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ミリアの日々 また、来年ね。― 8月16日、送り火の夜 ―



夏の終わりを告げる火

夕方。

昨日までの暑さが、ほんの少しだけ柔らかくなったような気がした。

ミリアと陽菜は、並んで歩いていた。

「今日で、お盆も終わりなんだね」

陽菜が言った。

「うん」

8月16日。

京都では、この夜に五山送り火が行われる。

お盆に帰ってきたとされる先祖の霊を、再び送り出すための火。

「帰ってきた人たちを、また送り出す日なんだって」

ミリアが言った。

陽菜は少し黙った。

昨日は8月15日。

戦争で亡くなった人たちを思い、平和について考えた。

そして今日は、その翌日。

帰ってきた人たちを、静かに見送る日。


「また、来年ね」

夜。

空がゆっくりと暗くなっていく。

街の明かりの向こうに、山の輪郭が浮かんでいる。

やがて――。

遠くの山に、大きな「大」の文字が浮かび上がった。

「……きれい」

陽菜が呟いた。

炎が夜の中で静かに揺れている。

花火のような大きな音はない。

ただ、山の上に火が灯っている。

それだけなのに、二人は自然と黙っていた。

火を見つめていると、不思議な気持ちになる。

華やかなものではない。

むしろ静かで、少し寂しい。

けれど、その寂しさの中に、温かさもあった。


思い出は、消えない

お盆には、先祖が帰ってくるという習わしがある。

そして、送り火によって再び送り出す。

「帰ってきてくれて、ありがとう」

「また来年ね」

そんな気持ちを込めて。

陽菜が小さな声で言った。

「なんだか、寂しいね」

「うん」

「でも……」

陽菜は炎を見つめた。

「また来年、帰ってきてくれるんだよね」

ミリアは少し考えてから、

「きっとね」

と答えた。

人は、いつかいなくなる。

それは誰にも避けられない。

けれど、その人と過ごした時間まで消えてしまうわけではない。

一緒に見た景色。

交わした言葉。

好きだったもの。

笑っていた顔。

そういうものは、残された人の中に残っていく。

もしかすると、思い出すということも、送り火のようなものなのかもしれない。

忘れないために、心の中に小さな灯りをともす。

そして、その灯りを次の世代へ渡していく。


「私たちも、また来年」

しばらく炎を見つめていた陽菜が、突然言った。

「ねえ、ミリア」

「なに?」

「私たちも、また来年ここに来ようよ」

ミリアは笑った。

「また来年?」

「うん」

昨日も、同じようなことを言った。

8月15日。

「また、来年もここにいよう」

そう約束した。

そして今日。

「また来年、送り火を見よう」

小さな約束が、二つになった。

「じゃあ、約束ね」

「うん」

二人は笑った。


消えるからこそ、残るもの

送り火は、いつまでも燃えているわけではない。

やがて炎は小さくなり、消えていく。

でも、消えたからといって、そこに何も残らないわけではない。

見た人の記憶に残る。

胸の中に残る。

そして、また一年後に思い出される。

ミリアは夜空を見上げた。

「火って、不思議だね」

「どうして?」

「消えても、見た人の中には残るから」

陽菜は少し考えた。

「じゃあ、思い出も同じだね」

ミリアは微笑んだ。

「うん。きっとそうだね」

山の上の炎は、少しずつ小さくなっていった。


また、来年ね。

8月16日。

お盆の終わりを告げる送り火。

帰ってきた人たちを送り出す、夏の夜。

別れは、少し寂しい。

けれど、別れがあるからこそ、一緒に過ごした時間を大切にできるのかもしれない。

火は消える。

夏も、少しずつ終わっていく。

人も、いつかいなくなる。

それでも、思い出は残る。

だから私たちは、今日も誰かと笑う。

一緒に歩く。

言葉を交わす。

そして別れ際には、

「またね」

と言う。

それは単なる挨拶ではなく、

「あなたとの時間を、これからも大切にしたい」

という、小さな約束なのかもしれない。

送り火が消えたあとも、夜空はそこにある。

そして明日も、また朝が来る。

陽菜が言った。

「じゃあ、また来年ね」

ミリアも笑った。

「うん。また来年」

夏の夜に、二人の声が静かに溶けていった。

また、来年ね。

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