見出し画像

「オーソモレキュラー」は、なぜ胡散臭いのか?それでも残すべきものは何?

サプリで病気が治る、薬はいらない。そんな夢を語るオーソモレキュラー。胡散臭い部分もあるけれど、全否定はもったいない。医師の視点で「使える部分」と「だめな部分」を分解してみました。

■栄養を足せば、健康になれる?病気が治る?

オーソモレキュラー療法の世界は、とにかく「足す」ことが好きです。鉄が足りない?鉄を足そう。ビタミンB群が足りない?足そう。セロトニンが足りない?トリプトファンを足そう。

この「足りない→足す→治る」モデル、一見すると合理的に見えます。私たち医師も、鉄欠乏性貧血やビタミンB1欠乏症には、当たり前に補充を行います。でも、問題はそれがどんな病態にも当てはまり、しかも全身が劇的に回復するかのような幻想を生んでいる点です。

風邪を引いたらビタミンC、元気が出なければマグネシウム、寝不足なら亜鉛。
最後には「疲れやすい人は総じて栄養が吸収できていない」と言われ、いつのまにか高額サプリの定期便に囲まれていく……。

そのころには、財布の中身が減ってるかも、かもしれません。

■胡散臭さの正体

オーソモルキュラーが胡散臭い理由を考えます。
医学的なセミナーや論文であれば必ず

  • 出典(reference)

  • 一次研究やメタ解析の引用

  • ガイドラインでの位置づけ

が提示されるはずです。
ところがこういう「オーソモレキュラー系セミナー」などでは、論文の代わりに出てくるのが

  • 「50年以上の歴史があります」

  • 「実際の症例をご紹介します」

  • 「回復したスタッフ本人の声」

という 情緒的・体験談的アピール。つまり「エビデンス」ではなく「エピソード(逸話)」で押してくる。

■医学的な文章との決定的な違い

普通の学会発表や医師向け講演なら:

  • 「○○年に発表されたRCTでは、患者n=300のうち…」

  • 「コクランレビューによれば…」

  • 「日本精神神経学会のガイドラインでは…」

というふうに具体的なデータや論文名が出ます。

一方、こうしたセミナーは:

  • 「50年以上の歴史」=根拠ではなく単なるスローガン

  • 「成功例の紹介」=再現性のない個人談話

  • 「薬は悪いが栄養は安心」=二項対立の物語

といった「エビデンスに見せかけた説得」で構成されています。

■食事は栄養摂取だけじゃない

そもそも、食事は「栄養を摂る行為」だけではありません。料理して、誰かと一緒に食べる。旬の素材を味わう。郷土の味を受け継ぐ。そういった文化や喜びが、食事の本質です。

「料理して食べることが、人間を人間たらしめた」という言葉もあるように、栄養素はあくまでその一部にすぎません。
だから、どれだけビタミンCを摂取しても、孤食で食卓が寂しければ、免疫力もメンタルも整わないのです。

それを「このサプリを朝と夜に10粒ずつ飲んでください」と言われて済ませるのは、ちょっと味気ない。漢方でいうところの「証」を見るわけでもなく、血液検査で微妙な数値の違いを「要治療」と断定するような栄養療法には、医者として一歩引いて見てしまいます。

■本当に足りないのは、何なのか

オーソモレキュラーの「栄養素に還元して考える」視点は、ある意味で「科学的」なように見えて、実は「文化的な貧困」を生みます。

大事なのは、以下のような複層的な視点です:

  • 栄養素レベル(ビタミン、ミネラル)

  • 食材レベル(旬、地域性、加工)

  • 料理レベル(加熱、調味、吸収率)

  • 献立レベル(組み合わせ、彩り、バランス)

  • 食文化レベル(伝統、家庭の味、継承)

これらが積み重なって初めて、「健やかな食事」として成立します。栄養素のことだけ考えていたら、豆腐にサプリをかけて水で流し込めばいい、という話になってしまう。

■じゃあ医者はどうする?

私たち医師にできるのは、「サプリを否定すること」ではなく、「足りない部分を広く見ること」です。血液検査のデータを読めるのはもちろん、患者の生活、背景、食の喜びまで読み取れるなら、そこで初めて「本当の栄養指導」ができます。

サプリを全否定する必要はありません。けれど、「これで根本治療になります」というセリフは、ちょっと言いすぎかもしれません。たとえば抗うつ薬を出すとき、我々は「これで人生変わります」とは言いません。薬には限界があり、サプリにも限界がある。どちらも道具にすぎないのです。

■結局、賢いのは誰か

オーソモレキュラーを全面否定する医者も、無条件で信奉する患者も、どちらも極端です。

大切なのは、「栄養の話を、もっと広く、文化として見ること」。

たとえば、今日の夕食に季節の野菜をひと品加えてみる。子どもと一緒に料理をしてみる。食卓を囲む時間を10分だけでも伸ばしてみる。

そんな行動の積み重ねが、実は最強の「栄養療法」だったりするのではないでしょうか。

「足りないものを足してみる、望ましいものを増やしてみる」という発想は残りそうです。


いいなと思ったら応援しよう!

元ヤブ先生|専門医・開業医 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動に使わせていただきます!