教員はどの学生に研究的素質を見出すのか
ありがたいことに,私の研究を気に入って下さった方々から共同研究のお誘いを受けることが増えてきています.それにより,自分の大学の学生だけでなく,別の大学の学生たちの面倒を間接的にみることが急増しました.
十人十色の学生を見てきた中で「研究に向いた学生」とはどういう人なのか,私なりの理解をまとめたいと思います.
日本では,これから研究を始める学生も多いことと思います.研究が上手くいかないと悩んでいる学生もいるでことしょう.そういった学生達がどういった姿勢で研究に取り組むべきか,または何が足りていないのかを探り当てる一助になれば幸いです.
注意:私はEUでの研究経験の方が日本でのそれよりも大分と長い人間です.EU内でも様々な違いがある以上に,日本とEUのやり方はシステムからして違う部分があることを重々承知しております.ですので,そんな無茶なと思う部分があるかと思います.悪しからず.
研究に対する態度を見る
最近,子供たちが蟻んこ集めに熱中していたので,それを例にとります.
様々な学生がいますが,今回はみな蟻んこの研究をしたいとします.そのために,とりあえず蟻んこを集める必要があります.
学生A:蟻んこを集めたいのです.どういう蟻んこを集めるべきですか?
学生B:蟻んこを集めたいので,集めに行きました.すると,二種類の蟻がいることに気が付きました.どちらを集めるべきでしょうか?
学生C:蟻んこを集めたいので,集めに行きました.すると,二種類の蟻がいることに気が付きました.私が知っているいわゆる蟻んこと他に別の種類がいるのです.別の種類も集めた方がよいでしょうか?
学生D:蟻んこを集めたいので,集めに行きました.すると,二種類の蟻がいることに気が付きました.私が知っているいわゆる蟻んこを集めたのですが,その最中に別の種類がいることに気が付きました.別の種類も集めた方がよいでしょうか?
学生E:蟻んこを集めたいので,集めに行きました.すると,二種類の蟻がいることに気が付きました.なので,どっちもとりあえず集めて別々の容器に入れたもの,一緒の容器に入れたものを用意して観測していました,すると…(うんぬんかんぬん)ということで論文が書けると思ったのですがいかがでしょうか?過去の知見には疎いのでこれで本当に論文が書けるか心配で…(うんぬんかんぬん)
教員はどの学生を指導するか
時間は有限です.よって,教員は見込みのある学生を見つけます.何の見込みかと言われれば,一緒に研究を進める上で成果(論文)が出せそうか,というものです.
あくまでも論文を書くのは博士学生なので,学部生と修士の学生は博士の学生とともに行う研究のごく一部を任せても問題なさそうか,という基準で見ます.卒業論文は万人向けの研究に向けての練習の土台,修士論文は博士(研究)向きの学生かを決める判断材料といえると思います.
人柄も重要ですが,研究ができて人柄が耐えられないくらいおかしいという人はほとんどいないと思います.その意味で,天は二物も三物も与えている場合がほとんどです.
ということで,学生E(ないしD)がいわゆる博士学生に求められている素質(理想像)だと思います.学生Dはいい線をいっているので指導しがいがあります.修士学生にもたまにいます.
学部生や修士学生に比較的多くみられる学生Cにはは少し丁寧に教えることがあります.学生Aと学生Bは研究生活において大変苦労することになるでしょう.残念ながら,学生Cの数は意外と多くないのです.
インタビューした時点で学生A・Bはその気が見受けられるので,一緒に研究を進める対象にはしません.お互いに苦労してしまうので.
注意:日本のやり方とは違うぜ,と思う方々がおられるかと思います.私がいる大学は米国のトップ大学ほどではないものの,論文至上主義に近い考えを持っています.
ちなみに
「本当に賢い奴らはみんなアカデミアには残らず企業に行く」なんていう言説をネット上で見聞きします.これを見て,企業経験のない博士学生達は「そうだよね~」と流されて自信を無くすかもしれません.
安心してください.お金を稼ぐ能力は研究を進めるそれとはまた違うのです.
自分が研究で成果を出せなかった理由を,アカデミアの構造や実力ではなく,この説明に求める人がいる,というだけです.
もちろん,先の学生Eが起業する場合など,例外はいくつもあります.概ねそうだという話です.
万国共通の赤信号
万国共通で「べき?」で質問してくる学生は赤信号です.自分で判断できないことはあると思いますし,答えを求めたくなる気持ちも分かります.しかし,それを露呈していることに気が付いていないのは致命的です.
コラボレーション先にこういった学生が混ざっている可能性があります.特に日本の大学には,決まった人数の学部生が割り振られるようになっているからです.成績順などで割り振られる場合は尚更です.
また,日本では修士の学生が主戦力になっている場合も多く,学生数の多い大学では学生Cがちゃんと訓練を積めていないままであることもあります.
研究に向いた学生
総合すると,自律した人間であること,が研究に向いた学生の条件ではないでしょうか.
もちろん,その素養は経験とともに培われていくものですから初めから諦める必要はありません.しかし,研究を始める時点で既に学生Cであることは最低条件であると思います.
そうでないと,後々苦労することになるでしょう.
