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ミリアの日々山の上で、空を見上げた。― 8月11日「山の日」―



「山の日だから、山に行こう」

「ねえ、ミリア」

朝から陽菜が、妙に嬉しそうだった。

「今日は山の日だよ」

「うん、知ってるけど?」

「だから、山に行こう!」

あまりにも単純な提案だった。

ミリアはスマートフォンを見る。

外は快晴。

気温も高そうだ。

「……暑いよ?」

「夏だからね」

「山も暑いよ?」

「でも、山の日だよ?」

「それ、理由になってる?」

陽菜は笑った。

結局、ミリアも折れた。

「じゃあ、近くの山に行ってみようか」

「やった!」

こうして二人の、夏の小さな山歩きが始まった。


登る前は、元気だった

最初は順調だった。

木々の間を歩く。

蝉の声が聞こえる。

時々、木漏れ日が足元に落ちている。

「なんか気持ちいいね」

ミリアが言う。

「うん!」

陽菜も元気いっぱいだった。

ところが、坂道が少し急になってくる。

五分。

十分。

さらに歩く。

「……ミリア」

「なに?」

「山の日ってさ」

「うん」

「山に登らなきゃいけない日なの?」

ミリアは思わず笑った。

「さっき自分で言ったじゃない」

「こんなに大変だとは思わなかった……」

「まだ半分も来てないよ」

「えっ」

陽菜が立ち止まった。

「帰ろうかな」

「もう少し頑張ろう」

ミリアは笑いながら手を差し出した。

「ほら」

「……ありがとう」

二人は再び歩き始めた。


木々の向こうに見えたもの

しばらく登ると、少し開けた場所に出た。

二人は立ち止まった。

木々の向こうに、街が見える。

普段暮らしている街。

駅も、道路も、建物も見える。

いつもなら人の目線から見ている景色が、今日はずっと下にあった。

「……すごい」

陽菜が小さく呟いた。

ミリアも黙って眺める。

「いつもの街なのに」

「うん」

「全然違って見えるね」

遠くに建物が並んでいる。

その向こうには、青い空。

さらに遠くには、山々が重なっている。

さっきまで「暑い」「疲れた」と言っていた陽菜も、いつの間にか静かになっていた。


山に登る理由

山の日は、山に登らなければならない日ではない。

山に親しみ、その恩恵に感謝する日。

そう考えると、山頂まで行かなくてもいいのかもしれない。

木陰の涼しさ。

鳥の声。

土の匂い。

風に揺れる葉。

普段の街では気づかないものが、山にはたくさんある。

陽菜が言った。

「ねえ、ミリア」

「なに?」

「山って、街から離れる場所だと思ってた」

「うん」

「でも、ここから見ると、街がよく見えるね」

ミリアは頷いた。

「そうだね」

離れてみるからこそ、見えるものがある。

それは山だけではないのかもしれない。


少し離れてみる

毎日の生活の中では、目の前のことに追われてしまう。

仕事。

予定。

人間関係。

やらなければならないこと。

近くばかり見ていると、それが世界の全部のように思えてしまう。

でも、ほんの少し離れてみる。

いつもの場所を離れる。

いつもの道を変える。

少し高いところから眺めてみる。

すると、

「自分が思っていたより、世界は広かったんだ」

と気づくことがある。

ミリアはそんなことを考えながら、空を見上げた。

雲がゆっくり流れている。


「来てよかったね」

山を下りる頃には、陽菜はすっかり疲れていた。

「もう歩けない……」

「帰りは下りだから大丈夫」

「それでも疲れた……」

「でも、来てよかった?」

陽菜は少しだけ考えた。

そして笑う。

「うん」

「よかった」

「ミリアは?」

「私も」

汗をかいて。

疲れて。

何度も休憩して。

それでも、来てよかった。

いつもの街を、いつもとは違う場所から見ることができた。

それだけでも、今日は十分だった。


山の上で、空を見上げた。

帰り道。

二人は何度も空を見上げた。

夏の青空。

白い雲。

木々の隙間から差し込む光。

まだまだ暑い。

まだまだ夏は終わらない。

でも、立秋を過ぎた空には、ほんの少しだけ次の季節の気配もある。

「ねえ、陽菜」

「なに?」

「また来ようか」

「今度はもっと涼しい日にね」

「それは賛成」

二人は笑った。

山に登ることが目的だった。

でも、本当に見つけたかったものは、山頂そのものではなかったのかもしれない。

いつもの場所から少し離れて、いつもの世界を違う角度から眺めること。

それだけで、見慣れた景色が新しくなる。

人生も、時々そうなのだろう。

疲れたときは、少し立ち止まってもいい。

うまくいかないときは、少し離れて眺めてもいい。

そして、また歩き出せばいい。

8月11日。

山の日。

ミリアと陽菜は、山の上で空を見上げた。

広い空の下では、自分たちの悩みが少しだけ小さく見えた。

そして二人は、いつもの街へ帰っていく。

今日とは少し違う景色を、心に残しながら。

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