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コードとエゴ──エンジニア×AI

「自分でコードを書いた方が早い、というのは単なるエゴだと思います。任せない理由は、自分のほうがすごいと信じ込んでいるだけですから」

iCAREの開発現場で、あるエンジニアが放った言葉だ。AIツールが急速に進化し、日々の開発プロセスに溶け込む中、現場のエンジニアたちは何を考え、どう働いているのか。今回は、iCAREでプロダクト開発を担う濱田さんに、AI活用のリアルな現在地と直面している課題を聞いた。

※本インタビューは2026年5月に実施したものです。掲載内容は当時の情報に基づいているため、現在の取り組みとは一部異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

【プロフィール】
新卒でネットワーク21(現デジタルハーツ)に入社し、POSレジなどの自社アプリ開発や受託開発を経験。その後、シリコンスタジオにて自動車のデジタルメーター開発やドライビングシミュレーターのグラフィック向上といったビジュアル技術に携わる。さらにFAIR NEXT INNOVATIONでは、Webサービスの受託・自社開発において幅広い技術スタックを経験。

2022年にiCAREへ入社。現在は、リードエンジニア兼PLとしてプロダクトの主要機能開発を牽引し、フロントエンドからバックエンドまで幅広く担当しながら、システムの成長と安定運用に貢献している。

紙データをLLMで読み解く

濱田さんは現在、紙をカメラで撮影し、LLM(大規模言語モデル)とOCRを用いてデータ化する機能の開発に取り組んでいる。Carely健康管理クラウド を提供するiCAREにとって、多種多様なフォーマットで届く健康データの正確な取り込みは、長年の技術的な課題だった。

── 現在の開発業務において、AIはどの程度の割合で使われていますか。

濱田: 基本的には全部使っています。Claude、Cursor、GitHub Copilotなどを組み合わせていて、逆に「使わない場面」を探す方が難しいくらいです。

── 具体的には、どのフェーズからAIを介入させているのでしょうか。

濱田: 要件や仕様の検討段階からです。自分の頭の中にある漠然としたアイデアをAIに壁打ち相手として整理してもらいます。「こういうタスクをやりたい」とそのまま投げるのではなく、プロンプトの設計からAIと一緒に考えていく感覚です。そこから実際のコーディングまで、一貫して頼っていますね。

── レビューのフェーズはどうですか。AIに任せている部分はありますか。

濱田: CI/CDのパイプラインでAIによる自動レビューは走らせていますが、最終的な「人間の目でのレビュー」をAIに丸投げすることはありません。AIには「ここは指摘してくれない」という得意不得意の傾向があります。そこを把握した上で、AIが拾いきれない文脈や仕様の意図を人間が精査しています。

開発の98%をAIに委ねて見えた景色

ChatGPTやGitHub Copilotが登場した初期、多くのエンジニアは「定型業務の自動化」や「ボイラープレートの生成」程度にAIを使っていた。しかし、現状はそこから大きくフェーズが変わっている。

── AIを使い始めた頃と現在で、働き方はどう変わりましたか。

濱田: 最初はあくまで「お手伝い」でした。手で書くのが面倒な繰り返し作業を任せるくらいで、1からコードを書かせることはできませんでした。それがClaudeやCursorの登場で一気に変わりました。今のプロジェクトで言うと、コードの98%くらいはAIが書いています。

── 98%。ほぼ全てですね。

濱田: 細かい微調整は手で直しますが、大枠の実装からちょっとした改修まで、AIにバンバン書かせています。コーディングや実装方針を考えるスピードが圧倒的に速くなりました。AIがコードを生成している間に、PdM的な思考を巡らせたり、他のメンバーのタスクを見たり、並行して別の動ける時間が増えました。

── 「AIに仕事が奪われる」という抵抗感を持つエンジニアも少なからずいます。

濱田: 私自身は抵抗はありません。将来的にはどうなるか分かりませんが、少なくとも今は人間の能力を加速させている状態です。むしろ「AIに任せられない」と抱え込むのは、自分のほうがミスなく完璧に書けると信じ込んでいるエゴだと思っています。実際には人間の方がミスは多いですから。

AIに任せられない「責任」と「文脈」

コードの大半をAIが生成するようになっても、エンジニアという職種が消滅するわけではない。現場では、非エンジニアがAIを使ってプロダクトを作れるほど甘い世界ではないことも分かってきている。

── コードを書く作業が減った分、エンジニアには何が求められるようになっているのでしょうか。

濱田: 「AIが書いたコードを見極めるスキル」です。例えば、セキュリティの観点。AIにOWASPの基準を守らせたり、WAFの仕組みを考慮させたりすることは可能です。しかし、「本当にプロダクトの要件を網羅できているか」「別のシステムの制約に抵触していないか」を最終的に判断するのは人間の仕事です。

── 専門的な視点でのチェック機能ですね。

濱田: コードが動くことと、プロダクトとして安全に運用できることは別です。パフォーマンスや組織特有のルール、システムの歴史的背景といった「文脈」をAIは完全には理解できません。もしバグやインシデントが起きた時、AIのせいにはできない。最後に責任を持つのは人間だということです。

浮き彫りになる「AIスロップ」と初学者の壁

AIによって開発スピードが跳ね上がる一方で、組織としての新たな課題も生まれている。

── 開発現場全体でAIを活用していく中で、見えてきた課題はありますか。

濱田: みんながAIを使ってバンバン実装を進めるようになると、どうしても実装漏れや質の低いコードが混ざるリスクが高まります。いわゆる「AIスロップ」と呼ばれる問題です。開発スピードとクオリティのバランスをどう保つか、品質を担保する仕組みづくりが難しくなっています。

── エンジニア個人のスキル差も影響しそうですね。

濱田: 現状、AIを使いこなせる人とそうでない人で、開発スピードに大きな差が生まれています。もう一つの課題は、ビギナーにとって非常に辛い環境になりつつあることです。

── と言いますと。

濱田: 私たちが一からコードを書いてエラーと格闘しながら学んできたプロセスを、今の若手は経験しにくくなっています。いきなり「AIが生成した複雑なコードの良し悪しを見極めろ」と言われるわけです。今後、新卒を一括で採用して手取り足取り教えるよりも、最初からハッカー気質で自走できる人を求める方向に組織はシフトしていくかもしれません。

── 開発プロセスそのものが不可逆な変化を迎えているのですね。

濱田: 人がコードを書く時間は減りましたが、考える時間や責任を負う領域はむしろ深くなっています。変化を拒むのではなく、どう使いこなしてプロダクトの価値に変えていくか。そこに向き合い続けるしかないと思っています。

開発現場から「コードを書く」という物理的な作業が消えつつある。しかし、プロダクトの品質に責任を持ち、複雑な文脈を読み解くエンジニアの泥臭い役割は、手書き時代以上に重みを増している。iCAREの開発組織は、この変化を静かに受け入れ、今日も淡々とプロダクトを前に進めている。


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