経営者×投資家対談⑨|UPSIDER宮城徹氏×DNX Ventures
DNXの「起業家×投資家対談」シリーズ、第9回目は、2025年7月にみずほフィナンシャルグループへの参画で大きな話題を呼んだUPSIDERのご登場です。代表取締役社長の宮城徹さんと、支援に関わったDNXメンバーの複数名による対談インタビューをお届けします。
DNXは、UPSIDERの2019年のシードラウンドでは出資を見送りましたが、翌2020年のシリーズAで5000万円の少額出資を実施。その後、2021年のシリーズBはリード投資を行い、シリーズC・Dでも継続してご支援をさせていただいてきました。
SaaS領域の投資が多いDNXにとって、UPSIDERはFOLIOに続く2社目のフィンテックスタートアップでした。シード期から非常に大きな「挑戦」を語っていたUPSIDERへご出資し、投資後も価値ある支援をお届けすることは、当時のDNXにとってもまた「挑戦」でした。「挑戦者を支える」というUPSIDERの理念に共鳴し、互いの挑戦が重なり合っていたように思います。
今回は、その歩みを振り返りながら、UPSIDERが大きなことを成し得た「強さの理由」を探ります。「でかいことをやりたい」と願う経営者のみなさんに、ぜひご一読いただければ幸いです。
手ぶらでやってきた、ふたりの起業家

倉林:2019年のシードラウンドの時、カケハシの中川さんから「マッキンゼーの後輩で、めちゃくちゃ優秀な人が起業する」と紹介を受けてお会いしたんですが、手ぶらで来られたんです。口頭で説明され、最後に資料が出てくるのかと思ったら出てこなかった。投資家人生で初めてのケースでしたね。
宮城さん:当時はいろいろな投資家を回りながら、「自分たちがやろうとしていることは正しいのか」と悩んでいました。なかなか話を聞いてもらえず、ポジティブな反応も少なかった時期です。資料を出しても前に進まないだろうと思い、口頭でなんとか伝えようと考えたんです。DNXの大手町オフィスを訪問する前には、日比谷公園で水野と2人で練習していたんですよ。まるで売れない芸人みたいに、2人それぞれ20メートルくらい離れて練習して、お互いにアドバイスしあって(笑)。それでもピッチは全く刺さらず。当然ですよね。そんな失礼なことをしたんですから。でも帰り道、二人で励まし合いながら、「また(DNXに)行きたいね」と話していました。
倉林:そう思っていただけたから、次のシリーズAにつながったんですね。
宮城さん:DNXが印象的だったのは、絶対馬鹿にしなかったこと。事業もサービスも何もなく、資料を出さない私たちに対しても、耳を傾け、理解しようとしてくださった。倉林さんは「理解できないのは自分が悪いのでは」とでも言うような姿勢で、真剣に考えてくれていました。だからこそ、「もう一度行きたい」と思ったんです。
倉林:もしSaaS事業だったら理解できたと思いますが、フィンテックだったので資料無しは難しかったですね。でも僕も北村も、シリコンバレーで学んだのは、「その会社が成功するかどうかをVCが簡単に見抜けるなら、誰も苦労しない」ということ。だからこそ、自分の理解を疑いながら真剣に向き合うようにしています。
北村:挑戦する起業家がナンバーワンであり、彼らをどうサポートするかがVCの役割。120%の力で理解しようとする姿勢がシリコンバレーの文化なんです。馬鹿にしようものなら、見る目がなかったと後で馬鹿にされますから。
求めたのは、「挑戦し合える」パートナー
倉林:当時のDNXはフィンテック領域ではFOLIOしか投資実績がなく、知見が豊富とは言えませんでした。そのため何度も質問して、何度も教えてもらって、根気強く付き合っていただきました。そんな中で再び来てくださったのが本当に嬉しかった。なぜもう一度DNXを訪ねてくれたのですか?
宮城さん:シリーズAとシリーズBでは、それぞれ違う理由でDNXに入っていただきたいと考えました。2020年6月、ANRIがリードしたシリーズAの頃はプロダクトリリース直前。UPSIDERの事業は順風満帆には進まないだろうと覚悟していたこともあって、私たちは「文化・価値観が合うパートナー」を最重視していました。その点、DNXは裏表がなく誠実であることは、先輩経営者からも話に聞いていました。また、どんな時でも理解しようとしてくれる。だから「ハードシングスを一緒に乗り越えてくれる存在」と感じて、お願いしたんです。
倉林:シリーズAラウンドでは、DNXは少額出資(シード枠の位置付け)だったので、DDの審査項目も少なく、比較的柔軟に投資の意思決定をすることができるという状況でした。
宮城さん:サービスリリース後、2020年末には月次50%成長という急拡大を経験しましたが、「この調子で伸びたら潰れるので、1月〜2月中に資金調達をできるかどうかが勝負」という状況になっていました。既存投資家しか短期間で意思決定できないと考え、DNXに相談したところ、翌週には倉林さんから「このラウンドを引き受けます」 との返答をいただいたんです。まだDDも始まっていない段階での即断に驚きました。同時に、倉林さんから「僕らが建設的なアドバイスをできるか正直わからないけれども、チャレンジさせてほしい」と言われて。
倉林:正直、SaaS以外では僕らが起業家にとって価値のあるアドバイスができるか自信がなかったんです。僕はバリューを出せないのに投資するのが一番嫌いなんですよね。
宮城さん:「せめて誰よりも早くスタンスを示したい」と仰っていたのが、本当に印象的でした。まだDDに必要であろう数値資料も出していないタイミングでした(笑)。DNXリードのシリーズBが決まったとき、「一緒に挑戦できる人たちだ」と確信しました。
僕らが採用やパートナーを選ぶ意思決定時にとりわけ大事にしている、一貫したスタンスなのですが、僕らと一緒に仕事することが、相手にとっても「挑戦」であり、「次のステージに繋がる大きな一歩」である、そういうマインドセットの方と一緒に働くのが好きなんです。合理的なシナジーや知識も重要だとは思いますが、一緒に「挑戦」にコミットできることを大切にしています。
倉林:DNXにとってもチャレンジでした。UPSIDERに貢献すべく、フィンテックに詳しい米国GPの北村が日本の投資先の社外役員になったのも初めてでした。
宮城さん:そうでしたね。僕らとしてもパートナーに迎えるなら「新しいチャレンジ」と思って来てくださる方がいい。だから倉林さんには「DNXにとっても新しい挑戦になるような人選をお願いしたい」とお願いしました。
北村:僕自身にとっても挑戦でした。米国での経験はありましたが、日本の取締役会は文化も頻度も全然違う。毎月の会議には驚きました(米国では四半期毎が一般的)が、その分、学びも多かったですね。僕にとっても、面白いチャレンジでした。
宮城さん:「日本市場は詳しくなくて……」と仰っていたのに、しっかり勉強して貢献してくださった。とてもDNXらしいと思いました。
倉林:投資先に貢献できないことが、どれだけの「恥」か。アメリカでの経験を経て僕らは知っていますから。
北村:まさに。オブザーバーならまだしも、株主を代表する立場にある役員の責任は、比べものにならない重さがあるんです。
宮城さん:北村さんは本当に「組織プレイヤー」ですよね。経営陣の関係性をすごく気にかけてくれたいましたし、今回みずほグループインの相談をした時も最初に「宮城さんの本音は?」と聞いてくれた。事業や市場の話よりも、「あなたは本当はどうしたいのか」と。社外取締役に就いてくださったWiLの伊佐山さんといいバランスのタッグで、とても心強かったです。

変数だらけの経営、最もチャレンジングだったこと
北村:順風満帆ではないだろうと予想しながら船出したUPSIDER。数々のハードな局面を乗り越えてこられましたが、宮城さんにとって一番チャレンジングだったのはどの場面でしたか。
宮城さん:一番を決めるのが難しいほど、常に新しい壁がありました。UPSIDERの事業は、その特性上ユーザーではなく加盟店側や業界構造からレベニューが発生するため、思わぬところでトラブルが起こります。例えば2021年には、あるVISA加盟店がUPSIDERのアカウントを停止し、ユーザーが使えなくなるという事態が発生。売上の30%が一時的に飛ぶような出来事でした。幸い1〜2週間で解決できましたが、事業KPIとは別の要因で会社の生死を左右するリスクが常に潜んでいる。規制やセキュリティ、資金繰りもキャッシュショートの隣り合わせで、複数の難題を同時に「ジャグリング」しながら進める日々でした。経営のマインドシェアを奪う大きな負荷で、本当にハードでしたね。
倉林:確かに、我々が投資している企業の中でも、変数が格段に多い印象があります。
宮城さん:北村さんも「UPSIDERの取締役会は他と毛色が違う」と仰っていましたよね。業績よりも競争環境や規制、セキュリティの話が中心で。
北村:この1年は特にね。
なぜ「ジャグリング」を乗りこなせたのか
倉林:これだけ変数が多い企業の経営は難易度が高く、誰にでもできるものではないと思います。
北村:僕から見ると、宮城・水野ペアは本当に「強い」。まったく異なる強みを持つ2人が組むと、抜群の力を発揮する。宮城さんは特に「調整力」が秀逸です。猛獣のような人材が多い会社を束ねてチームとして機能させている。これは本当にすごいことです。
倉林:もうひとつは、どんな時でも「平常心」でいられること。宮城さんが慌てる姿を見たことがない。常に冷静で、しかも楽しんでしまう。
北村:なぜそんなに冷静でいられるんでしょう?
宮城さん:とてもタフな父の影響かもしれません。脳神経外科医で救急医療にも携わる父の仕事は、心が強くないと絶対にできない。「この世の中、技術と知識だけでは通用しない」と教えてくれました。その強靭な精神を受け継いだのかもしれません。また、経験を重ねるうちに、自分の「動じない性格」が強みだと自覚するようになりました。UPSIDERには自分よりも能力的に長けたタレントが多方面に集まっていますが、自分が経営を続けていられる理由を客観的に考えると、どんな状況でも「動じない性格」が、唯一無二の資質なのだと認識するようになったんです。
みずほグループジョインという決断
倉林:みずほフィナンシャルグループへのグループインの経営判断は、宮城さんのなかでも様々な葛藤があったのではないでしょうか。
宮城さん:確かに大きな決断ではありましたが、判断基準はすごくシンプルでした。創業以来の信念として「常にでっかいことをやりたい」という想いがあること。そして、決済・与信を強みに展開してきたことがUPSIDERのDNAであること。この2つは、今回の意思決定における軸になりました。この軸に照らしてUPSIDERの次のフェーズを考えると、海外の同業を見る中で、いずれは特定の商流や経済圏を持つプレーヤーとのパートナーシップが爆発的な成長の鍵になると感じていました。タイミングが早すぎれば選ばれない、一方で遅ければ競合に見られて終わる。その見極めが重要でした。
そのためシリーズDの際には、将来のパートナー企業が参加できる株価水準を意識して調整しました。資金的余裕を得たことで、焦らず長期的視点で最良のパートナーを選べたのも大きかった。
グループインの具体的な議論が始まったのは最近ですが、「勝負のタイミング」は以前から考えていました。2024年末、「今このタイミングだ」と判断しました。
倉林:既存の大手企業が強い中でどう戦うか、ここでも宮城さんのジャグリングの腕が光りましたね。
北村:海外動向を見ながら、難しい市場環境の中で最適な形を作りましたね。
チームDNXの「厚み」が生んだ成果
倉林:シリーズAから約4年半、ご一緒してきました。その間、さまざまなDNXメンバーが場面ごとに関わらせていただきました。今回のグループインではIBD出身の新田がご支援させていただきましたね。
宮城さん:新田さんがいなかったら、シリーズDもグループインも成立しなかったと思います。DNXは本当に重要な局面で深く入ってくれるんです。新田さんが「このままだとやばい」と感じて関わってくれたおかげで、数々の局面を乗り越えられました。
新田:いえいえ、UPSIDER側の石神さんと逵本さんが本当にしっかりしていたからですよ。

北村:確かに。先鋭メンバーが揃い、それぞれに専門性が高く、議論も非常に建設的でしたよね。
宮城さん:DNXは、チームとしてのキャラクターは幅広く揃っている一方で、投資先を支える層の厚みがある。例えば北村さんのように、経営判断を議論できるレイヤーもあれば、新田さんのように様々なリスクを見越して実際のワークストリームにメンバーとして入り実務をリードできるレイヤーもある。重層的なサポート体制があったからこそ、シリーズDもグループインも実現できた。ほかのVCさんと比べても、関わってくださるメンバーが多く、一緒に決めて、一緒に動いてくれる「タレント」がいる。みなさんの名前を覚えるレベルで関わっていただきましたね。
倉林:僕らには、「急成長する企業にフリーライドしてはいけない」というカルチャーがあります。一人一人の力を持ち寄って、チームワークでなんとかお役に立ちたい。もっと力になるべき部分もあったかもしれませんが、チーム全体での支援をそう感じていただけたのは嬉しいですね。
これから挑戦する起業家へ
倉林:これまでの経験から、起業家の皆さんへのアドバイスをぜひお願いします。
宮城さん:僕が偉そうに言えることはあまりありませんが、DNXからの調達を考えている起業家にお伝えするとしたら、DNXは裏表がなく、飾らない人たちの集まりだということです。政治的な駆け引きもなく、率直で謙虚。だからこそ、自分を大きく見せる必要はなく、弱みをさらけ出して頼りたいという起業家に合うパートナーだと思います。
倉林:自然とそういう人たちを選んでいるかもしれません。大きなことを成し遂げるためという観点で、宮城さん流の心がけやアドバイスはありますか。
北村:宮城さんやUPSIDERチームは、数字や計画に対するコミットメントが圧倒的に強い。言ったことは必ずやりきるし、できなかった時も徹底的に原因を突き詰めて、対策を準備して取締役会にもってくる。これは簡単なことではありません。
宮城さん:そういう時、僕はちょっと口調が激しいモードになりますよね(笑)。
北村:でもその真剣さが伝わってくる。取締役会という形式を超えて、徹底的にやるんだよね。本当に宮城さんのその徹底ぶりはすごいんだから。
宮城さん:一つひとつをやりきることで、すべてが繋がっていくんだと思います。
北村:だからこそ、宮城さんが「新しいことをやる」と言うと、取締役会全体が「やろう」という雰囲気になる。信頼の積み重ねですね。

次の挑戦は、経済拡大に貢献すること
倉林:みずほフィナンシャルグループへのグループインは、まさに大きなことを成し遂げるための新たな未来への第一歩でもあります。この先のビジョンを教えてください。
宮城さん:「経済を大きくしている」と実感ができる事業を作りたいです。言い換えれば、「なくてはならないインフラをつくる」こと。現在UPSIDERは10万社のユーザーさんにご利用いただいていますが、中小企業だけでも全国に200万社以上あると言われている中で、我々がご支援できているのはまだごく一部です。一方、経理や財務の専門家は減少傾向にあり、事業承継の問題のように、問題は加速的に進むと思います。だからこそ今、テクノロジーの出番だと思っています。専門家を雇わなくても事業ができる世界。お金に関するハードルを下げ、新しい挑戦を後押しする世界を作りたいですね。
UPSIDERは「挑戦者を支える金融プラットフォーム」として、数十万社に必ず届けていきたいと思います。必ず、数年以内に。
(文・上野なつみ、井上恵莉子 / 監修・倉林陽、北村充崇)
