意識も働いていないところでの偶然の産物もある。筆記具コーナーの「試し書き」だ。
実業家で文筆家の寺井広樹氏は、世界各国の試し書きに魅せられ「無意識のアート」と称して書籍や展覧会を通しその魅力の発信に努めている。フランスの高級家具ブランドLigne Rosetは昨年、アーティストのとんだ林蘭さんとのコラボで試し書きを生地の柄に採用したソファを発売した。試し書きにアート性が見出されていることも面白いが、何も意図せず思いのままに自由に書く/描く場面が身近にあることに気づいてデザインに携わる身としてハッとなった。

偶発性、躍動感、自由さ。
感じたままに描かれた天真爛漫な子供の絵にもそうした野生的な良さを感じる。その魔法も理性と引き換えに解けていく。
アーティストもやっている「野生の思考」
電気グルーブの元メンバーで現在もテクノミュージシャンとして活躍中の砂原良徳氏は、J-WAVEの番組で曲作りについてこう語っていた。
僕の場合はリズムから作ることが多いです。まずはドラムのパターンを打ってそれを流しながらメールを書いたりして、アイディアが思い浮かんだ時にシンセとかを足して、さらにまたそのループを流しながら別のことをやって、っていう感じですね。実はコードを入れるのは、普段の自分のやり方ではあまりやらないです。なぜかと言うと、コードを決めてしまうと、先に結果が分かってしまうことになるので、なるべくコードを入れないで作っていきます。自分の考え方として、コードは結果論でありたいっていうのがあるんです。効果音に引っ張られて、別のコードに聴こえるとか、そういうのが好きなんですね。
コード進行から考えると型にはまり、発想が萎縮してしまうのだと受け止めた。
スガシカオ氏はNHKの番組で作曲法を聞かれ、こう答えていた。
作曲時に楽器を使わない、鼻歌から始める。何百と曲を作っているので楽器で作曲すると似てくる。
砂原氏と同じようにコードに縛られず感情の赴くままに自由に曲作りを行っているようだ。
プロのデザイナーにはお題があり様々な条件もクリアしなければいけないので、芸術性が求められるアーティストのように完全にフリースタイルで考えるわけにはいかない。だが、計画的にロジカルに物事を進めると予定調和な結果になる可能性もある(スガ氏が楽器を使うと曲が似てくると言ったように)。最近は思い付きで発言することが咎められがちだが、直感的に思い付いたことを吟味する前に吐き出す機会があっても良いのかもしれない。発想の瞬発力を上げる効果もありそうだ。
「偶然を楽しむ、面白がる」心のゆとりや好奇心を持つこともアーティストに見習いたい。特に「好奇心」は、思考が合理化すると失われるような気がする。

坂本龍一氏が2017年にリリースしたアルバム「async」は、そのタイトルが意味する「非同期」をテーマにしていた。オーケストラをはじめ、大抵の音楽は複数の音を同期させ組み立てられる。南極の氷の軋む音や工事現場のノイズなどに魅せられた坂本氏は、その「環境音」の非同期性を面白がりそれらを採取して自身の音楽に採り入れた。GQ JAPAN主催のトークショーでこのように語られている。
多くの人がクルマのなかで音楽を楽しんでいるわけですから、どんなふうに聞こえるのか知りたかったんです。クルマのノイズがあり、街の騒音があるという状態で、どんなふうに聞こえるか自分で試した。あえて一番うるさいあたりを走ってみたんですが、エンジン音や外から入ってくる街のノイズが加わることで、また新しい音楽が生まれていくんです。思っていた以上にいいなと思いました。
偶然を楽しむデザイン
ここまで作り手の創作活動に野生の思考を採り入れることを提案したが、創作物(=商品)のユーザーが「偶然を楽しむ」デザインも考えられる。不確実であることや予測不可能なこと、不可避なこと、といった人がコントロールできないところに面白さがあるデザインである。
🖐️ 力加減で出来映えが変わる

トヨタ・レクサスが毎年開催するデザイン公募企画LEXUS DESIGN AWARDの2015年の入賞作品「Instamp」(阿津侑三氏作)は、シリコンの弾力性を活かして押す力や角度、回数によって書体が変化するようにしたスタンプ。使う人が「能動的に」五感を働かせる点でも優れたアイデアだと感じた。

インクを付ける量によって白抜き文字になったりもする。スタンプを紙から外すまでどう写っているかがわからない。偶然を楽しむデザインである。形はシンプルだが、不確実さを価値にするという発想はなかなか思い付かない。

👜 偶然できる柄が個性

1993年にスイスで誕生した「FREITAG」のアイコンバッグは、一つ一つ柄が違うのが特徴。使い古したトラックの幌を再利用して作るため、生地を裁断すると元の柄が分割されおのずとそのようになる。

既に見慣れた商品だが、よくよく考えるとこれも偶然を楽しむデザインだ。先のスタンプが体験による偶然性であるのに対し、こちらは意匠的な偶然性。廃棄される自転車のインナーチューブと車のシートベルトを組み合わせた構成は「ブリコラージュ」でもあることに筆者も今気付いた。
📸 どうしても生じる歪みが味に

天面と底面に「チタン」を採用した富士フィルムのミラーレスカメラ「X-Pro3」(2019年発売)。チタンは見た目が美しい上に軽量で強く変形しにくい一方、プレス成形時に変形しやすく均質に精度を出すことが難しいという欠点がある。このカメラでは、職人技術で量産品としての精度を出しつつ、表面に出てしまうわずかな「歪み」を味として見せている(必然的に一つ一つ歪み方は異なる)。
偶然生じる歪みなどは工業製品ではNGとされるが工芸品では「ゆらぎ」として情緒価値として見なされる。それを精密機器に採り入れることもできるのか!と感心した。もう生産されていないようで残念だ。
定規に頼らない、野生の思考のススメ
行きつけの美容院の店長が、昔「センチコーム」を使って髪の長さを測りながら客の髪を切る同僚がいた話をしていた。センチコームとは、定規のように目盛りが付いた櫛のこと。頭の形や髪の毛の生え方は左右対称ではないので果たしてこのやり方でいい感じに仕上がるのか謎だ。どうやらその方は目盛りを心の拠り所にしていたようだ。

わたしの知人は旦那さんが手作りラザーニャを直角に切れるよう段ボールでゲージを作ったと言って笑っていた。有機的なものにまで機械的な正確性を求めるのはいかがなものかと思うが、定規ではないにせよわたしたちも似たようなことをしているのかもしれない。家族や友人とは思い付きで話すのに、仕事や学業となるとアイデアを出すのにセオリーなどの目に見えない物差しを気にしがちである。時には野生の思考を試してみても良いのではないか!?
2018年にフジテレビで放送されたドラマ「僕らは奇跡でできている」(高橋一生さん主演)の初回のシーンでこのようなやり取りがあった。
生き物好きで風変わりな主人公の大学講師は授業で、シマウマの白黒の縞の理由を学生たちに問う。
彼らは調べる時間が欲しいと言う。
その講師はこのように答える。
「外から知識を持ってくる必要はありません。今あなたの中にあるもので考えればいいだけです。皆さんが考えていることを皆さんの言葉で知りたいです。では、発表してくれる人?」
NewsPicksトピックス 2024.7.8掲載記事より転載(筆者:本人)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ

人々や社会を幸福にする手段としてデザインを捉え、気づきを発信しています。デザインの面白さや可能性をデザイナー以外の方々にも感じていただけたら幸いです。
普段は、デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定や トレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当しております。
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トップ画像は、「てがきですのβ」のイラストと筆者が描いた椅子とバス停の絵を組み合わせて作成いたしました。
ひとの想いから、ビジネスをかたちにする。
デザインコンサルティングのトリニティ株式会社
