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『図書館ピエロ』

町の図書館に新しい司書がやってきました。
名前は、ポン・ポロ・ピエール。
赤い鼻に、もじゃもじゃの青い髪。
しましま模様のつぎはぎスーツに、
ぴかぴかの大きな黄色い靴。
歩くたびに「パカッ、ポコッ」とにぎやかな音がします。

「おや……あれはサーカスの人じゃないのかい?」
最初は町の人たちも、図書館の利用者も、
ざわざわしました。
でも、ピエールさんはいたってまじめ。
毎朝きっかり9時に出勤し、
館内をピカピカに掃除します。
こまめに返却本を棚に戻しては、
本棚の整理を欠かしません。

そして、子どもへの読み聞かせだってやっちゃいます。
ただ、ピエールさんの読み聞かせは、
ちょっと変わっているのです。

ピエールさんは、
パントマイムで本を読みます。
言葉は一切なし。
手ぶりと表情だけで、まるで本の中の世界がその場にあらわれたみたい。
それだけではありません。
バルーンアートでも本の世界を表現するのです。


『はらぺこあおむし』のときは、
「もぐもぐ、ぱくっ、ぐるぐる……うっぷ!」
ピエールさんは、
食べすぎたあおむしを全力で演じました。
風船でできたソーセージやカップケーキが、
次々に舞台に飛び出してきます。
最後は大きく羽ばたくチョウチョに変身して、
紙ふぶきが舞いました。

『三びきのやぎのがらがらどん』のときは、
ピエールさんは、
足音のトーンを変えて、
3びきのやぎを見事に演じ分け。
風船でできたつり橋を、
がらがらと渡っていきます。
トロルが出てくると、
子どもたちは「にげてー!」と大合唱。
でも最後は……風船がパンッ!と割れて
トロル大爆発!

ピエールさんの読み聞かせはいつだって大人気です!!


けれど――騒ぎすぎたある日、
真面目そうな顔をしたおばさんに
注意されてしまいました。

「ピエールさん!
図書館は静かに本を読む場所です!」

「しずかにしてますよぉ〜」
とピエールさんは、
声を出さずに口パクで返事。
すごくうるさい顔でした。

「声を出していないのは認めます。
でもピエールさん、
ここはサーカスではないんですよ!!」

それでもピエールさんは、
けろりとしています。
帽子からハトを出して、
庭に飛ばしてみたり、
「しずかに!」の看板をシールを貼って
「たのしく!」に書きかえたり。

——そんなある日、
ついに子どもたちの親からも
クレームが入りました。

「うちの子が読書感想文に
“バルーンアートがたのしかったです”
って書いたんですよ!
本の感想じゃありませんよね?」
「読書って、静かに、
まじめにするものでしょう!」

しょんぼりしたピエールさんは、
目の下に涙を書き足して、
帽子をぺしゃんとしぼませて、
図書館を出ていってしまいました。

ピエールさんが出ていったあとの図書館は、
しん……と静まり返っていました。
あまりに静かで、ページをめくる乾いた音が
館内に寂しく響きます。

そんな中で、子どもたちは
ざわざわ、うずうず。

「ねえ、読書って、騒がしくってもいいじゃん!」
「ピエールさんのマネして、
本読むのすっごく好きになったよ」
「風船のあおむし、
うちにもほしいんだよ〜!」

そして、ひとりの女の子が言いました。
「じゃあさ、図書館でサーカスやろうよ!」


その日から、子どもたちは大さわぎ。
太鼓を持ってくる子、
くるくるリボンを持ってくる子、
ピエールさんの顔まねを研究する子。

最初は大人たちも驚いていましたが、
子どもたちのまっすぐな姿に、
次第にだれも口を出さなくなっていきました。

そしてある土曜日、
とうとう「図書館サーカス」が始まりました。

子どもたちが主催した
読み聞かせのステージでは、
本にあわせて照明が赤くなったり、
青くなったり。
紙芝居しりとり、
声マネ読み大会、
登場人物なりきりパレード、
——みんなで大笑い!!

そして——
図書館の入り口から、
「パカッ、ポコッ」という足音が聞こえてきました。

子どもたちは一斉に顔を上げます。

くるくるの青い髪、
つぎはぎスーツ、
ぴかぴかの黄色い靴。

赤い鼻をつけたその人が、
くるりとまわって、
ぺこりとおじぎ。

帽子からは、ひらひらと紙ふぶき。

しばらく見ないうちに、
赤い鼻がちょっぴり大きくなっています。

「ピエールさんだ!!」
子どもたちは大歓声をあげて、
わあっと取り囲みました。

「サーカス、いまからなんだよ!」

「今日の読み聞かせは、声マネ大会なんだ!」

「あおむしの風船、うちにもつくってー!」

ピエールさんは、くるっと回って、
風船をひとつふくらませました。


その日から図書館には、
ふたたび音が戻ってきました。

笑い声や拍手の音に
本のページをめくる音が
やさしく重なっています。

だけど、この図書館では
もうだれも「うるさい」とは言いません。

そして今日も図書館では、
パカパカと大きな靴の音。
本棚のすきまから、
くすくす笑いが聞こえているのでした。


おしまい


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