「2000字で書けと言われた気がしたので」
「2000字で創作するなら」的なポストがXで次々と流れてくるのを見て、なんだか自分にも書けと煽られているような気になってしまった。即興で2000字前後の小説を書こうとした。しかし常に何かしらの素材を元にして書いているものだから、いつの間にか即興でさらさらと書く、ということができなくなっていた。特に最近は「500-1000」というシリーズを自分で発明して、それにどっぷりはまってしまっているのだ。事実を元にした、スナップショット的な短い500字前後のエッセイを書き、それを素材にして1000文字前後の小説にする、というやり方である。エッセイはオチや教訓や共感などを盛り込まず、「こんなことがあった」「こんなことを思った」程度に抑える。小説はエッセイをアレンジしたり、あるいは真逆の観点から書いたりする。これを毎日やっているので、素材には困らない。
というわけで今回の2000字小説は、500-1000で書いた「イートイン・ビトゥイーン・デイズ」を下敷きにした物で臨むことにした。全くのゼロから書くわけではないので即興とはいえないかもしれないが、経緯を事細かに書かなければバレないだろう。職場の近くのスーパーにあるイートインコーナーで昼食をとる人々の群像劇である。試しに一話書いた中では、常連客と一切言葉を交わさず、ハードボイルドに菓子パンを食べる男と、スーパーを襲う武装集団の話だった。次は忍者がこっそりとそこそこ贅沢な昼食を食べる話にするつもりだ。
「パパ、セミ捕りに行くで」そう、セミ捕りに行く話だ。違う。
小説執筆は息子からの遊びの誘いにより中断した。こういうことはよくある。買ったばかりの虫捕り網(ドンキで438円)と虫かご(ダイソーで110円)を持って近所の公園に行く。暑い。なぜ真昼時なんだ。37℃だぞ。遊んでる人たち皆無だぞ。「クマゼミおった!」しかし逃げられた。このくそ暑い中、公園のベンチで我々の虫探しを見つめる老人がいた。なんだか老師と呼べるような風格の持ち主だった。息子がクマゼミを捕り逃したのを見て「まだまだだな小僧」とでも言いたげだった。
10匹ほどセミは見つけたが、捕らえることができたのは3匹だけだった。どれもクマゼミだ。アブラゼミはクマゼミよりも警戒心が強いらしく、網を近づけると逃げられた。こちらが視認する前に、木の裏側から飛び立つやつもいた。よく小便をまき散らしていた。それに比べてクマゼミはどっしりと構えていて、捕まってからようやく暴れるのだった。
「何もかもが手遅れな状態になってから暴れ始めても遅いのだ」と私は構想中の「イートイン・ビトゥイーン・デイズ」第二話の中で忍者に語らせた。
息子の手の届かないところにとまっていたアブラゼミを私は狙い、失敗した後、老人の近くのベンチに座ってお茶を飲んだ。すると老人が呟いているのが聞こえた。
「気配を絶て。呼吸をするな。心音を消せ」
アブラゼミを捕る極意を教えてくれていたのだ。熱中症にならないうちに私たちは家に帰った。少し休憩した後、私は近所の泌尿器科兼ロボ科の医院に駆け込んだ。
「全身を機械にしてください」と馴染みの医師に頼み込んだ。以前結石でお世話になったのだ。なぜ、何のために、といったことを医師は一切口にしなかった。私たちに余計な言葉は必要なかった。
小一時間で全身機械化手術は終わった。
「結石は人工腎臓に移しておいた」と医師は言った。余計なお世話はいらなかった。
帰宅すると、暑さでバテたのか息子が昼寝していた。その間にタイピング速度もアップしているか試してみた。一秒で2000文字打てたが、キーボードが燃え上がった。だから2000文字企画の小説も消えてしまった。忍者もどろんした。「イートイン・ビトゥイーン・デイズ」第二話はなかったことにして、第三話の、中世のパンクロッカーの話を、キーボードを壊さないように慎重に打ち込もうとした。息子が起きた。「もう一回セミ捕り行くで!」はいそうですか。
老人はまだ同じ場所にいた。大丈夫なのか。多分大丈夫じゃない。最初から大丈夫じゃなかったんだろう。私は心音調節機能をコントロールして、ミュートにした。これならアブラゼミにも気配を悟られることはない。私は全身を機械化したことで、自分が何者か、何者であるべきか、といったことを考えるようになった。私は父親であり、創作者であり、セミを捕らえるものでもあった。自分が何者か、なんて生身の頃には考えたこともなかった。
「あなたのおかげです、老師」と私は老人に感謝の言葉を述べた。
「米びつには唐辛子を入れよ」と老師は言った。
「パパ、アブラゼミ捕まえたで!」
心音をミュートにすることもなく、足音を消すこともない息子が捕らえたアブラゼミは、網の中でギャーギャー鳴いていた。
「コウモリを生で食べてはいけない」と老師は言った。
(了)1996文字
なんか
時々
目に入って
これ
書かなきゃ
的な感じに
なったので
いろいろ書いてますが
執筆時間は一時間くらいなので
即興ってことで
いいんじゃないかな
似たような雰囲気のお話はこちら。
#今2000字で書けって言われたらどこからの発想で書き始めますか
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