住宅ローン変動金利「5年ルール」の罠:返済額は変わっていないのに、借金が減っていない
はじめに
変動金利で住宅ローンを組んでいる人に聞いてほしい。
毎月の返済額は変わっていない。でも、残っている借金はなかなか減っていない。
そんな状況が、気づかないうちに進行しているかもしれない。
日銀は2024年以降、段階的に利上げを続けている。2025年12月には政策金利が0.75%に到達し、主要銀行の変動金利の適用金利は2026年4月時点で0.9〜1.3%台に上昇した。数年前に「0.5%以下で借りた」という人にとって、金利はすでに2倍以上になっている。
それなのに毎月の返済額は変わっていない。
これは「5年ルール」の効果だ。
しかしこの「返済額が変わらない安心感」の裏側に、重大なリスクが隠れている。
5年ルールと125%ルールの仕組み
まず制度を整理する。
変動金利住宅ローン(元利均等返済)には、2つのルールがセットで存在する銀行が多い。
1つ目が「5年ルール」だ。
毎月の返済額は、借入から最初の5年間は変わらない。
6年目の最初の返済日から見直しが行われ、その後も5年ごとに見直される。金利自体は半年ごとに見直されるが、口座から引き落とされる金額は5年間据え置きになる。
2つ目が「125%ルール」だ。
5年ごとの見直し時に、新しい返済額は「それまでの返済額の125%を超えてはならない」というルールだ。
例えば、毎月10万円返済していた人が5年後に見直されるとき、金利が大幅に上がっていて本来は毎月15万円必要な状況になっていたとしても、125%ルールにより上限は12.5万円に抑えられる。
この2つのルールは「急激な返済額の増加から借り手を守る」ための仕組みだ。しかし、この仕組みが「借金が減らない」という問題を生み出す。
なお、5年ルール・125%ルールは法律で定められたものではなく、銀行ごとに異なる。
SBI新生銀行やソニー銀行などのネット銀行の一部では、このルールが存在せず、金利変動が返済額に即反映される設計になっている。自分が借りている銀行のルールを確認してほしい。
「返済額は変わらないのに借金が減らない」が起きる理由
毎月の返済額は「利息部分」と「元金返済部分」で構成されている。
金利が低いとき:利息が少ない → 元金返済分が多い → 残高が順調に減る。
金利が上がると:利息が増える → 元金返済分が減る → 残高の減りが鈍くなる。
返済額が据え置きのまま金利だけが上がれば、返済額の中で「元金に充当される部分」がどんどん小さくなる。極端な場合、返済額の全額が利息の支払いに消え、元金がまったく減らない状況になる。
さらに深刻なのは、金利が一定水準を超えると「未払利息」が発生することだ。月次の利息計算額が返済額を上回った場合、差額分は「未払利息」として繰り延べられる。毎月きちんと返済しているにもかかわらず、帳簿上では借金が増えていく状態になりうる。
具体的なシミュレーションで確認する
借入額4,000万円・35年・当初金利0.5%(元利均等返済)のケースで試算する。
当初の月次返済額は約103,800円だ。
内訳(初月):
利息:約16,700円
元金返済:約87,100円
元金が毎月約8.7万円減っていく。順調に見える。
5年後に金利が2%に上昇したケース
5年後の正確な残高は約3,471万円だ(60回分の元金返済の積み上げ)。金利2%・残期間30年で「本来必要な返済額」を計算すると月約128,300円になる。
125%上限(103,800円×1.25=約129,800円)を下回るため、このケースでは125%ルールは発動しない。実際の返済額は約128,300円に増える。
この128,300円の内訳:
利息:3,471万円×(2%÷12)≒ 57,850円
元金返済:128,300 - 57,850 = 約70,450円
元金充当が当初の87,100円から70,450円に減った。約19%の減少だ。返済額は増えているが、元金の減るペースは落ちている。
5年後に金利が3%に上昇したケース
同じ条件で金利3%の場合、本来必要な返済額は月約146,300円になる。
125%上限(129,800円)を超えるため、ここで初めて125%ルールが発動する。実際の返済額は上限の129,800円に抑えられる。
この129,800円の内訳:
利息:3,471万円×(3%÷12)≒ 86,775円
元金返済:129,800 - 86,775 = 約43,025円
元金充当が当初の87,100円から43,025円へ、約51%減少した。「毎月約4万円しか元金が減らない」状態だ。
返済額は増えているのに、元金の減りは半分以下になる。これが「返済しているのに借金が減らない」の正体だ。なお、月次利息(86,775円)は返済額(129,800円)を下回っているため、この段階では未払利息は発生していない。
未払利息が発生するのは金利4.5%を超えた時
未払利息は「月次の利息計算額が返済額を上回った」時に初めて発生する。
3%では元金充当がまだプラスなので未払利息は発生しない。未払利息が発生し始める分岐点は以下の式で計算できる。
月次返済額 ÷ 残高 × 12 × 100 = 分岐点
129,800 ÷ 34,710,000 × 12 × 100 ≒ 4.49%
適用金利が約4.5%を超えると、返済額の全額が利息に充当され、元金はゼロになる。それ以上に金利が上がれば、毎月の利息が返済額を上回り、未払利息として繰り延べられる。毎月きちんと振り込んでいるのに、残債が減らない、場合によっては増えていく状態だ。

未払利息が積み上がると、最後に何が起きるか
未払利息は「元金が増える」わけではなく、別建てで積み上がる。しかしこれが最終的に重大な問題になる。
5年後の次の返済額見直しタイミングで未払利息の清算が試みられるが、それでも解消できない場合は最終返済日(35年目の最終回)に元金残高と未払利息の合計を一括で払う必要が生じる。
「毎月ちゃんと払い続けたのに、35年後に突然数百万円を一括請求される」というシナリオだ。
これは現在の金利水準(1%前後)では発生しにくい。ただし、政策金利が4%を超えるシナリオは現時点では想定しにくいとしても、「自分の分岐点がどこにあるか」を知らないまま変動金利を使い続けることのリスクは認識しておくべきだ。
自分のローンの「分岐点」を計算する
未払利息が発生し始める金利を、自分のローンで計算できる。
計算式:毎月の返済額 ÷ 現在の残高 × 12 × 100 = 未払利息発生金利(%)
例として残高2,800万円・返済額10万円の場合:
100,000 ÷ 28,000,000 × 12 × 100 ≒ 4.29%
この場合、適用金利が4.29%を超えると未払利息が発生し始める。
現在の政策金利は0.75%(2025年12月時点)であり、今すぐ4%に届くわけではない。ただし「自分の分岐点がどこにあるか」を把握しているだけで、将来の金利動向に対する判断が変わる。
やることは1つだ。直近の残高確認書(年1回届く)の「残高」と、毎月の「引落金額」を使って上の計算をしてみてほしい。5分でできる。
対策:今すぐできること
繰り上げ返済で「元金を減らす」
残高が減れば、同じ返済額でも元金充当の比率が上がる。同時に、未払利息の分岐点も上昇する(残高が少ないほど同じ返済額でカバーできる金利が高くなる)。
金利が上昇局面にある今、手元に余剰資金があれば繰り上げ返済を検討する価値がある。特に「期間短縮型」は総利息の圧縮効果が大きい。
固定金利への借り換えは慎重に
2026年5月時点で、固定金利は変動金利より相当高い水準にある。金利が今後どこまで上昇するかの予測は難しく、単純に「固定にすれば安心」とは言えない。
ただし、借り換えを検討するタイミングの目安として、変動金利の適用金利が1.5〜2%を超えてきた段階で固定との差が縮まり、借り換えの試算が有効になる。金利が上がった後に動こうとすると、固定金利もすでに上昇していることが多い。早めの検討が有効だ。
5年ルールの「切替タイミング」を把握する
次の返済額見直し時期を把握することも重要だ。見直し直前に金利が急上昇していた場合、翌月から返済額が125%に跳ね上がる。家計への影響を事前にシミュレーションしておくことで、慌てずに対処できる。
借入時の書類か、銀行のマイページで「次回返済額見直し時期」を確認してほしい。
まとめ
5年ルールと125%ルールは、急激な返済負担の増加を防ぐための仕組みだ。しかし金利上昇局面では、「返済額は変わらないのに借金が減らない」という構造的な問題を生む。
整理すると3点だ。
1点目:金利が上がると返済額の中の「元金充当分」が減り、ローンの残り方が遅くなる。
2点目:金利が約4.5%を超えると「未払利息」が発生し、毎月払い続けているにもかかわらず借金が増えていく状態になりえる。最終回に一括請求されるリスクもある。現在の金利水準では発生しにくいが、自分の分岐点を知っておくことが重要だ。
3点目:自分の分岐点(返済額 ÷ 残高 × 12 × 100)を計算しておくだけで、将来の金利上昇シナリオに対して備えられる。
今日からできること:残高確認書を引っ張り出して、上の計算式に数字を当てはめてみる。自分のローンの「未払利息が発生する金利」を一度確認しておいてほしい。
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参考
全国銀行協会「変動金利型住宅ローンの未払利息とは?」https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-d/7824/
SBI新生銀行「変動金利の5年ルールと125%ルールとは?」https://www.sbishinseibank.co.jp/retail/housing/column/vol72.html
モゲチェック「住宅ローン変動金利の5年ルール・125%ルールとは?」https://mogecheck.jp/articles/show/JOeXZGMA4VGbENzBpmdP
リクルート「変動金利型住宅ローンはどのくらい上がると未払い利息が発生する?」https://finance.recruit.co.jp/article/n107/
三菱UFJ銀行「5年ルール・125%ルールについて」https://faq01.bk.mufg.jp/faq/show/5787?site_domain=default
Business Insider Japan「主要銀行の住宅ローン、2026年4月の金利」https://www.businessinsider.jp/article/2604-major-bank-mortgage-rates-what-happened-in-april-2026/
野村証券「日銀の追加利上げ予想」https://www.nomura.co.jp/wealthstyle/article/0571/
多摩信用金庫「変動金利型住宅ローンの返済額見直しのルール」https://www.tamashin.jp/personal/loan/shiawase_accrued_interest.html
タグ:#住宅ローン #変動金利 #5年ルール #125 %ルール #未払利息 #金利上昇 #日銀利上げ #マネーリテラシー #マネーラボ #資産形成
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