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鈴木太郎【ギャグエッセイ】

🐑どぶ色牧場🌱


 
 鈴木太郎。おそらくそういう名前の方が日本には少なからずいるだろう。

 私どぶ色羊は、まだ実際に鈴木太郎さんに出会ったことはない。でも、鈴木太郎さんには日頃から誰よりも強い思いを寄せている。多分本人よりも強い思いを寄せていると思う。
 なぜかというと、この鈴木太郎という名前、色々な意味で絶妙だからである。

 日本人に多い鈴木の名字と、男性名としてトラディショナルな太郎という名前。皆さんはこの鈴木太郎という名前の第一印象をどう感じるだろうか? 

 ある人はこう言うかもしれない、「記入例にありそうな名前」だと。しかし残念ながら、記入例界隈で幅を利かせているのは間違いなく「山田太郎」である。鈴木界は逆に『鈴木一郎』が大勢を占めている。これは多分イチローのせいだ。
 そう、イチローのせいで、鈴木界の太郎は風当たりが強い。山田と言えば太郎、鈴木と言えば一郎。その影に隠れた山田一郎と鈴木太郎は、いそうでいない。どちらかというと伝説上の存在に等しいのである。

 鈴木家の親は、我が家に生まれた可愛い長男の将来を思って、きっと名付けを必死に考えるだろう。そんな時に、鈴木太郎は上記の通り風当たりが強い。だから鈴木家の親は必死に考えるのだ。今はキラキラネームブームが一巡し、古風な名前の人気が復権している時代。例えば流行りの凛という漢字に太郎を足して凛太郎。鈴木凛太郎。これならどうだろうか?

 ……残念ながらダメだ。何で? と思ったそこのあなた、よくよく考えてみてほしい。鈴木凛太郎の中には、キリンが潜んでいる。そう、鈴“キリン”太郎である。

 考えてもみろ、鈴とキリンと太郎なんて、それだけで物語が生まれてしまうではないか。昔々あるところに、太郎くんとキリンがいました。太郎くんはキリンの首に、鈴を付けてあげようと思いました。でもキリンは背が高くて、太郎くんはいつまで経ってもキリンに鈴を付けてあげることができません。太郎くんは仕方なく自分の首に鈴を付け、生涯を上司の犬として過ごしたのでした。めでたしめでたし。
 ほら、めでたいのか、その話は。

 だから鈴木凛太郎は危険だ。何せこうした名前のツッコミポイントというのは残酷なのだ。特に生来の人間の悪意が渦巻く小学校のような環境では、キリンなど一瞬で餌食にされてしまうだろう。仮に鈴木凛太郎の中にキリンが潜んでいることに気付くやつがクラスに一人だったとしても、そういうのはたった一人が言い出すことで、ウイルスのようにクラス中に蔓延していく。例えば誰かがパンツと間違えて弟のオムツを履いて登校してしまった場合、そいつのあだ名は生涯マミーポコパンツ、略してポコパンになってしまうだろう。
 だから鈴木凛太郎がうっかりチェックシャツなんか着てしまった日には、もう鈴木凛太郎はアミメキリンに改名するしかないのである。小学校というディストピアは残酷なのだ。

 だから鈴木太郎は鈴木凛太郎なんて色気を出さず、正々堂々と鈴木太郎として生きていくべきなのである。しかしそうすると、今度はまた別の大きな問題が立ち塞がる。恋愛だ。

 鈴木太郎、小学校で隣の席にいた、ピアノの上手な一ノ瀬綾香さんに恋をする。あああダメだ、これはもうダメだ。鈴木太郎vs一ノ瀬綾香、もうこの時点で失恋確定だ。古今東西、鈴木太郎が一ノ瀬綾香に勝ったことなんて一度もないのである。一ノ瀬綾香は鈴木太郎にはなびかない。これはもう万葉の昔から定められている運命なのだ。よくて小学校時代の仲良い友達の一人にしかなれないのだ。

 そもそも一ノ瀬という名字、これはあまりに強いカードである。一ノ瀬という名字は「結婚したい名字ランキング」不動の5位だ(どぶ色羊調べ)。鈴木が、ましてや鈴木太郎がかなうわけがないのである。

 だから鈴木太郎はこうして今日も、居酒屋でビールを飲みながら友人の和泉悠人にくだを巻いているに違いない。和泉も名字ヒエラルキー上位である。頻出ではないがさほど珍しくはないオールマイティさとオシャレを兼ね備えた和泉に、悠人という最近流行りのトドメネーム。全方位に隙のないフルネームだ。クソッ、和泉め、お前がモテるのはどうせ名前のせいだからな!!
 和泉は「そんなわけないだろ」と笑いながら、そんな鈴木太郎のためにビールを追加してやるのだ。

「お姉さん! ビールひとつお願いします」
「はーいお待たせしました〜」

 胸元の「HANA」のネームプレートを付けたお姉さんが、鈴木太郎にビールを運んでくる。鈴木太郎は言った。

「ねぇお姉さん、お姉さんもコイツがモテるのは名前のせいだと思うでしょう!? だってコイツ、和泉ですよ!? 和泉悠人ですよ!?」
「おい鈴木、やめろよ。お姉さんに絡むなよ。迷惑だろ?」
「俺なんて鈴木太郎ですよ! ねぇ、お姉さんもどうせ鈴木太郎より和泉悠人の方がいいんでしょう!?」

 お姉さん、手元に持っていた使用済みの皿をガシャンと落とした。

 店内から「失礼しましたー」の威勢のいい声が飛ぶ。でもお姉さんは構わず、大きな目を見開いてこう言った。

「お兄さん、鈴木太郎なんですか? 私、田中花子なんです──!」

 ……こうして山田太郎と山田花子の影に隠れて生きてきた鈴木太郎と田中花子は巡り合い、生涯幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。


【🐑023/鈴木太郎】



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