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心の中に高校生がいる全ての人たちへ #創作大賞感想


 心が震える、って何だろう。
 良く使う言葉ではあるけれど、そのとき、何が起きているのだろう。
 ギターのうなりが頭蓋骨を内側からなぞって、臍の両サイドあたりにベースが刻まれて、ドラムの叩き出す振動が背骨を行ったり来たりして、そしてボーカルの投げた球がみぞおちから体腔の中で破裂する感じ。
 STUNNUTSのライブ会場に、私は確かに居た。

 STUNNUTSは、涼雨零音さんの小説「かきならせ、空!」で描かれる高校生バンドの名前である。主人公の御奏空楽みかなでそらは、高校入学と同時にギターを始め、あれよあれよという間に仲間を見つけて、憧れだったバンドを結成するのだ。
 若い人の熱量、すごい。
 そんなことを思いながら読み始めた。

 空楽は、自分と同じかそれ以上のエネルギーを持つ人を見つけるのが上手い。本人は天才になりたいと叫んでいるが、周りに仲間を引き寄せてしまう引力を持っているあたり、既に天才だ。空楽自身は全くの初心者であるにも関わらず、ドラムの家城琴那いえしろことな、ギターの雪野瑠海ゆきのるみ、ベースの戸寺六弦とでらむげん、とメンバーが学内から学外から、集まってくるのである。その周りにテクノをやる水無川雫みながわしずく、DTMの友成空真ともなりくうま
 全員同い年、高校一年生。
 とんとん拍子。
 エネルギーが新たなエネルギーを引き寄せて、渦まきながら育っていく。どちらへ進めばいいのか理解しているかのような集合体。あるべきピースが全てはまっていく。そういうものかもしれない、何かがうまくゆくときには、奇跡が複合するものだ。仲間に恵まれ、理解ある大人に囲まれて、空楽たちは成長を見せる。
 私自身、バンドをやりたいというのは長年の夢である。ほんの少しだけ足を突っ込んだことがある程度で、まだどっぷり浸かってみたことがない。フレーズなり、楽曲なりがぽんと放り込まれたとき、メンバーが個々でアレンジを始めて、そのバンドなりの一曲を作り上げる、そういう経験をしてみたいという思いが、まだ、ある。
 それは空楽が作詞作曲したオリジナル曲で、STUNNUTSがやろうとしていること。


 初めての夏祭りのステージは、傍目からすれば成功、と言えるレベルのものだったと思う。しかし、空楽は気づいてしまったのだ。

楽器がうまいというのはどういう状態なのだろうか。バンドとしてうまいというのは、どういう状態なのだろうか。

第八話


 その直後、ライブハウスの店長からも、こう突きつけられる。
 でも、こんなこと並みの相手には言わない。これを受け取る力量があるか、と暗に試されているのだろう。

詞も曲も君が書いてて、君が歌ってるわけでしょ。今のまま行くとデビューするにしても君のソロでいいんじゃないって話になると思う
(中略)
デビューを目指すっていう意味で言えば楽器がうまいことはなんのプラスにもならないってことは知っといた方がいいかもね。君のバンドは今のところうまいだけなんだよな

第八話

 
 メンバーも気づいている。ギターの瑠海のセリフ。

他の出演者があたしたちより良かった。でもなにが良かったんだろう。(中略)彼らのなにが良くて、あたしらのなにがダメなのかがよくわからないんだよ

第九話

 
 メンバーは、ずっと見守ってくれている大人にぶつかりにいく。忌憚のない意見を聞かせてほしい、と。

四人ともわかってるみたいだね。僕は、褒めてない。君たちはプロみたいにうまかった。これは、褒め言葉じゃない

第九話

 そしてここでも、空楽がソロデビューすれば、他のメンバーは切られる、と告げられるのだ。空楽は天才になりたいと言ってきたけれど、そうじゃなくていい、みんなとバンドしたいよ、と涙がこぼれる。

 
 瑠海再び。

あたしはうまくなりたいと思ってやってきたけどさ。うまいだけでいいとは思ってない。なのにただ卒なくうまいだけになってた。いつの間にか自分がどうなりたいのかもわからなくなってたと思う

第九話

 
 STUNNUTS、恐るべし高校生たちよ。その年齢で、そんなことわかるのかよ。
 いや、そういうものかもしれない。
 合宿して、猛練習して。そこには努力とか根性とかいう言葉は相応しくない。才能ってそういうことだ。やりたいことがあって、そのために時間と労力をかけることが当たり前のようにできること。
 覚醒したSTUNNETSの直近の目標は、ライブハウスのイベントへの出演。全国規模のつながりがあり、デビューのチャンスがあるという。

 目前、ベースの六弦のセリフ。うまい、の向こう側へ行こうとしている。

 おれたちたぶんみんな、賞を取りに行くんじゃなくて、自分たちの音をやることに意識が向いてると思う。それがどっかの偉い人に響けば賞がもらえるだろうけど、そんなもんは副産物みたいなもんなんだよな。まずはおれたちの音を響かせないとなにも始まらない

第十一話

 
 最終の第十二話でこのライブの模様が描写されるのだけれど、私はそれを、いつものように通勤の電車の中で読んでいたのだった。
 しまった。
 涙が止まらないぞ。
 嗚咽しないように堪える。音楽の力、すごい、って違うぞ、小説の力、すごい、いや、今、私はどっちにいるのだろう?

 空楽は、ずっと天才になりたい、と言いながらも、メンバーの中で自分が一番レベルが低いと思っていたフシがある。それが一皮も、二皮も剥けて、自分が見えてくる。それはメンバーとの切磋琢磨によって生まれた、互いの才能と姿勢に対する信頼関係の中から生じた自信。
 そして自分の夢を見つけるのだ。

「わたし、一日でも長く、みんなとバンドしたい。それがわたしの夢。ずっと、なるべく長く、このメンバーでバンドをやり続ける」
 空楽は深呼吸をした。
「そのために一番いい方法は、このバンドでデビューすることだと思う。だから目指す。わたしはこのバンドで、オマエラとてっぺんを目指すぞ」

第十二話

 デビューするのが夢、ではない。それは、あくまでも手段にすぎない。
 それがわかってるのかよ、その年齢で、オマエラ、すげえな、行けるぞ。

 文中には空楽の作った曲の歌詞があって、これがまたたまらなくいい。作者である涼雨さんの頭の中には、メロディがあるだろうと私は推測している。涼雨さんのstand fmをお聴きになった方はご存知のように、大変なイケボである。また、歌も非常にお上手なのである。いつか、この曲を聴かせていただきたいものだ。

 心が震えるとは、感情移入すること、と見つけたり。
 還暦目前の私の中に、まだ高校生が住んでいて、そいつがキューティクルきらきらの髪の毛を振りながら、オマエもこっちに来いよ、と言うのである。
 挑発上等。
 おう、行ってやるよ、と私はジャンプとか、してみるのである。
 音楽も、小説も、一日でも長くやりたいからね。

 この物語は、心の中に高校生がいる全ての人たち、創作者たちへ向けた、壮大なエールである。
 オマエラ、てっぺん目指すぞ。