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【コード哲学エッセイ】 上半期の終わりに触らないコードを見つける —— 守るべき核心と手を入れていい縁の見極め

半年の振り返りは掃除の季節じゃない

六月最後の週、水曜の夜。
窓の外はまだ雨が続いている。
カレンダーは、上半期の瀬戸際に差し掛かっている。

五月の終わり、僕は続いたことだけを十個数えた。
note を書き続けた、珈琲を淹れ続けた——
減点ではなく、途切れなかった線を拾った。

同じ頃、リポジトリのほうでは別の衝動が顔を出す。

「半年が終わる。そろそろきれいにしよう」

未読の ToDo。
似た関数。
名前の古いファイル。

エディタを開くと、指が勝手にリファクタに向かう。
掃除は正義に見える。
けれど、僕はここで一度だけ足を止めたい。

全部直す季節じゃない。
触らない場所を、先に見つける季節かもしれない。

決済の一行を軽く触った夜

話を少し前に戻します。

個人開発の小さな SaaS を、半年ほど育てていたときのことです。
課金は外部サービスに任せ、Webhook で状態を同期する。
当時の僕にとっては、もう動いている部分だった。

上半期の振り返りで、僕はその handler を開いた。
変数名が古い。分岐が長い。コメントも足りない。

動いているものに触るな——
そう言われてきた言葉は、頭のなかにあった。
それでも、きれいに整えたい気持ちのほうが、少しだけ強かった。

一行だけ直すつもりだった。
日付の比較を、読みやすい関数に切り出す。
テストは通った。ステージングも通った。

本番では、静かに壊れた。

ログに派手なエラーは出ない。
一部のユーザーだけ、更新日の境目でプランがずれる。
問い合わせは来ない。
ダッシュボードの数字だけが、ほんの少し歪む。

その夜、僕が恐れたのはバグそのものより、自分が軽い変更と呼んだことだった。

核心と縁

いまの僕は、コードベースをこう見分けています。

核心は、壊れると仕事の意味が止まる場所。
縁は、壊れても輪郭は残る場所。

決済の同期。
ログインの本人確認。
在庫や権限の不変条件。

ここは、読みにくくても触りにくい。
依存が内向きではなく外向きに広がっている。
一箇所を動かすと、見えない契約がいくつも揺れる。

一方で、ボタンの余白、ログの文言、新しい画面のルーティング、通知テンプレートの差し替え——ここは縁に近い。
痛い。直すべき。
でも、プロダクトの骨格は立ったまま戻れる。

六月に書いてきた言葉が、ここで重なる。

設定は境界だ。
型は約束の地図だ。
重複は、すぐに統合しない。

触らないコードも、同じ系譜の判断だと思う。
境界の内側を、いまは守る。

触らないは怠けじゃない

誤解してほしくない。

触らないは、腐ったまま放置するという意味じゃない。
いま触る理由が、美しさだけではないという宣言に近い。

汚いコードは恥じなくていい、と別のエッセイで書いた。
過去の自分と和解する技術もある。

けれど、和解と改修は別の動詞だ。
上半期の終わりに欲しいのは、全面改装じゃなく見取り図です。

どこが荷重壁で、どこが壁紙か。
触っていい縁は、積極的に手を入れる。
核心は、必要が生まれるまで、指を遠ざける。

「動いているものに触るな」は、半分だけ正しい。
動いている核心に、理由なく触るな——
そう言い換えたほうが、現場に近い。

上半期の終わりに僕がやる見分け方

方法は、派手じゃない。
紙でも Obsidian でもいい。
タイマーを二十分置いて、次の三つだけ書く。

壊れたら、最初に何が止まるか。
このファイルに、何が依存しているか。
いま直したいのは、痛みか、見た目か。

三つ目で見た目だけが並ぶなら、縁の仕事だ。
一つ目で「課金」「ログイン」「データの整合」が出るなら、核心の候補だ。

そのうえで、核心候補には一行だけ残す。

# 上半期まで触らない。理由: プラン同期の境目

コミットログに理由を書く。
README の隅に、守るファイルを三つまで列挙する。
触らないことを、隠さない。

バージョンを上げる勇気のエッセイで書いた通り、止めるなら理由を一行残す。
触らないも、同じだと思う。

手を入れていい縁のほうが半分は多い

安心していいのは、縁のほうが多いということです。

UI のコピー。
エラーメッセージの口調。
管理画面の並び。
ログの粒度。
新機能の入口——核心を貫かない限り。

上半期の振り返りで僕がやりがちだったのは、核心のファイルを開いてリファクタし、縁の改善を後回しにすることでした。
見た目のきれいさは、核心のほうに魅力がある。

いまは逆にする。
縁を先に直す。
核心は、要件が変わるまで眺める。

DRY で統合しないのと同じで、早すぎる掃除が一番つらい変更を呼ぶ。
六月の梅雨のなかで、それを何度も思い出した。

エディタの前で僕が自分に聞くこと

ファイルを開いた瞬間、昔の自分に声をかけます。

「これは、守るべき核心か。
 それとも、手を入れていい縁か」

曖昧なら、触らない。
縁だとわかるなら、今日直す。
核心で、かつ理由が美しさだけなら、閉じる。

上半期の終わりは、自分を採点する季節でもある。
五月は、続いたことを数えた。
六月の終わりは、続いてきたコードのうち、何を守るかを数える。

減点表じゃない。
守るリストだ。

同じように、振り返りのたびに全部を直したくなる誰かに届けばうれしいです。

ひとりごと

決済の一行を触った夜は、長く引きずった。
いまは、そのファイルを開く前に、一度だけ深呼吸する。

半年が終わる。
コードベースは、まだ育ち続けている。
触らない場所を見つけられた日も、前に進んだ日だと思っています。

2026© おおとろ

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止めることと、守ることは、表裏一体です。

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