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ラスボス、noteを始める

〜世界征服より難しい「毎日投稿」〜


魔王城の最上階。
黒い雷が鳴り、赤い月が空に浮かぶ夜。

玉座に座るラスボス・ザルガディアは、深いため息をついていた。

「……世界征服、飽きたな」

側近の悪魔が震えながら聞き返す。

「は? 今なんと?」

「だから、飽きたと言ったのだ。勇者は来ないし、四天王は会議ばかりしているし、魔物たちは福利厚生の話しかしない」

ザルガディアは巨大な爪でスマホをいじりながら言った。

「これからは発信の時代だ」

「発信……?」

「noteを始める」

こうして、世界を滅ぼすはずだったラスボスは、なぜかクリエイター活動を始めた。


第1話

ラスボス、初投稿で自己紹介する


ザルガディアの初投稿タイトルはこれだった。

はじめまして、世界を半分ほど闇に染めている者です

本文は意外にも丁寧だった。

はじめまして。
魔界第七領域を統べるザルガディアです。
普段は人類滅亡、古代封印の解除、勇者の育成妨害などをしています。
このnoteでは、日々の気づき、魔王城運営、闇のマネジメント、世界征服の裏側などを発信していきます。

側近は読んで震えた。

「陛下……かなり普通です」

ザルガディアは満足げにうなずいた。

「いきなり滅亡論を書くと読者が引く。まずは自己開示だ」

「自己開示……」

「人は、何者か分からない相手の破滅思想にはついてこない」

妙に発信者っぽいことを言い始めた。


第2話

ラスボス、タイトルに悩む


2本目の記事で、ザルガディアは早くも壁にぶつかった。

「タイトルが決まらん」

机の上には、ボツ案が並んでいた。

  • 人類を滅ぼす前に考えたい3つのこと

  • なぜ私は勇者を待ち続けるのか

  • 魔王城で学んだ、部下が辞めない組織づくり

  • 世界征服に失敗する人の共通点

  • ラスボス視点で見る、勇者のキャリア形成

側近は言った。

「陛下、どれも妙に読みたくなります」

「そうだろう」

ザルガディアは真剣な顔で言った。

「だが、少し弱い。もっと“つい押してしまう感じ”がほしい」

そして最終的に投稿されたタイトルは、

勇者へ。お前が来ないせいで、私はnoteを始めた。

初めてスキがついた。

ザルガディアは玉座から立ち上がった。

「来た」

「勇者ですか!?」

「スキだ」

世界征服より小さい通知に、ラスボスは震えていた。


第3話

ラスボス、スキ数を気にする


翌朝。

ザルガディアは人類監視水晶ではなく、noteのダッシュボードを見ていた。

「……昨日の記事、スキが12」

側近は拍手した。

「素晴らしいではありませんか」

「いや、少ない」

「少ないのですか?」

「隣の魔王が書いた『地獄で見つけた小さな幸せ』が86スキだ」

側近は黙った。

ザルガディアは悔しそうに言った。

「なぜだ。あいつは昨日、村を3つ焼いただけだぞ」

「たぶんタイトルが柔らかいのでは」

「柔らかさか……」

その日、ザルガディアは記事タイトルを変更した。

世界を滅ぼしたい私が、朝のコーヒーで少し救われた話

スキが伸びた。

ラスボスは理解した。

「滅亡にも、生活感が必要なのか」


第4話

ラスボス、タグを研究する


ザルガディアは本気になった。

「noteはタグが大事らしい」

彼は黒魔術の古文書よりも真剣にタグを調べ始めた。

候補はこうだった。

側近が聞いた。

「#世界征服 は強いのでしょうか?」

ザルガディアは首を振った。

「ニッチすぎる。読者の母数が少ない」

「では #闇 は?」

「抽象的すぎる」

「では何を?」

ザルガディアは静かに言った。

「#日記、#エッセイ、#仕事について話そう」

「陛下、人間界に寄せすぎでは?」

「読まれなければ、存在しないのと同じだ」

ラスボスは、発信の闇に飲まれ始めていた。


第5話

四天王、記事のネタにされる


ある日、四天王たちは激怒していた。

炎の将軍バルドが叫ぶ。

「陛下! 我々を記事にしましたね!?」

ザルガディアは平然としていた。

「した」

記事タイトルはこれだった。

部下が強すぎて逆にマネジメントが難しい話

本文には、四天王の問題行動が赤裸々に書かれていた。

炎の将軍は感情的になりやすい。
氷の魔女は会議で冷えた正論を言いすぎる。
毒の参謀は根回しが上手すぎて逆に怖い。
巨岩の戦士は返事が「うむ」しかない。

四天王は震えた。

「これ、我々のことですよね?」

ザルガディアは言った。

「安心しろ。固有名詞は出していない」

「ほぼ出ています!」

しかし、その記事は伸びた。

コメントもついた。

わかります。部下が優秀すぎると逆に難しいですよね。

ザルガディアは感動した。

「人間にも四天王がいるのか」

側近は言った。

「たぶん会社の話です」


第6話

ラスボス、勇者に読まれる


数週間後。

ついに事件が起きた。

勇者が、ザルガディアの記事にコメントしたのだ。

勇者アレン
いつも読んでいます。敵ながら、組織論が参考になります。

魔王城に緊急警報が鳴った。

「勇者です! 勇者からコメントです!」

側近は叫んだ。

「攻撃ですか!?」

「違う」

ザルガディアはスマホを握りしめていた。

「読者だ」

勇者はさらにコメントした。

特に『なぜ部下は会議で黙るのか』が刺さりました。
うちのパーティーでも似た問題があります。

ザルガディアは静かに返信した。

ありがとうございます。
敵味方は違えど、組織課題は共通ですね。

側近は頭を抱えた。

「陛下、交流しないでください。敵です」

「敵でも読者は読者だ」

ラスボスは、完全にクリエイターになっていた。


第7話

ラスボス、有料記事を出す


ある日、ザルガディアは宣言した。

「有料記事を出す」

側近は驚いた。

「ついに人類から金を取るのですね!」

「言い方が悪い」

有料記事のタイトルは、

世界征服に失敗しないための7つの思考法

価格は500円。

内容はかなり実用的だった。

  1. 最初から全世界を狙わない

  2. まずは小さな村で検証する

  3. 勇者の成長速度を甘く見ない

  4. 部下の忠誠心を定期的に確認する

  5. 古代兵器に依存しすぎない

  6. 闇の力より物流が大事

  7. 最後は理念が勝つ

側近は読んで言った。

「陛下、これは普通に経営本です」

「そうだ。世界征服とは、結局スケールする事業だからな」

有料記事は売れた。

なぜか人間の起業家にも売れた。

コメント欄にはこう書かれていた。

スタートアップ経営に通じるものがありました。

ザルガディアはつぶやいた。

「人間界、だいぶ魔界に近いな」


第8話

ラスボス、毎日投稿に苦しむ


しかし、発信活動は甘くなかった。

最初は楽しかった。

ネタもあった。

魔王城の日常。
四天王の愚痴。
勇者への未練。
世界征服の失敗談。

だが、30日目。

ザルガディアは限界を迎えた。

「書くことがない」

側近は言った。

「世界を滅ぼせばネタになるのでは?」

「それは重い」

「ラスボスなのに?」

「読後感が悪い」

ザルガディアは頭を抱えた。

そして苦し紛れに投稿した。

今日は何も滅ぼせなかった

ところが、この記事が妙に伸びた。

コメント欄には、

こういう日もありますよね。
無理せず続けてください。

何もできなかった日の文章に救われました。

ラスボスでもそういう日があるんですね。

ザルガディアは画面を見つめた。

「……そうか。弱さもコンテンツになるのか」

側近は小声で言った。

「陛下がどんどん人間っぽくなっている」


第9話

ラスボス、バズる


そして、ついにその日は来た。

ザルガディアの記事がバズった。

タイトルは、

勇者が来ないので、自分で自分の人生を進めることにした

この記事は、魔界だけでなく人間界にも広がった。

内容はこうだった。

ずっと勇者を待っていた。
私を倒しに来る誰かを。
私の存在に意味を与えてくれる敵を。
だが、勇者は来なかった。
だから私は、自分で書くことにした。
誰かに倒されるためではなく、誰かに見つけてもらうためでもなく、自分の中にある闇を、言葉にするために。

人々は泣いた。

魔物たちも泣いた。

四天王も少し泣いた。

勇者もコメントした。

すみません、最近こちらも忙しくて行けてませんでした。
でも、読んでいます。

ザルガディアは返信した。

来なくていい。
ただ、読んでくれ。

こうしてラスボスは、倒されるべき存在から、読まれる存在になった。


第10話

そして世界征服は延期された


数ヶ月後。

ザルガディアのnoteフォロワーは1万人を超えた。

魔王城には、以前とは違う緊張感があった。

「陛下! 北の王国を攻める準備が整いました!」

「待て」

「なぜですか?」

「今日の20時に記事を投稿する」

「侵攻より投稿ですか!?」

「投稿時間は大事だ」

側近は震えた。

「世界征服の予定は……」

ザルガディアはカレンダーを見た。

「来月にリスケだ」

こうして人類は救われた。

勇者が勝ったからではない。
聖剣が光ったからでもない。
古代の預言が成就したからでもない。

ラスボスが、noteの毎日投稿で忙しくなったからである。


あとがき


その後、ザルガディアは人気クリエイターになった。

プロフィールにはこう書かれている。

元・世界征服志望。
現在は魔王城運営、組織論、日々の気づきについて書いています。
たまに闇を吐きます。

そして、最新記事のタイトルはこれだった。

世界を滅ぼすより、毎日書き続ける方が難しい

スキ数は、過去最高。

ザルガディアは玉座で静かに笑った。

「ふふ……ついに分かったぞ」

側近が聞く。

「何がですか?」

ラスボスは言った。

「世界を征服するには、まず読者の心を征服せねばならぬ」

側近はしばらく黙ってから、こう言った。

「陛下、それ、普通に良いこと言ってます」

ザルガディアは少し照れた。

そして、次の記事の下書きを開いた。

タイトルは、

魔王城で学んだ、続ける力

だった。

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