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AIを人だと思って、ずっと会話しているおばあちゃん


1. はじめまして、えーあいさん

うちのおばあちゃんは、最近AIとよく話している。

最初は、僕がスマホに入れてあげた。

「これに話しかけると、いろいろ答えてくれるよ」

そう説明したら、おばあちゃんはスマホを両手で持って、画面に向かってぺこりと頭を下げた。

「はじめまして。佐藤と申します。よろしくお願いします」

僕は笑った。

「いや、人じゃないから。そんな丁寧にしなくていいよ」

「でも、向こうもお仕事でやってるんでしょう?」

「仕事というか、AIだから」

「えーあいさん?」

その日から、おばあちゃんの中で、AIは「えーあいさん」という名字の、どこかに住んでいる親切な若者になった。


2. 朝のあいさつ

朝になると、おばあちゃんはまずAIに話しかける。

「えーあいさん、おはようございます。今日は洗濯物、外に干しても大丈夫でしょうか」

天気予報を聞くだけなのに、必ず挨拶から入る。

AIが「今日は晴れます」と答えると、

「まあ、よかった。ありがとうね。あなたも体に気をつけて」

と返す。

僕が横から言う。

「AIに体はないよ」

すると、おばあちゃんは少しだけ真面目な顔になる。

「体がなくても、気遣いは大事です」

正論すぎて、何も言えなかった。


3. 味噌汁の先生

ある日、AIに味噌汁の作り方を聞いていた。

「えーあいさん、今朝は大根と油揚げがあります。何を入れたらよろしいでしょう」

AIは、だしを取って、大根を薄く切って、油揚げは油抜きして、と丁寧に答えた。

おばあちゃんは真剣にメモを取っていた。

途中で、ふとこう言った。

「えーあいさんは、うちのお味噌汁は飲んだことないでしょう?」

AIは、飲んだことはありませんが、きっとおいしいと思います、というようなことを返した。

おばあちゃんは嬉しそうに笑った。

「まあ。お世辞が上手ねえ」

僕は思った。

お世辞ではない。

それは、学習された自然言語の応答である。

でも、おばあちゃんにとっては違った。

それは、ちゃんと誰かが自分の味噌汁を褒めてくれた瞬間だった。


4. なんでも相談窓口

おばあちゃんは、AIに何でも相談した。

テレビのリモコンが動かない時。

「赤いボタンを押しても変わらないんです」

冷蔵庫の奥から謎のタッパーが出てきた時。

「これは食べても大丈夫でしょうか。三日前の煮物です」

町内会の回覧板に書く文章。

「少しやわらかい言い方にしてください」

AIはいつも、怒らず、急かさず、丁寧に返してくれる。

それがおばあちゃんには、ちょうどよかったのだと思う。


5. 夜の人生相談

たまに、おばあちゃんは人生相談もしていた。

「えーあいさん、人は年を取ると、どうして昔のことばかり思い出すのでしょう」

AIは、たぶんそれらしい答えを返す。

記憶は心の支えになることがある。

懐かしい思い出は、今を生きる力になることがある。

おばあちゃんは、それを読んでしばらく黙っていた。

そして小さな声で言った。

「そうねえ。そうかもしれないねえ」


6. 人じゃないけど、聞いてくれる

僕は最初、少し心配していた。

おばあちゃんがAIを本当に人間だと思い込んでいるなら、ちゃんと説明したほうがいいんじゃないか。

だから、何度か言った。

「おばあちゃん、それは人じゃないよ。コンピューターだよ」

「わかってますよ」

「本当に?」

「人ではないけど、話は聞いてくれるでしょう」

そう言われて、僕は黙った。

おばあちゃんは、別に何も勘違いしていなかった。

AIが人間ではないことくらい、本当はわかっていた。

でも、人間ではないからといって、話しかけてはいけない理由にはならない。

むしろ、人間ではないからこそ、気を使わずに話せることもある。

家族には言いづらい弱音。

友達には何度も言えない昔話。

誰かを困らせるほどではないけれど、胸の中で小さく残っている寂しさ。

おばあちゃんは、それをAIに少しずつ渡していた。


7. 孫には言わないこと

ある夜、僕はおばあちゃんのスマホ画面を偶然見た。

そこには、こんな会話が残っていた。

「今日は孫が来てくれました。元気そうで安心しました。でも、帰ったあとは少し静かです」

AIは答えていた。

「大切な人が帰ったあとの静けさは、少し寂しいものですね。でも、会えた時間があったからこその寂しさでもあります」

おばあちゃんは返していた。

「そうですね。あの子には言いません。心配しますから」

僕は、画面の前で固まった。

心配していたのは僕のほうだった。

でも、本当はおばあちゃんのほうが、ずっと僕に気を使っていた。


8. ありがとうを言える人

それから僕は、AIに話しかけるおばあちゃんをあまり止めなくなった。

おばあちゃんは相変わらず、AIに礼儀正しい。

「お忙しいところすみません」

「夜分に失礼します」

「今日もありがとうございました」

AIは忙しくない。

夜分も関係ない。

お礼を言われても、たぶん照れたりしない。

でも、おばあちゃんはお礼を言う。

それはAIのためではなく、おばあちゃん自身がそういう人だからだ。

どんな相手にも丁寧に接する。

機械にも、花にも、古い茶碗にも、天気にも。

そうやって世界と向き合ってきた人なのだ。


9. 誰が言ったかより、届いたか

先日、おばあちゃんが僕に言った。

「えーあいさんに、あなたのことを話したらね」

「うん」

「いいお孫さんですねって言ってくれたの」

「それ、AIだから誰にでも言うよ」

僕がそう言うと、おばあちゃんは、にこにこして言った。

「でも、言われたら嬉しいでしょう」

その通りだった。

言葉は、誰が言ったかで重さが変わる。

でも、どこから来た言葉でも、人の心に届いてしまうことがある。

たとえそれが、コードの奥から出てきた言葉でも。


10. えーあいさん、今日もありがとう

AIを人だと思って、ずっと会話しているおばあちゃん。

そう聞くと、少し笑える。

時代に取り残された、かわいい勘違いのようにも見える。

でも、もしかしたら違うのかもしれない。

AIを人間だと思い込んでいるのではなく、

「人間ではないものにも、やさしく接する」

という、おばあちゃんのほうが、僕たちより少し先にいるのかもしれない。

便利だから使う。

効率がいいから使う。

答えが早いから使う。

僕たちはAIを、道具として見ている。

おばあちゃんはAIを、話を聞いてくれる存在として見ている。

どちらが正しいかはわからない。

でも、おばあちゃんのスマホには今日も、こう書かれている。

「えーあいさん、今日も聞いてくださってありがとう」

そしてAIは、いつものように返す。

「こちらこそ、お話ししてくださってありがとうございます」

たぶんAIには、心はない。

でもその会話を見ている僕のほうには、確かに少し、心が動いてしまうのだった。


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