「バオバブ戦記」第3話#創作大賞2024 #漫画原作部門
「甘すぎて吐き気がするわ。ココナッツミルクよりも……。じゃが、その甘さ嫌いじゃない」
*****
「さあ、第二章。アルビノ狩りの始まりだ。グローツラングはあの小さな体の中にいるぞ」
やれ。指揮官の合図と共に一斉に兵たちがココナッツに向けて火を放つ。
「グローツラングは大蛇って聞いてたけど、こんなに可愛い女の子だったの」
アナンシは大剣を一振り。火は一瞬にしてかき消えた。
「あまりに綺麗だ。これは一目惚れかもしれない。グローツラング、僕の一人目の妻にならないか」
アナンシはそう言って兵たちをそっちのけにココナッツの手を取った。
「わしはグローツラングじゃない。ココナッツじゃ。第一婦人なんぞいやじゃ。わしを娶りたいなら一途に愛せ」
「意外といけそうなのかよ。まずはこの状況を何とかしないと。僕たちの婚姻の儀はそのあとだ」
「誰も結婚するとは言っておらんじゃろうが」
アナンシは兵たちの方に向き直った。
「次から次へと。これだから人生は面白い。私たちはグローツラングを討伐し、アルビノの身体を手に入れる。邪魔をするならお前を殺す」
兵がアナンシに向けて一斉に火を放った。
「残念ながら君たちの願いは叶わない。ココナッツはもう僕のものだ」
「ちがうわい」
「君は下がってて」
アナンシは大剣を振るう。
火は瞬く間に消えてしまう。
「ぐうっ、体が動かん」
アナンシが大剣を振るった直後、指揮官と兵たちは見えない何かに体を拘束されたかのように動けなくなってしまった。
「糸か。これが貴様の祝福」
「祝福なんかじゃないさ。これは呪いだ。神がアフリカに与えた力は争いを生んだ」
「呪いか……。言い得て妙だな。私の呪いは炎だ。私の野望はどこまでも燃え盛る」
指揮官の体が炎に包まれ、糸を溶かした。
「まじか。そこまでするかよ」
「呪いごときが私を縛れると思うなよ」
火柱と共に指揮官はアナンシに突っ込んでいく。
「くそっ、あちいな」
指揮官の突き出した拳を大剣の刀身で受け止める。
「炎は僕の糸とは相性が悪いな」
「貴様も炎に焼かれてみるといい。最上の心地がするぞ」
指揮官の蹴りがアナンシの手首にヒットし、大剣が宙を舞う。
「共に燃え盛ろう」
指揮官はアナンシを羽交い絞めにし、二人は炎に包まれた。
「おい、たわけ。無事か」
ココナッツが炎に向かって叫ぶ。
「心配しないで。僕は君を幸せにするまでは絶対に死なない」
「やかましいわ」
宙に跳ね上げられた大剣が、炎の渦の中に引き寄せられて行く。
そして、炎の渦に突っ込んだ大剣はアナンシと指揮官の体を吹き飛ばした。
「僕の糸はね、炎でも溶かすことはできないんだ」
「糸が溶けたように感じたのは、ブラフだったか」
「さすがに熱すぎるからさ、ちょっと涼もうよ」
二人が吹き飛ばされた先は、オレンジ川だ。
*****
「ありがとう。助けてくれて」
「当然じゃないか。妻を助けるなんて」
「誰が妻じゃ」
「君だよ。君の美貌は僕の妻にふさわしい。僕は世界中の美女を娶るんだ」
「たわけが。誰がそんなやつの妻になるか」
「僕は諦めないよ」
「わしはアルビノじゃぞ」
「そんなこと関係ないよ。僕はこんなにも美しい色を今まで知らなかった」
「常に命の危険と隣り合わせなのじゃぞ」
「僕が守るよ。君を絶対に傷つけさせない」
「お前は本当に優しい男じゃのう。わしを襲ってきたやつらすら傷つけることはなかった」
「僕はね、誰にも傷ついてほしくないんだ。アフリカを誰も傷つくことなく、幸せに暮らせるところにするんだ」
「傲慢じゃな。そんなことできるわけなかろうに」
「僕は傲慢さ。誰にも傷ついてほしくない。自分の願いのために戦う。そのためにみんなが信仰している神もバオバブの樹もアフリカからなくそうとしているんだ。神なんかよりよっぽど傲慢さ」
「ほお。あまりに甘すぎる。甘すぎて吐き気がするわ。ココナッツミルクよりも……。じゃが、その甘さ……嫌いじゃない。わしも連れていってくれんか。お前の戦いを見届けたい」
「やっぱり僕の妻になりたかったんじゃないか」
「妻になるとは言っておらんじゃろうが」
「まあ、とにかく。僕はアナンシ。よろしくね、ココ」
「しゃしゃしゃしゃ、よろしく頼む」
*****
第3話完。
