ミリアの日々・特別編 一日だけ、モデルになってください。― ミリアと陽菜の夏休みグラビア撮影

xでやってる日々の投稿ネタの番外編。水着ネタがやりたかっただけです。
「ミリアさん、モデルをやってみませんか?」
その言葉を聞いたとき、ミリアは思わず聞き返した。
「……私が?」
普段のミリアは、カメラの前に立つ人間ではない。
イラストレーターとして、机に向かい、紙の上に線を引く。誰かの表情を想像し、光の当たり方を考え、髪の一本一本を描いていく。
見る側ではなく、描く側。
だから、突然「モデル」という言葉を向けられても、すぐには自分のことだと思えなかった。
「夏のビーチリゾートをテーマにした水着写真集の企画なんです。自然な表情を撮りたいと思っていて……ミリアさんなら、きっと素敵な写真になると思います」
「写真集……ですか?」
渡された企画書には、青い海と白い砂浜の写真が載っていた。
そこには、夏の日差しの中で笑う女性たちの姿がある。
ミリアはしばらく黙って、その写真を見つめた。
絵を描くことは好きだ。
けれど、自分がその「絵の中」に入ることは、少し怖い。
「……私、写真を撮られるのは、あまり慣れていなくて」
そう答えた、そのときだった。
「えっ! ミリアがモデル!?」
隣で話を聞いていた陽菜の声が響いた。
「ちょっと、陽菜……」
「すごいじゃん! 絶対やったほうがいいよ!」
「でも……」
「じゃあ私も行く!」
「……陽菜は関係ないでしょ」
「友達が初めての仕事をするんだよ? 一人で行かせられないじゃん」
「仕事じゃなくて、撮影の手伝いだから」
「じゃあ、私も手伝う!」
あまりにも迷いのない陽菜の言葉に、ミリアは思わず笑ってしまった。
その笑顔を見ていた担当者が、ふっと表情を明るくする。
「……陽菜さんも、一緒に撮影してみませんか?」
「え?」
今度は陽菜が驚く番だった。
「二人の自然な関係性そのものを撮影するんです。ポーズを決めた写真だけではなくて、友達同士で過ごす夏休みのような……そんな写真集にしたいんです」
陽菜はミリアを見る。
ミリアも陽菜を見る。
数秒の沈黙。
「……ミリアが一緒なら」
「陽菜が一緒なら……」
二人の声が重なった。
そして、なぜか二人とも笑ってしまった。
こうして、ミリアと陽菜の、少し特別な夏が始まった。
撮影当日。
青い空。
白い雲。
どこまでも続く海。
ミリアは淡いラベンダー色の水着に着替えていた。
陽菜は黒を基調にした水着。
いつもとは違う姿の二人が並ぶと、なんだか少しだけ恥ずかしい。
「……陽菜」
「なに?」
「本当にこれ、私たちがやるの?」
「もう着替えちゃったからね」
「そういう問題じゃないよ……」
ミリアが眼鏡を外して髪を整える。
その姿を見て、陽菜が笑った。
「ミリア、緊張してる?」
「してない」
「してる顔」
「……陽菜」
「ごめんごめん」
そう言いながらも、陽菜の顔にも少し緊張が浮かんでいた。
カメラマンが二人に声をかける。
「じゃあ、まずは二人で並んでみましょう」
ミリアと陽菜が並ぶ。
「もう少し笑ってみましょうか」
ミリアは笑おうとする。
けれど、どこかぎこちない。
そのとき、陽菜が小さな声で言った。
「ミリア、昨日食べたかき氷のこと思い出して」
「……今それ?」
「ほら、頭キーンってなったやつ」
「陽菜!」
思わずミリアが吹き出した。
カメラのシャッターが切られる。
「今の表情、いいですね!」
ミリアが驚いてカメラを見る。
陽菜が笑っている。
その笑顔につられて、ミリアもまた笑っていた。
それからの撮影は、不思議なくらい自然だった。
砂浜を歩く。
海の水に足を入れる。
陽菜がミリアに水をかける。
「ちょっと、陽菜!」
「撮影だから!」
「撮影なら何をしてもいいの?」
「たぶん!」
「たぶんって……!」
二人で笑う。
カメラマンは、そんな二人を追いかけるようにシャッターを切っていく。
ポーズを決める必要なんてなかった。
二人がいつも通りにしているだけで、そこにはちゃんと「二人の夏」が写っていた。
撮影の最後。
夕暮れの海を前に、二人は並んで座っていた。
昼間の明るい海とは違う。
オレンジ色の光が水面を照らしている。
「ミリア」
「なに?」
「今日、楽しかった?」
ミリアは少し考えた。
朝は緊張していた。
カメラの前に立つことも、水着姿になることも、最初は恥ずかしかった。
でも。
「……うん」
ミリアは小さく笑った。
「楽しかった」
「じゃあ、またモデルやる?」
「え?」
「次も二人で」
「……陽菜が一緒なら」
「じゃあ決まり!」
「まだ決めてないよ」
「えー!」
二人の会話を聞いていたカメラマンが、最後の一枚を撮った。
夕暮れの海。
肩を寄せ合う二人。
ミリアは少し照れたように笑っている。
陽菜はいつものように、楽しそうに笑っている。
それは、完璧に作られたグラビア写真ではなかった。
もっと自然で。
もっと普通で。
だからこそ、二人にしか撮れない一枚だった。
写真集のタイトルは、
『Milia & Hina ― Summer Days ―』
コンセプトは、「水着を見せる写真集」ではない。
二人の夏休みを、一冊の写真集に閉じ込めること。
海へ行ったこと。
砂浜で笑ったこと。
冷たいかき氷を食べたこと。
くだらないことで言い合ったこと。
そして、夕暮れの海を一緒に見たこと。
どれも、特別な出来事ではない。
でも。
大切な人と一緒に過ごした時間は、あとから振り返ると、いつの間にか特別な思い出になっている。
ミリアは完成した写真集を眺めながら、ふと思った。
自分はずっと、絵を描いてきた。
誰かの表情を。
誰かの思い出を。
誰かの大切な瞬間を。
でも、この夏。
自分自身も、一枚の写真の中に残った。
隣には、陽菜がいる。
それだけで、少し安心する。
「ねえ、陽菜」
「なに?」
「この写真……好きかも」
「どれ?」
ミリアが指差したのは、夕暮れの海で撮られた一枚だった。
陽菜が覗き込む。
「私も好き」
「……そっか」
「だって、ミリアが笑ってるから」
ミリアは少しだけ照れて、写真集を閉じた。
窓の外では、まだ夏の空が続いている。
今年の夏は、まだ終わらない。
きっと、これからも二人で笑う。
海に行ったり。
かき氷を食べたり。
絵を描いたり。
時々、手紙を書いたり。
そんな何気ない一日を、また一つずつ積み重ねていく。
そしていつか。
この夏を思い出したとき。
二人はきっと、同じことを言うのだろう。
「あの夏、楽しかったね」
たったそれだけの言葉で。
二人だけの夏が、いつまでも心の中に蘇る。
📖 ミリアの日々・特別編
「一日だけ、モデルになってください。」
今回は、7月の「海の日」「かき氷の日」など、これまでの二人の夏の日々からつながる特別編として、二人の関係性を中心にしたエピソードにしました。
水着姿そのものを目的にするのではなく、「親友と一緒だから、普段はやらないことにも挑戦できた」という物語にすることで、ミリアと陽菜のキャラクター性を活かしています。
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